47 対決 怪鳥戦
「見えてきたな」
「ええ」
警戒の強い怪鳥を探すのは困難を極める。
そのためおびき寄せる必要があった。
おびき寄せるのに必要なのは怪鳥の巣を攻撃することが一番確実だ。
黒曜石の採掘でも怪鳥の巣に近づいたから攻撃された可能性が高いらしい。
そのためには光り物を使って、子怪鳥をおびき寄せて巣まで案内させることだ。
数時間後、想定通り子怪鳥が現れ、ルビーの指輪を回収していった。
「もう、私が送った指輪を使うだなんて……」
「わ、悪かったよ。輝くルビーが付いてるからちょうどいいと思ったんだ」
王都に到着してからすぐカナディアからルビーの指輪をプレゼントされた。
カナディアも付けており、ペアリングのようなものと言っていたから常時付けていたのだ。
というより付けなきゃ泣かれるので仕方なくってところがすごくある。
ちょっと派手なんだよな……。
「傷ついたりしたら……修理もするし、新しいのも買うから!」
「あれはそういうためのモノじゃ……ないのです。でも……」
「でも?」
「せっかくなのでヴィーノが給料3ヶ月分の婚約指輪を私に」
「よし、行くぞ!」
とんでもないこと言い出したので進むことにしよう。
そもそも給料3ヶ月分ってなんだ。冒険者は基本給の制度なんてねぇ!
子怪鳥がカナディアからもらった指輪を巣に入れて、飛び立ったのを確認した後、行動を開始する。
「じゃあ、私が行きますね」
怪鳥の巣はよりによって今いる場所よりさらに上がった山の斜面のてっぺん、さらに岩肌が露出した所の中腹に大きなへこみがあり、そこに巣を作っていた。
こりゃ飛べない普通の人間にはとてもじゃないけど近づけない。
けど……ここには普通じゃないS級冒険者がいる。
「作戦のとおり必要なポーションはもたせる。十分気をつけろよ」
「任せてください。さて……と」
戦闘モードに入ったカナディアはクールで格好良くて美しい。
持たせたスピード・ポーションを飲み干して瓶を捨て、全速力で駆け出していった。
俺が調合した魔法の薬だ。一定時間移動速度を上げることができる。
カナディアの移動力にそれを加えたら、崖だって走って渡れる。
あっと言う間に怪鳥の巣までたどり着いてしまった。
あれができるのは……カナディアかアメリとあと1人くらいだろうな。俺には無理だ。
ギャアアアアアアアアアアア!
「やはり感づきやがった」
怪鳥が姿を現して、カナディアの方へ全速力で向かっていく。
ちっ、思った以上に高高度だ。
威力を下げて、射程を伸ばしてみよう。
カナディアが捨てたポーション瓶を使って怪鳥にぶん投げた。
投擲の射程距離のため見事ヒットする。
「ぐえっ!」
怪鳥はきゅっと悲鳴を上げて、よろめいて速度を下げる。
威力を殺しているので撃破はできない。
だけど予想通りの展開になっている。俺は続々とポーションを投げて怪鳥の動きを制限していく。
ぐぅぅぅぅぅ!
「ヴィーノ、魔法です!」
「まかせろ!」
怪鳥が詠唱を開始し、風魔法の8つの刃を飛ばしてきた。
物質化してる魔法であれば何も怖くない!
「俺は全てを【パリン】する!」
8つの刃を連続でポーションで受け流していく。
8回のパリンの音が続く。
「六の太刀【空斬】」
カナディアが巣から遠距離技放つ。
さすがに怪鳥には届かないが、それは怪鳥に恐怖を覚えさせるのに十分だ。
俺はさらにポーションをぶち込む。
グッ……ガァァァアア!
怪鳥は背を向けて急上昇していく。
巣を諦めて逃げる気だ。
「カナディア、行くぞ!!」
「はい!」
俺は今回のクエストのために作成した特殊なポーションをカナディアの跳躍がギリギリ届く距離でぶん投げる。
まっすぐ飛んでいたポーションに合わせ、カナディアは巣から崖に向かって跳躍した。
カナディアは右手でポーションを掴み取る。
「ゴー! ジェットッッッ!」
その瞬間、ポーションの瓶の底が割れて下に向けて噴射が発生する。
素材は風属性の魔石とボムの欠片、ジェットボアの鱗。これらを合成してポーションに混ぜ込めば……空へと飛び上がるジェットブースターが完成するのだ。
その速度は怪鳥の上昇速度など目じゃない。
カナディアを乗せてジェット・ポーションは空高くへと上がった。
あっと言う間に怪鳥をぶち抜いて、カナディアはポーションから手を放す。
左手に持っていた大太刀を両手で持ち、抜かれて唖然と止まる怪鳥の首を両断した。
「さようなら……」
それは首が痛くなるほどの高度での一撃だった。
当然落下していくカナディア。
このままでは転落してしまう。
だけど、こんな時のためにあれを何本か渡していたんだ。
落下していくカナディアの背からゆったりと羽が生えて、落下スピードが0となる。
フェザー・ポーションは上昇するだけのモノじゃない。こういう使い方もできる。
カナディアは貴重な怪鳥の亡骸を回収し、急いで陸へと戻った。
フェザー・ポーションの効果時間は10秒だからな。
「久しぶりの【堕天使】だったな」
「もー、あのジェット・ポーション、アチアチです。火傷しちゃったじゃないですか」
確かにあのジェット噴射は熱いだろうなと思っていた。
俺は回復ポーションを手に取る。
「両手が塞がっているので……ゆっくり、優しく飲ませてください」
カナディアは甘えるように求めてくる。
仕方ない。カナディアは頑張ってくれたし、その想いを叶えてあげよう。
「仕方ないなぁ」
俺はポーションの蓋を開けて……。
優しく口にぶん投げた。
「がぼっ!」
10秒後、めっちゃ怒られた。
優しく投げたのに……。
◇◇◇
さらに2日かけて鳳凰山から王都に戻ってきた。
ある事情で一刻も早く帰りたかったのだが、到着したのは日が変わる直前であった。
「聞いていた以上にため込んでましたね」
「ああ、これは相当な宝石量だぞ」
怪鳥の亡骸を近くの街で売りさばき、もう一つの依頼である盗まれていた宝石類だけは厳重に注意して運んで持って帰ってきた。
聞いていたよりも多くの宝石類が奪われており、全部売ったら一生楽に暮らしていけるんじゃないかと思ったほどだ。
もちろん持ち逃げなどするわけにはいかない。
早くギルドに届けたかったがこの時間ではもう開いていない。明日の朝一で行くしかないな。
家に着いて、風呂で体を綺麗にして……今日は早くに寝ることにした。
「ヴィーノ……今日もお願いします」
カナディアが寝間着で枕を持って俺の部屋にやってきた。
出張へ行った帰りはいつもこんな感じだ。
外ではさすがに一緒に寝れないので移動を含めて1週間ぶりだった。
「おやすみなさい」
「ああ」
「すぅ……」
今日は1分か。相当に疲れてたんだな
俺はぐっすり眠るカナディアを見据え、髪を少し撫でてあげる。
「ふふ……」
気持ちよさそうに寝ているなぁ。
さすがに変な所を触るわけにはいかないが、この寝顔を至近距離で見るくらいは許されてるだろう。
ガタゴト
……?
30分後が経ち、何やら居間の方で音がする。
今日は風が強い日だったか?
……ま、いいや。今はカナディアを眠たくなるまで見続けたいそう思っていた。
たが……この安らかな気持ち、それが間違いだったのだ。
この時、ちゃんと調査をしていればこんなことにならなかったのだと思う。
翌日、回収した宝石の半分以上を盗み取られることにはならなかったのだ。
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