45 思い込みの激しい子
以前はカナディアが言う妻や夫を俺は冗談で言っていると思っていたのだが、出会って4ヶ月近く経つとカナディアという女の子を理解できてくる。
カナディアは凄く思い込みが激しいのだ。
だから発言全てが本気なのである。
「理想の夫婦って何なんだろうな」
「そんなの……いかなる時も支い合い、愛し合うことが夫婦に決まってるじゃないですか」
とろんとした瞳で見つめられる。
ちなみに俺は正直な所、カナディアに好意を抱いている。
これがもし恋人同士なら何も考えず、交際に発展しただろう。
しかし、カナディアが求めるのは夫婦の関係なのだ。
俺は19歳だし、カナディアは16歳。成人はしているので世間的には悪くはないのだがやはりまだちょっと早い。
俺も正直……結婚願望はそこまでないのだ。夜のお店とかも行きたいし……。
「思い出しますよねぇ。初めて出会った時にいきなり口説かれて、俺の嫁になれって言うんですもん!」
似たようなセリフは言ったような気がするがそんな直なことを言った覚えはない。
「工芸が盛んな街でデートした時にアイスを食べながら夕日に向かって……黒髪の言い伝えに悩む私に……かわいい死神なら大歓迎だと言ってくれましたし」
そんなロマンチックなシチュエーションだったっけ。その後、カナディアのお尻に触れて満足した記憶しかない。
「馬車の中で私の黒髪に潜って深呼吸したいなんて言い出しますし」
それはその通りだった。
でも正直、結婚したっていいんじゃと思っている。
カナディアの思い込みを正にしてもいいと思っている。
可愛くて髪が綺麗で優しくて、スタイル良好、料理上手で……どこにカナディアを避ける要素があるのか。
でも……なぜか俺の第6感が安易に結論を出すなと告げるのだ。
カナディアは立ち上がり、俺の脱いだ冒険者服を持ち上げた。
いつも通り洗濯してくれるのだろう。
だが……カナディアは立ち止まる。
「ヴィーノは今週8人の女性と会話したのですね」
「びくっ!」
「ミルヴァさんとアメリさんのにおいがします。まぁ工芸が盛んな街のギルドに行ったり、鉱山の街では一緒だったと言っていたから当然ですよねぇ」
「……か、カナディア?」
「うーむ、残り6人は何でしょう。普通に喋る分には問題ありませんが。その内の1人に春を売った女のにおいがします」
「き、気のせいだよ」
全て正解である。
1週間で出会った女のにおいを全て嗅ぎ分けるのだ。
鉱山の街のお店でちょっとお金を払ってねーちゃんにお酒をついでもらった程度である。カナディアはそれすらも嗅ぎ分けるのだ。
この前王都にある風俗店に行った時は大変だった。帰ったら即カナディアに嗅ぎ分けられ泣かれて3日間出ていかれた。
3日後に夫の夜遊びを我慢するのが妻の役目ですから……としおらしく戻ってきたが、出ていく時に大太刀振り回して斬殺されそうになったことは頭から抜けていた。
この家に刀傷が何個かあるんだぞっと。
目のハイライトが消えて、黒髪が逆立ち、大太刀を構えるカナディアが誰よりも恐ろしかった。あれ経験するとS級魔獣なんてまったく怖くなくなるね。
俺はそれから王都の風俗に行けなくなってしまった。
心の中では順々な女であると信じ込み意識しているのだが、頭に血が上ると理性がぶっ壊れて暴れ回るのである。
多分ぶっ壊した後後悔するタイプだ。そしてぶっ壊す対象は俺である。
カナディアの愛はとても重い。
それゆれに俺はこの関係を未だ整理できていないのだ。
今は夫婦のような関係……であって婚姻してるわけではない。カナディアは時々本気のプロポーズして欲しいそうな顔をしてくるが結婚してしまうと逃げられなくなる。
でも正直、カナディアのことは好きだし、仕事のパートナーとしても大切で相性も良い。
だから俺はこう考えた。
「現状維持だな」
とぼけた振りで乗り切ろう。
◇◇◇
一軒家であるこの家は部屋数が多い。
S級冒険者が2人が住む家だ。並の家賃じゃないぜ。
俺の部屋にカナディアの部屋。少し狭いけどポーションの調合用の部屋もある。
婚姻の関係ではないので寝る時は別々……なのだが。
「ヴィーノ。一週間ぶりなので……一緒に寝てもいいですか?」
これが俺がカナディアと結婚を考えてしまう要因の1つである。
こっちの家になってからカナディアは甘えるように俺のベッドで一緒に寝ようともくろむ。
始めはうろたえもんだが……もう慣れた。
俺も1週間ぶりだったし、快く出迎える。
カナディアの夜の格好はピンクのシャツにショートパンツだ。
ピンクのシャツは胸元がすごく緩く、少し屈むだけでカナディアの豊満なお胸がちらりと見えてくる。
傷一つない白いふとももを見せてくれるショートパンツは実によい。
たまたま買ったベッドがダブルベッドで本当に良かった。2人寝るのにも苦しくない。
「明日は久しぶりに一緒のクエストですね」
「ああ、怪鳥退治だ。一緒にがんばろう」
カナディアはベッドに寝転がり、ふとんにくるまる。
俺も一緒にベッドへごてんと寝転んだ。
2人両手を重ねて、見つめ合う。
カナディアの翡翠の瞳の目が合う。
「じゃあ……おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
両手を繋いで、見つめ合い……2人一緒のベッドに寝転んだら、やることは1つしかない。
「すぅーーーーー」
そして、2分で寝入るカナディアちゃんである。
ここから何をやっても起きることはない。
初めての時もこんなオチで落胆したものだけど……それはそれでいい。
カナディアが俺のことを真に信用してくれているということだ。
出会った時のような防衛本能で絞めてくるようなことももうない。
今、ここにいるのは……一人の16歳の女の子なのだ。
「うぅん……」
寝返ると同時にゆるゆるのシャツから胸の谷間が視界に入る。
足を動かすたびに……柔らかいふとももが俺の肌に触れるのだ。
「今日も一本行っておくか!!」
魅力的な女の子が寝息を立てているこの状況下、自然と眠ることなどできるはずもない。
カナディアと寝るようになってから睡眠不足が問題となってきたので打開策を用意した。
「スリープ・ポーション!」
1発爆睡、これを飲めば朝までぐっすりである!
これでいいのかどうかはわからないが手を出して傷をつけるならこうするべきだと思う。
さて、おやすみ!!
このスリープ・ポーションに一つ問題点がある。
「……」
目が覚めた俺が見たものは両手をカナディアの背中に手を寄せ、抱き枕のように思いっきり抱きしめていることだった。
今のところカナディアが先に起きたことはない。
つまり……寝相で俺はどうやらカナディアをめちゃくちゃにしてるっぽかった。
この前両手が胸を掴んでいた時は血の気が引いたぞ。
「う、うーーん」
「カナディア、起きた?」
「はい、良く眠れました。……あ、またシャツもズボンも皺寄ってる……恥ずかしいです」
「カナディアったら寝相が悪いんだから……ダメだよ」
「は~い。……ヴィーノ、なんで目をそらすんですか?」
お互い寝ている時での騒動なんだ……。
でもなんか罪悪感がすごい。
今度カナディアに何かプレゼントすることにしよう。
さて、準備してクエストへ向かうぞ。






