38 【ポーション狂】を目の前にして アメリ視点
あたしはS級冒険者のアメリ。
今回、S級に上がる冒険者の試験官として交易の街へとやってきた。
元々情報として上がってたのはA級パーティ【アサルト】の5名。
【アサルト】は反社会的勢力との癒着の噂があり、S級にすると面倒だったので何とかして試験を受けさせないよう放置していたが最近クエストの失敗が多く、元パーティメンバーを殺そうとした噂もあったのでちょうどよかった。
そしてここ数週間で急に情報が上がって来たのはA級冒険者カナディアの話だ。
聞けば単独でA級のクエストをこなしていると聞く。
黒髪というただそれだけの理由で若い女の子1人だけで冒険をさせていることが判明して王都の冒険者ギルドでちょっとした問題になった。
黒髪だから仕方ないだろって声も上がるがそんなアホなことで優秀な冒険者を殺す気か。
今回の試験でカナディアをS級にして王都ギルドで呼びつける予定で来たのだが……パーティを組んでいる【アイテムユーザー】の男が変わっているという話だった。
カナディアを支援することが役割と思っていたがどうやらそれだけではないらしい。
あたし達のS級パーティでも討伐するのが難しい砲弾龍をカナディアと低級冒険者で討伐したという話は王都でも大きな話題となっていた。
ヴィーノとカナディア。会うのが楽しみだ。
◇◇◇
「何か雰囲気が変わったな」
「ここからが本番ということかもしれませんね」
あたし達は今、S級ダンジョン【不夜の回廊】の未探索ルートを通っている。
今、未探索ルートを通ってるなんて口が裂けても言うことはできない。
だってS級の立つ瀬無いじゃん!
本当はさっきの部屋を右に曲がった先でいくつかの戦闘を行った先に大きな部屋があり、そこで試験官が直々に相手をするのが今回の趣旨である。
なのにこいつら、10年以上誰も開けたことがない進路を見つけ出しやがった。
この段階で試験を取り止めることも考えたがこのまま調査を続ける方が良いと判断した。危険と判断できればあたしがパーティに加わればいい。幸い、ヴィーノは【アイテムユーザー】だから回復役だし、あたしは魔法も使える。
パーティバランスは良い。
2人が危機に陥ったら助けよう……そう思っていたら。
「また魔獣か。さっきから多いな!」
これで3戦目。
人型の機械魔獣にウルフ型、飛行型と大勢の敵がヴィーノ達を襲う。
しかし、ヴィーノがホルダーからポイポイ出してくるポーションでとんどん倒していく。
あたしの知っているポーションとは基本回復薬である。
あと……偏屈な錬金術師が作るような状態異常を目的とした毒ポーションを作るくらいだ。
瓶ごとぶん投げてるやつを初めて見た。
しかもあの速度であの威力、MPを消費しないから連発できるのか。魔法職だと10発も撃てば魔力切れだ。
「ヴィーノ、大丈夫ですか?」
「ああ、低級の雑魚みたいだし、まだカナディアが出る幕はなさそうだ。一応、警戒だけはしておいてくれ」
ここの機械魔獣のスペックはB級魔獣以上だ。かつてS級に上がりたいA級冒険者の半分以上がこの機械の敵を超えられずリタイヤしている。
それを低級だと思い込んでいる……。ヴィーノの底が知れない。
カナディアがS級クラスの実力を持っているのは見たら分かる。
だけどそのカナディアが一回も大太刀を抜くことなく、見守っている。
「なぁヴィーノ」
「ん?」
「そんなにポーションをドバドバ投げてるけど、残数大丈夫なのか?」
「ああ、【アサルト】と戦った時に100本以上使ったおかげでちょっと残数が心許ないな」
「へ?」
「あと827本しかホルダーに残ってない」
あたしはヴィーノのポーションホルダーに目を通す。
ポーションががっちり入っているがどう見積もっても数は合わない。
「カナディア、あいつの言ってること分かるか?」
「はい、アメリさん。私達ってアイテムの所持制限あるじゃないですか」
そうだな。戦闘に支障が出るから10数程度のアイテムしか持つことができねぇ。
良質な回復ポーションを何本持つかが勝負の鍵とも言える。
「ヴィーノは【アイテムユーザー】のスキルでその1個が99個になるんですよ」
「……」
「だからヴィーノはポーションを1000本持ち歩いているんですけど、私達の感覚としては10個分です」
「カナディア、あんた……何言っているか分かっている?」
「理解はしない方がいいです。ただ目に見えるものをだけを信じればいいと思います」
「そうか……あいつが何本持とうが何も困んねーもんな」
ヴィーノの強みってのはこういう所にあるんだろう。
ただ、ここは未開発エリア。注意だけはしておこう。
「今んとこ大丈夫だと思うけど、もしやばくなったら言えよ。パーティの人員が少ない以上1人1人の役割が大事だ。何かあったら……あたしが前に出てやる」
「そうなったら試験失格になるけど……やむを得ない時もあるか。その時は頼むよ」
「おう!」
「それじゃアメリさんに回復のやり方を教えてあげた方がいいじゃないでしょうか」
「それもそうだな。初めては怖いって話だし」
初めては怖い!? なんだそのエロティックな話。
カナディアは経験済だというの!?
「じゃあアメリ。口を開けて」
「あ、ああ……がぼっ!」
あたしの口の中につっこまれたそれはポーションの瓶だった。
なるほど、こうやってポーションを口の中につっこんで回復させんのか。無茶苦茶なやつだな。
経験せずにぶん投げられたら思わず避けちまうもんな……。
「アメリさん、ヴィーノのポーション回復って何か気持ちいいでしょう?」
本来であれば大口開けてポーションつっこまれたら恥ずかしいもんだ。
だけど……なんだろう。この口の中の瓶を咥えることの気持ちよさ。昔を……子供の頃を思い出す。
「おひゃぶり……」
これはおしゃぶりを咥えているような気持ちよさだった。