04 死の危機
腹を刺された痛みで思わず膝をついてしまう。
激痛で声が出ず、それと同時に……詠唱の声と共に背中が焼かれ、痛みを発した。
「あ、手が滑っちゃったぁ」
その瞬間理解した。
トミーが剣で俺を刺し、ルネが炎魔法で俺の背中を撃ち込んだんだ。
「な、なんで……」
「悪いな。パーティ損失補償の制度を使いたくて……おまえには死んでもらう」
パーティ損失補償。
パーティメンバーが不慮の事故で亡くなった時にギルドから補償金が出るシステムだ。
元々はクエストの報酬の一部を補償用として取り分けされるお金だ。もちろん様々な制約があるが、今はどうでもいい。
A級パーティの一員が亡くなったら相当な補償金が捻出されて、特約として人材の補填がなされる。
それが一番の狙いか。
「え……何コレ……まじ?」
「アミナ。てめぇも【アサルト】の一員なら受け入れろ。無能を消してヒーラー職を入れたらもっと存分に戦える。あの職は回復だけじゃなくて聖属性魔法も使える。……戦う力の無い無能などいらねぇ」
顔を歪ませるアミナと対照的にオスタルは意気揚々と笑う。
まさかいくら何でもこんな手まで使ってくるとは思わなかった。
D級の頃から一緒に戦ってきた仲なのに……こんな悪手を使うまで腐っていたなんて。
何でもっと早く気付かなかったんだろう……。
オスタルは俺の持ってきていたアイテム袋を全部かっ攫う。
「元々は俺達の金で作ったものだしな、返してもらうぜ」
それらのアイテムは……俺の自腹で作ったものがほとんどだぞ。
クエストクリアの報奨金、ほとんどまわしてくれなかったじゃねぇか。
「安心してくれ。ヴィーノの故郷にはちゃんと補償金の一部を送金する。名誉の死を遂げたと言えば家族も喜んでくれるだろう」
「ふ、ふざける……な」
「ではトドメを……」
ゴゴゴゴゴゴオオオオッッッッ!!!
トミーが剣を振り上げた時……ダンジョン全体が震えだした。
皆が一斉に空を見上げ、すぐに何かが地に降り地響きが鳴る。
死体となったケルベロスの上に舞い降りたそれは……濃い黒色の鋼の鱗をしたドラゴンだった。
その大きさは人間とは比べものにならないほどで、先日飲んでいた酒場がすっぽり埋まってしまうほどだと言えるだろう。
ドラゴンは横たわるポイズンケルベロスの死体を大きな口でペロリと平らげ、物足りないのかこちらをじろりと見つめる。
「タイラントドラゴンじゃん! やばいって!」
「S級モンスターじゃねぇか! 何でこんな所に!」
「くっ、ルネ! 魔法で牽制しろ! ヴィーノを囮にして退却する!」
トミーの言葉にルネが慌ててファイアーランスを放つ。
タイラントドラゴンに直撃するが、傷一つ与えられていない。
大量の炎の槍が煙を生じさせ、煙を広がらせた。
しかし、時間を稼ぐには充分だ。トミー達はあっと言う間に離脱していった。
タイラントドラゴンはあいつらを追いかけていかない……。
血を流して、倒れている俺を……見据えている。
緊急用のポーションを3本隠し持っているから……飲めば回復できる。
しかし……ドラゴンから逃げ出すことはほぼ不可能だ。
「グガガガガガアアアアアア!」
ドラゴンは咆吼をする。
……こりゃもう次の瞬間食われちまうな。
……俺の人生マジでいいことなかったな……。
願うならトミーがちゃんと故郷の両親に金を送ってくれることを祈るだけか。
俺は死を受け入れ、目を瞑った。
ドラゴンが羽をはためかせ、俺に近づく音が聞こえる。どんどんと音が大きくなり、その瞬間が来た時……。
「ギャアアアアアア!」
ドラゴンの悲鳴が響き渡ったのだ。
いったい何があったのか。
目を開けた……そこには美しく……煌めく黒髪がゆったりと揺れていた。
「……ギリギリでしたね」
背の丈ほどにまで伸びた大太刀がキラリと光る。
A級冒険者 美剣士カナディアの姿がそこにはあった。