42 S級昇格
「お待たせしました」
俺とアメリがのんびりと待っているとカナディアがお腹を押さえて戻ってきた。
どこでなにを……とは聞かない。
カナディアがようやく戻ってきたので俺とアメリは結晶獣だったものを彼女に見せる。
「これは……なんですか」
俺もアメリも首を横に振る。
結晶獣の素材をはぎ取ろうと思ったら存在そのものが影のように消えてしまったのだ。
あの結晶の角もポーション投擲で折れないくらいの強度だったし、いい素材になると思ったのに残念だ。
消えてしまった結晶獣が残したもの……。それは黒く輝くオーブみたいなものだった。
触っても叩いても何にも変わらない。
カナディアに手渡してみる。
「何も変わりませんね」
黒の民と呼ばれたカナディアが持っても変化しないんじゃどうしようもないな。
「アメリ……S級のツテとかで何とかならないか?」
「無理だな。黒髪ってやっぱータブーな所があるからな。調査とかは上の許可が必要かもしれねー」
アメリはピョンと髪を跳ねさせ、オーブをつっついた。
「カナディアの両親に聞いてみた方がはえーんじゃないか」
「それもそうだな」
俺はカナディアにオーブを渡した。
手で掴めるほどのサイズのためアイテムポーチに入れておけば充分だろう。
「よーし、じゃあ出るぞ!」
◇◇◇
【不夜の回廊】を出たらすっかり夜になっていた。
かなりの時間……ダンジョンに潜っていたから、恐らくもう日は超えているかもしれない。
1時間ほどで街に戻れるとはいえ、正門が閉まってるだろう。
今日はここで野営をするか。
「ヴィーノ、カナディア。S級昇格試験おめでとーーーー!」
パチパチパチパチ!
アメリは大声で叫び、手を何度も叩く。
「わーー! 合格なんですね!」
「ふー、よかったよかった」
そりゃ本来と違うルートに入って、その最奥であんなS級レベルの魔獣と戦って撃破したんだ。
余裕で合格だろうよ。
「資格証とか用意しておくからよ。2週間ぐらいしたら王都に来てくれ」
これで俺もS級冒険者か……。こないだまでは冒険者をやめるとか思ってたのに……大きな進歩だな。
「S級になったからには王都で暮らすことになると思うし、家とか決めておけよ」
A級までは宿暮らしだったけど思い切って家を買うのもありだな。
S級冒険者なら信用もあるし、忙しくはなるが……大きな家を思い切って買ってみるかぁ。
何だかわくわくしてきた。
カナディアもきっとわくわく……と思ったら泣いていた。
「ぐすっ……これで……夢に……一歩近づけたんですね」
アメリが俺に近づいてきた。
多分、夢のことを聞きたいんだろう。アメリにも話して大丈夫だと思うし、黒髪の地位向上の話をした。
するとカナディアの方に走って抱きついてしまう。
「カ~ナ~ディア! おめでとうな!」
「きゃ! アメリさん、もう、ありがとうございます!」
「あたし……も応援してっからよ! がんばれよ」
「はい、……ぐすっ」
今回の試験官がアメリで本当によかった。
先輩として今後も頼りにさせてもらおう。
本音を言うと【風車】の力も見たかったんだけどなぁ。
「あたしはやっぱ……女の子って、泣いている顔より笑った顔の方がかわいいと思うんだ」
「ぐすっ…………え」
アメリはカナディアのお腹まわりわしわしとくすぐり始める。
「ちょっ! きゃん! ふ、服の中に手を入れないで!」
「おおー白肌もすべすべじゃないかぁ。いっぱい脇腹をマッサージしてあげるから」
「キャハハハハハ、ちょっと、なにこれ、力が入んない!……ニャハハ!」
「耐えられないだろ~、あたしのテクでどれだけの女の子を狂わしちまったか。試験前はさすがにやりすぎるとまずかったしな! 心置きなく笑い狂ってくれ!」
「ヒャハハハハハ、ダメ、ダメです! ヴィ、ヴィーノ助けてぇ! おかしくなるぅ。アヒャヒャヒャ」
「ふひひ、カナディアはかわいいなぁ。泣いた分だけ、いっぱい笑わせてやるから」
さて、俺は野営の準備をするとしよう。
カナディアの笑い声を音楽にメシを作るとしますか。
笑い疲れた時は何が……いいのかねぇ。
やっぱ十八番のクリームスープかな。
「明日からもがんばるぞ~」
「っ……」
「どうかしましたか……シエラ様」
「いえ……何でもない」
「そうですか……もう遅いですので今日はお休み下さい。あなた様のお体は我ら【白の民】の全てなのです」
「ん……分かってる」
召使いを下がらせて……シエラと呼ばれた少女は塔から外を眺める。
「……黒のチカラが王都の方角で見えた。……まさかね」
王都の方をじっと眺めて、やがてシエラはベッドにゆっくりと腰掛けて……寝転んだ。
「白の民なんてほんとキライ」
うつ伏せとなった時、シエラの腰まで伸びた煌めく銀の髪がひたりと揺れ……時間はゆっくりと過ぎていった。
1章【ポーション使いと黒髪少女】~完~
1章完結です! 最後に出てきた白の民のお話はまだまだ先のお話となりそうです。
2章「ポーション使いと怪盗少女」をお楽しみください。
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