46 頼れるパートナー
俺とカナディアは準備してさっそく出発した。
「ヴィーノと一緒のクエストなんて1ヶ月ぶりくらいですね!」
「そうだな。お互い個人行動が増えてきたもんな」
S級冒険者は一騎当千の力を持つので基本的に独立して動くものなのだ。
ただ、1人で戦うことは危険なのでS級クエストの時はもう一人S級を呼ぶか、A級以下の4人を呼んで組むことが多い。
冒険者の話として厳密にいうとS級パーティというものがない。
もちろん、今のS級冒険者達もA級以下の時はパーティを組んでいた。
なのでこの国でS級パーティは2組あると言われているが、そのパーティでクエストを受けることはほぼないのだ。
そりゃS級冒険者5人使うクエストはそうはないし、人員的な余裕もない。
それでも2人組んでのクエストはそこそこあるので俺とカナディアはまだ一緒に仕事することが多い方である。
「ヴィーノが人気のせいで……困ります。アメリさんだってヴィーノと組みたがるんですもん」
「自分で言うのもなんだけど支援できる人間ってやっぱ貴重なんだろうな」
「A級で1人で戦ってる時にあれだけ苦戦していた私が……ヴィーノと組んでからまったく苦戦しなくなりましたからね」
アメリも言ってたとおり、A級時からカナディアの素質はS級レベルだった。
黒髪の件がなければ最速でS級に上がってたと言っていたな。
ちなみにこの国にはS級冒険者が10人いるが支援職は俺ともう1人しかいないので……俺と組みたがるS級冒険者は多い。
カナディアやアメリのような攻撃重視の人ばかりのため支援するのも大変だ。
あと支援職でS級に上がるのは極めて難しいというのもある。S級は1人でも戦えないといけないのだ。戦闘力の低い支援職はずっとA級止まりである。
さて、今日のクエストはS級魔獣に設定されている怪鳥プテラウェーブの討伐だ。
そんなに強い魔獣ではないんだけどこの怪鳥の難点は高高度で生活しており、攻撃も高高度から魔法を撃ってくる嫌らしい魔物だ。
おまけに魔法の効きが悪く物理で攻撃しないといけない、
もう一つあるのが怪鳥の子供、小怪鳥が光り物を集める習性があり、宝石を盗られたりと結構な被害が発生している。
王都の美術館の一品や宝石商の売り物、貴族の所有する装飾品などを移動時にかっ攫われていくことが多いらしい。
それの回収も今回のクエストの1つとなる。
俺とカナディアは怪鳥の目撃情報のある王都から馬車と歩きで約2日かかる鳳凰山へと向かう。
鳳凰山自体はB級ダンジョンとして指定されており、今の俺達であれば何の苦労もなく攻略できる。
怪鳥自体は向こうから攻めてくることはないので危険はそこまでない。
「ようやく鳳凰山へ着きましたね」
「街道の宿屋を経由してさらに1日だもんな……王都の範囲の広さに驚く」
各冒険者ギルドで管轄区域は決まっている。
各街にある小さいギルドはB級まで。交易の街のように大きなギルドはA級まで。
王都はS級まで存在する。ゆえに王都のS級クエストの範囲は王国全てとも言えるだろう。
本来鳳凰山は地方の冒険者ギルドの管轄となるのだ。
端まで進むと1週間もかかるところもあるそうで、それを10人でまわすのは本当に骨が折れると言える。
S級となると外国の出張もあるらしい。隣国の帝国なんてかなりの回数行くそうだ。
「ここから山頂までさらに1日か……」
「登山は山のダンジョンでは良くあるとはいえ骨が折れますね」
鳳凰山では貴重な黒曜石が採掘できる所だ。
冒険者の護衛ありで採掘作業をしていたのが最近怪鳥の妨害が多く、高度で対処できないためそれで俺達に白羽の矢が立ったわけだ。
鳳凰山の順路を進んでいく。
「今回、どういう風に戦うか」
「怪鳥の子供は倒さないんでしたっけ」
「そこは言われてないな。あくまで奪われた宝石類の確保だ。邪魔になるなら仕方ないけど……可能なら逃がそう」
「あとは高高度って所ですよね……。私の跳躍では間違いなく届かないでしょう」
「俺のポーション投擲も真上だと威力下がるんだよな……。なるべく少ない攻撃回数で撃破しないと……逃げられる」
「フェザー・ポーションで何とかならないんですか?」
「あれは10秒しか持たないんだよ。1回使えば1時間は再使用が出来ない。戦力として考えない方がいいな」
10秒で倒せなかった時が最悪だ。高い所から落下してしまう可能性もある。
「ただ……秘策は用意してある。俺とカナディアが組めば勝てない敵などいないさ」
「ふふ、ヴィーノと一緒なら安心できますね。っ!」
カナディアは何かに気づき、大太刀を引き抜いた。
何か現れたのか? 大丈夫だ。ポーションは1000個近く持ってきている。
こういうときのカナディアの危機管理能力はさすがだ。
何匹か足音が聞こえる。これは……ウルフ系だ!
突如現れた5匹のハイウルフ。高山に住む魔獣である。
へっ、この程度の敵は秒殺だ。俺はポーションに手を取る。
「二×三の太刀【風輪斬】」
それよりも早くカナディアは大太刀を振り、鋭い刀の波動がウルフ達を透過し、沈めていく。
それはあっと言う間の出来事だった。ポーションを引き抜く間もなくウルフは沈黙した。
カナディアは大太刀を鞘に戻し、背追う。
「もう足手まといにはなりませんから」
足手まとい……?
あ、そういえば初めてパーティを組んでウルフと戦った時、俺の速投げに追いついてなかったもんな。
それが俺の速投げよりも素早い一撃、また腕を上げたようだ。
まったく頼りになって……。
「先へ進みましょう」
じわりと黒髪が揺れていく。
ほんと……美しくて頼りになる相棒だ。






