43 護衛クエスト
「は、早く……この森から抜けさせてくれぇ~~!」
太陽が一番高い位置の時間帯だというのにこの魔の森はまるで夜のように光を遮っていた。
荷馬車の主が震えるように頭を抱えて、全力で馬を走らせて、この魔の森から抜けだそうと必死になる。
荷馬車の後ろから数十、数百ともいえるアンデッドの軍団が不愉快な声を上げて追ってくる。
追いつかれてしまったらきっとこの荷馬車はもみくちゃにされてしまうだろう。
「ま……この速度なら何とかなると思いますよ」
馬車と言うが、馬は高価な馬型魔獣を使っており、強度とスピードが段違いだ。2頭で荷車を引いているのに良い速度で前進している。
馬の5倍くらいの値段がかかるって言ってたっけ。魔獣を手懐けるテイマー職はすごいな。
一部を除き、アンデッド軍団はその速度に追ってこれず、距離が離れていく。
「冒険者さん! は、はやく……なんとかしてくれぇ!」
その一部、ゾンビバードと呼ばれる飛行魔獣はぐんぐん近づいて、俺や依頼主の商人を狙ってくる。
「この程度の魔獣なら欠伸してても狩れますよ」
俺は自前のホルダーから得意武器を取り出す。
今回、魔の森へ潜ると聞いて大量に生産しておいて本当に良かった。
隙をついて飛び込んでくるゾンビバード。
俺は荷車の縁にしがみつきながら、もう片方の手でそれを……ぶん投げる。
ゾンビバードの頭に当たり、呻き声と共に浄化されていく。
なおも飛んでくるゾンビバードに対して1本ずつぶん投げて的確に倒していく。
アンデッド特効のモノを合成して作っているので効果は抜群だ。
「冒険者さん、あんた……さっきから何を投げてるんだ……?」
「へ……ポーションですけど」
依頼主さんはまだ俺の武器を見たことがなかったっけ?
聖水を混ぜ込んでいるから物理的にも効能的にベストだ。
「ポ、ポーションなんか何ができるって……ひっ! デュラハンが現れたぁ!」
来たな!
デュラハンとは首のない鎧戦士の姿をしており、さらに腰から下は馬のような形相をし空を魔法の力で駆ける魔獣だ。
広義的には違う形のデュラハンもいるみたいだから……デュラハン種と呼ぶべきなのかもしれない。
この魔の森の主と呼ばれるS級魔獣。出現率は高くないらしいが……出会って即、殺されてしまう冒険者達もかなり多い。
デュラハンは氷属性の魔法の使い手でもある。
空高い所から氷魔法【アイスロック】を撃ち込んでくる。
荷馬車に当たるとまずい……ならポーションで迎撃する。
自前のポーションホルダーからファイア・ポーションを取り出し、即座にぶん投げる。
俺ほどの熟練者なら余裕で当てられる。
氷の塊にポーションが命中し、中に入っている炎属性の力が氷を溶かし尽くした。
戦闘が長引くのはまずい。荷馬車や依頼主に被害が行く前に倒さないといけない。
呼吸を整えて、ごく普通のポーションを手に取る。
全力投擲するときは足に力を入れて、しっかり腕を振らなければならない。
時間はかかるが……威力は絶大。
「デュ……デュラハンが近づいて、何かやってくるぞ!」
デュラハンが荷馬車の方に近づき、詠唱をし始めた。
ポーションでの迎撃の弱点は敵の攻撃が広範囲であること。受け流しも出来ない。
対処方法がないわけではないが……確実ではない。
だったら……撃ってくる前に……。
「ぶち抜くっ!」
俺の投げた全力のポーションはまっすぐ飛んでいく。
デュラハンは詠唱を止めて、手に持つ槍でポーションを突いてきた。
全力で投げたポーションがそんな柔な槍で止められるかよ!
デュラハンの槍を粉砕し、そのまま……デュラハンの腹を鎧ごとぶち抜いた。
ポーションの回転速度を異常に上げて、ドリルのように突き進ませ……瓶が途中で割れて、勢いが死ぬことを極力抑えた技だ。
「名付けて……ジャイロ・ポーションって感じかな」
ただあまり回数は投げられない。1日に投擲制限を設けないと肩と肘がイカれてしまう。
腹に大穴が空いたデュラハンはわずかに動きながらも……次第に力なく地に落ちていった。
倒せたかどうか分からないが……これで大丈夫だろう。
素材が欲しかったが……後ろから大軍が迫っているのでここは逃げることに専念しよう。
「やった……、出口だ!」
荷馬車は魔の森を抜けて、草原の方へと走り抜けていく。
俺も依頼主も……危機を乗り切ったことで息を吐いた。
あと1時間くらい走れば目的地の王都へ入ることができるだろう。
「はぁ……死ぬかと思った」
「これで分かったでしょ。いくら港の街から王都まで魔の森を通るのが最速で行けるからって限度があるって」
依頼主……商人はぐっと落胆してしまった。
結果的には無事だったが……次も大丈夫だとは到底言えない状況だ。
「A級冒険者パーティを付ければ大丈夫だと思ったんだ……。迂回してしまうと商品の鮮度が落ちてしまうのが嫌で……」
「普通のダンジョンならともかく魔の森はS級ダンジョンです。A級以下は入場するなって言ってるのに……」
今回、俺が正式に受けた依頼はA級冒険者パーティとこの商人の救助だった。
案の定、皆、魔の森のセーフエリアで動けなくなっていた。
俺と別のS級冒険者で向かって、俺が依頼主を王都まで護衛して、もう一人のベテランS級冒険者が5人の負傷者を守りつつ、港の街へ向かった。
A級冒険者も功を焦ったんだろうな……。俺が前に所属していた旧パーティと一緒だ。気持ちは分かるが命を捨てては意味がない。
「そういえば……まだキミの名前を聞いてなかったな」
俺は商人の方を向いた。
「俺の名はヴィーノ。王都所属のS級冒険者です」
「おお、あんたが噂の【ポーション狂】か!」
「何となく発音が違うような気がするので訂正しますが【ポーション卿】ですからね!」
◇◇◇
あー、疲れた。
王都に到着して、商人を送り、ギルドへ顔を出したらもう日が沈んでしまっていた。
明日もクエストだし、今日はゆっくりとしよう。
我が家へと到着し扉を開ける。
すると……食欲をそそるカレーの匂いが鼻の中を通っていった。
「おかえりなさい、ヴィーノ」
エプロンを付けた黒髪の美少女がトタトタと俺の方に近づいてくる。
その笑みとおかえりなさいという言葉は俺の疲れをあっと言う間に吹き飛ばしていった。
「ただいま、カナディア」
俺は新しい家でパートナーであるカナディアと一緒に暮らしている。
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