39 ダンジョン攻略中 アメリ視点
【不夜の回廊】の未探索ルートを尚も進行中。
機械魔獣の数はかなり多いが、ヴィーノがポーションで吹き飛ばし、取り逃した敵をカナディアが即座に斬り倒すので……まったく問題なかった。
所々、電子錠のような扉があり、どうにも開け方がわからなかったがカナディアが触れることで反応し扉が開く所が見られた。
「このダンジョンってどういう所なんだ」
当然ヴィーノからそんな質問があがるが、あたしは首を横に振った。
「元々S級の昇格試験に使われているだけの所で詳しくは分かってねぇーんだ。何回か王都から調査団が来ているんだけど結果は同じ」
「だとするとやっぱさっきの機械から声の出た【黒の民】ってのが気になるよな」
ヴィーノはカナディアの方に顔を向ける。
「カナディアは分からないのか?」
「……黒の民とは私が生まれ育った集落の昔の名だと両親が言っていました」
「やっぱり黒髪と関係あるんだな。詳しい話は知っているのか?」
「黒髪に関する言い伝えや現実はみなさんと同じレベルでしか知らないです。詳しい話は両親がまだ早いと教えてくれなかったのですよね」
「遥か昔にあったと言われている【白の民】と【黒の民】の騒動の話かもしれねーな」
ヴィーノとカナディアがあたしの方に視線を向けてきた。
「王都からさらに遠く離れた北の国に【白の民】が住むっていう都があるんだ」
「白の民……」
2人の言葉が重なる。
「言っておくがあたしも詳しくしらねーぞ。何か秘匿事項があってあたし達でも調査できねーんだ。知りたいならカナディアの両親から聞く方がはえーかもな」
噂として白の民の都には大層美しい白髪の乙女がいるってのは聞いたことがある。
正直生きていく上でそんなに黒髪、白髪は影響ないから興味もないし、調べたこともない。
カナディアがその黒の民の血を引く存在なのは間違いないんだろう。ま、黒髪だしな。
「もしかしたらここは黒の民が残した遺跡か何かかもしれないな。カナディアのおかげで先に進めるんだ。しっかり探索しよう」
ヴィーノの言葉に納得し気を取り直して先へ進むことにした。
少し進んだ先が老朽化で天井が崩れ、先が進めないようになっていた。
解錠できる電子錠のない扉が1つと天井が崩れた先に扉が1つ。
崩れているがそこそこなスペースはある。
「行けるのはここまでか……」
「あ、でも下からほふくでくぐれば……奥の方までいけそうですね」
「俺の体じゃちょっと無理だな。だとすると……」
一番体の小さなあたしが見られるが、今回は試練も兼ねているので行く気は無い。
「そもそも電子錠はカナディアしか開けられねぇだろ」
「それもそうか」
「じゃあ……私が行ってきますね。くぐり抜けたら大太刀を渡してください」
カナディアが屈んでゆっくりとほふくで進んでいく。
「狭いです……」
「そんな狭いかぁ?」
女の体だったら大丈夫だろ。あたしだったら一瞬でいけるぞ。
「む、胸がつっかえるんです……」
ほぅ……生まれて25年間。
ブラのサイズが一度もアップしたことがないあたしに対する挑戦状だろうか。
あたしはカナディアの足首を掴む。
シューズを無理やり外してやると小さな足の裏が露わになった。
素足は勘弁してやる。
「こちょこちょこちょ」
「あひゃひゃっ! 足裏はやめぇっ! 痛いッ、頭打ったぁ!」
「そのへんにしてあげよ……なっ」
くぐり抜けたカナディアに脱がした靴と大太刀を渡して先に進ませた。
進んだ先がこの閉ざされた扉に繋がってりゃいいんだけどな。
「アメリ」
「ん?」
ヴィーノが神妙な顔つきでこっちを見てる。
「これ以上進んでも大丈夫なんだろうか? もう試験とは関係ないルートなんだろ?」
「何だ気付いてたのか」
「カナディアしか開けられない道がある以上そう思うのが、当然じゃないか」
「逆に聞くけど、戻ったとしてこの先は誰が調査するんだ?」
「そりゃ……調査団とか……あっ」
ヴィーノも気付いたようだ。
調査団を派遣するなら護衛で冒険者達が依頼を受け一緒に行くことになる。
戦闘力のない学者を守りながら未知の所を進むのは結構大変だ。
あとカナディアしか解錠できないのなら確実にカナディアは調査団の護衛に任命される。
S級が3人いる今とカナディアと調査団だけの組み合わせ。どっちが探索が楽かというと前者だ。
とりあえず最奥まで行ってこのダンジョンがどうなっているのか確認してからの方がいい。
そのあたりのことをヴィーノにざっくりと説明した。
「やっぱS級冒険者は違うな……」
「あったりまえだ。何年やってると思ってんだ」
「あ、……そういえば25歳でしたね」
くくくっとヴィーノは笑った。
何かむかつく。
ヴィーノは恐らく女性遍歴はない。あたしは童貞を見たら分かる。
カナディアの胸とケツと髪ばっか見ている所を見ると押し倒せていないんだろうと思った。
「じゃあ、あたしが女のカラダってやつを教えてやろうか」
「ちょ、近いって!」
あたしはヴィーノの正面から抱きつき、頬をスリスリとする。
カワイイボウヤだこと。こうやって年下のオトコノコをからかうのは別の楽しみがある。
だからこそこうやっていつも……年齢を提示して同い年くらいに振る舞っているのだ。
さぁ……もうちょっとお楽しみを……。
グサッ!
「ひぇっ!」
ヴィーノの表情が一変したのであたしは振り返る。
鋼鉄でできているはずの床に大太刀が突き刺さっている。
うーーん、どんな力で刺せばこうなるんだろーな。
「私がいない間……随分とお楽しみでしたね」
「これは……えーと、無事でよかったよ!」
「はい、機械魔獣に襲われましたが全部斬りきざんで来ました! ヴィーノも味わってみますか?」
「滅相もない……大太刀をし、しまってください」
カナディアの怒りはヴィーノに向けられる。
うむ、この二人の関係がいまいちよく分からない。
カナディアは確実にヴィーノに恋愛感情を抱いている、だけではないな。まるで嫁のごとき振る舞い方をしているような気がする。
本来であればあの場面であそこまでヴィーノを詰めることをしないはず……。
反面、ヴィーノはカナディアを性的な目で見ているだけ……って感じがする。
「ふぅ……。許すも許さないもありません。浮気は男の甲斐性なので、そこは仕方ありません。夫の浮気にいつだって泣くのは妻なのですから……。ただ浮気したらケジメで指をつめてもらいますからね!」
「俺はわりと被害者なんだけど……」
「何か?」
「先に進もう!」
カナディアが外から解錠した扉を通り、さらに奥へ進んでいく。
こうしてようやく最奥地へ到着したのであった。






