48 盗まれちゃった
「はぁ……」
「だ、大丈夫ですか?」
冒険者ギルドを出た俺をカナディアは心配そうに出迎えてくれる。
「めちゃくちゃ怒られた……」
怪鳥討伐は良かったものの、回収した宝石の半分以上を奪われてしまったことを報告したら王都のギルドマスターからしこたま怒られてしまった。
「まさか……空き巣に入られるなんてまったく気付きませんでした」
「俺も……」
多分夜中にがたごとしていたあの時だ。
あのタイミングはちょうどカナディアでしっぽり楽しんでいたところだったんだ。
この俺があんなミスをするなんて……、せめてお宝を寝室に持ってきておくべきだった。
「まさかS級から降格ってことはないですよね……」
「それはさすがにね」
様々な罰則を受けることになったケド。
S級にも実は位があってS+級、S級、S-級の3種がある。
俺とカナディアはS-級。
S-級はひよっこという扱い。一番下のランクだからこれ以上下がることはない。
S級になるのが相当難しいので懲罰が原因でA級に落ちることは基本無いそうだ。
その変わり死ぬ気で働かさせる。ある意味これが罰である。
「これからどうします?」
「犯人捜しをしろって言われたけど……どうしたものかな」
翌朝、宝石類が奪われていることに気付いて家の中を探しまわったけど見つからず、結局そのまま報告をするしかなくなった。
王国警察に事情を話して調査をしてもらう予定だけど……ほんと大失敗だ。
「はぁ……」
「私も一緒に怒られるべきなのに……、1人で罪を被らなくてもよかったんですよ」
「黒髪の件があるからな。カナディアの名誉をこんなことで傷をつけるわけにはいかん」
「私はヴィーノが傷つくのが嫌です!」
「いいよ、いいよ。いっぱい触らしてもらってるし」
「え?」
恐らく聞こえていなかったはず。
カナディアの言いたいことも分かるが、カナディアの夢は俺の夢でもある。こんなことで経歴に傷をつけさせてたまるもんか。
今回は俺が管理するということで全ての責任を俺がもらった。
元々今週は休みをもらう予定だったから宝石強盗事件の調査でもしてみるか。
さて、どこから探してみたものか。
俺とカナディアは木陰のベンチに座り考える。
そんな時ふと後ろを向くと青のツーサイドアップの髪を揺らしてゆっくりと近づいてくる女の子の姿があった。
何やってんだこの人。
子供にしか見えないその姿だが彼女は風車の二つ名を持つS級冒険者だ。
アメリとその名を呼ぼうとしたが意図が見えたのでやめることにした。
彼女は俺とカナディアの昇級の試験官をしてくれて、王都に来てからも相当面倒を見てくれている。
アメリはソロリと近づき、カナディアの後ろへと立った。
さすがの抜き足だ。気配察知の優れるカナディアがまったく気付かない。
「こんにちは~~~! カナディア!」
「ひゃああああん!」
そしてアメリお得意のくすぐり攻撃である。
カナディアが一番苦手とする両腋の下を攻められ、思わずすってん地面に転んでしまった。
「ニャハハハハ、や、やめ、ワキはらめぇぇぇ!」
「そうか、そうか。相変わらずかわいいなぁカナディアは」
それは思う。
地面で倒れるカナディアを組み伏せて、弱点を徹底的に攻めだした。
「オラ、ヴィーノ。脇腹が空いてんぞ」
確かに……カナディアのくびれた脇腹がガラ空きの状態だった。
そう言われると攻めたくなってしまう。
俺はカナディアの脇腹を乱暴に揉みほぐす。
「いやああああ、2人とか無理ぃ……!無理ぃぃ! ひゃははははははは!」
◇◇◇
「はひ……はひ……」
息絶え絶えで白目むきかけているカナディアをとりあえずベンチで寝かせて、アメリと話をする。
「それでどうしたんだ?」
「おう! 急ぎの話をしたくてな、会いに来たんだよ」
「急ぎの話をするのにくすぐる必要はあるのか?」
「それはそれ」
アメリは新聞を俺に手渡す。
この王国で最も大きい新聞社であるキングダムタイムズの夕刊だ。
まだお昼過ぎのこの時間は発行されてないと思うけど……コネでもらってきたのか。
「見てみな」
一面を見て見る。
「怪盗ティーナ、今度もお手柄! お宝を貧民街にばらまき施しを与える……。ってこれ!」
新聞には売り払われた宝石類の詳細が書かれていた。
全部……全部それは全て俺の家から持ち出されたものであった。
怪盗ティーナ。
ここ半年くらい前から現れ始めた神出鬼没の盗人である。
予告状を出して、人を集めて、そこに堂々と現れる。
魔法のような奇術を使いお宝をかすめ取る。
特徴的な黒のウイッチハットにシルバーのマスク。紫のウイッチドレスからは華奢な印象を見受けられた。
盗み先は決まって悪徳貴族やマフィアや悪徳な地上げ屋と【貧民街】に仇を成す者達である。
格好からして女であることは分かっているが、圧倒的な技術で盗み出す手口はまさに神業と言ってもよい。
盗んだものは貧民街で売りさばかれ、分け与えられているそうだ。
言えば義賊といわれる者だろう。
「でも俺は悪徳貴族じゃないだろ!?」
「怪しいポーションばっか作ってるからじゃねーか? それは冗談として……実際の所、全部盗まれたわけじゃねぇんだろ」
「はっ! そういうことか」
そう、実は怪鳥の巣から取り戻した宝の内盗まれたのは6割程度だったのだ。
同じ所に全部置いておいたのになぜ全部盗まれなかったのかと思っていた。
盗まれずに置いてあったのは王国美術館のお宝、ホワイトパールや有名宝石商のブラックダイヤモンドなど誰もが知っている有名なお宝だ。
逆に盗まれたのは出所が不明なものと悪徳貴族や悪徳商人が持っていると言われたものばかりであった。
そうだ……カナディアからもらったルビーの指輪も盗られたままだ。
「俺達が怪鳥からお宝を持って帰ってくることを察知して盗み出したってことか……」
「怪鳥がお宝を盗むって話は有名だったし、怪盗が情報を得ていてもおかしくはねぇな」
くっそ……。ってことは怪盗ティーナを捕まえることができれば汚名返上できるってことか。
しかし、相手は神出鬼没の怪盗だ。王国警察でも捕まえられないのに……捕まえられるわけがない。
「お得意のポーションで何とかならないんですか」
体力の回復したカナディアが立ち上がり話題に入ってくる。
「ポーションを何だと思ってるんだ。ポーションはただの投擲武器だぞ」
「あんたも何だと思ってんだ」
「そもそも、ポーションを投擲武器って思ってるのヴィーノだけですからね」
【アイテムユーザー】はこの国では俺1人しかいないため、理解されない。
ひとまずここにいても仕方ない。
いったん家に帰ることにした。
「昼飯でも食って考えるか。昼の当番はカナディアだったよな」
「はい、今日は市で良い魚が手に入ったので焼こうと思ってます。アメリさんもどうですか?
「お! いくいく! カナディアの料理大好き」
にこやかに会話し、我が家の扉を開けた先には……。
黒のウイッチハットに紫のウイッチドレスで身を包む人物がガサゴソ、俺の家の戸棚を物色していた。
うん、これは……あれだな。
「怪盗ティーナだあああああ!」






