49 怪盗少女との出会い
この光景はにわかに信じがたい。
自分の家に怪盗がいるんだぞ。場違いすぎるだろう。
「これは家主殿、ごきげんよう。いつも通り予告状を出したかったんだがあまりに普通な家で出せなかったことを許して頂きたい」
普通な家で悪かったな。
振り向いた怪盗ティーナはそんな言葉を発した。
女の声だ。……さすがに変声はしてないと思う。
元々怪盗ティーナは基本予告状を出して盗みに入るものだ。
でもこの家に予告状を出すってのは確かにバカらしいと。
むしろ……ギルドに返してから予告状を出して盗みに来てほしかった。
責任を取らされることになったんだぞ!
腹が立ったので速投げでポーションをぶん投げてみた。
女って噂だが知ったことか! 死にはしない。
「ふん!」
怪盗ティーナに軽やかに避けられる。
人に投げる時は速度を落とすようにしているのでやはり避けられてしまう。
「不必要なものを全部返そうと思ったがタイムアップのようだ。残りは後日返しに来よう! さらばだ!」
怪盗ティーナは窓ガラスを突き破って、去っていた。
「俺んちを壊すんじゃねぇぇぇええ!」
窓を開けて、逃げた先をのぞき込むがすでに消え失せていた。
くっそ……修理費用を置いてけよ……。
さすが怪盗だけあって逃げ足がはやい。さすがに追いつかないだろう。
「ヴィーノ……これ」
「お、怪盗からメッセージもあるじゃん」
カナディアとアメリがさきほど怪盗ティーナがガソゴソしていた所の様子を見ている。
近づいてみるとたくさんの宝石類がそこはあった。
怪盗に盗まれたものの大半がそこにはあった。
「これらの宝石は盗品や犯罪組織のものではないと分かりましたので返却致します……だそうです」
カナディアが予告状と同じ材質のカードを読み上げる。
怪盗ティーナは義賊みたいなものである。俗に言う悪者以外から盗んだお宝は返却しているのだ。
怪鳥が奪った宝石類が多すぎて怪盗も全部一度に調べきれなかったのか。
あの新聞に載っていたのは確かに悪者が所有している宝石類だった。
結局盗まれたのは悪者が所有している4つの宝石と……まだ返却しきれてないやつがあるって言ってたな。
「ヴィーノ、ルビーの指輪がまだ戻ってきていません」
「ああ、あれも一緒に入ったままだったか」
怪鳥をおびき寄せるに使用したルビーの指輪がまだ戻ってきてなかった。
恐らく怪盗ティーナが返しそこなった宝石類の中にあるのだろう。
「だったら怪盗ティーナの居場所が分かるかもしれません」
カナディアはペアで買ったという同じタイプのルビーの指輪を取り出した。
「どういうこと?」
「あの指輪は黒魔術で互いの居場所がある程度特定できるようになっているんです。だから怪盗ティーナが持ったままなら分かると思います」
カナディアがルビーを覆うように手を翳す。
するとルビーから小さな光が出現したのだ。
「この光の大きさでだいたいの距離が分かるのです。これでいつでもどこでも居場所が分かりますよ」
「ちょっと待てい」
今、黒魔術って言ったよな! なにそれ、俺まったくそんな話を聞いてないんだけど。
「カナディア、君はまさか俺の居場所をこれで常に監視していた……そういうことか?」
「きゅん?」
カナディアがあざとく笑う。
かわいいな……くそっ。
「アメリ、カナディアを死ぬほどくすぐっていいぞ」
「分かったぞ!」
「いやああああ! だって夫の監視は妻の義務、にゃははははは、やめぇぇえぇぇ!」
思えば俺がどこにいようとカナディアは察して追跡してきた。
思い込みから来る執念かと思っていたけど……そういうことだったんだな。
さてと……。逆転の目が出てきた。
だが、すぐに特攻してはおそらく逃げられる。
なら……いろいろ仕掛けさせてもらおうか。
相手の居場所が分かり、正体が分かるなら、負けやしない。






