33 再会:A級パーティ【アサルト】
「どういうことか説明してもらおうか、ミス・アメリ」
かつて所属していたパーティ【アサルト】のリーダーのトミーがアメリに向けて声を掛ける。
険しい表情を浮かべたオスタルとルネ。そして困惑した顔つきのアミナ。あと1人が最近入ったというヒーラー職の男か。
まさか正門で待っていやがるとは……。
「何が?」
アメリがあっけらかんと返す。
「こんな無能と死神がS級の試験を受けられて、俺達が受けられないってどういうことだよ!」
オスタルがアメリに詰め寄った。タンク職のオスタルは図体も態度もデカい。
だがアメリは動じない
「頭が高いんだよ。敬語くらい使えねぇのか?」
「っ!?」
アメリの放つ気迫にオスタルは震え、後ろにへたりこんでしまった。
S級冒険者が持つ気迫はやはり一級のようだ。やはりアメリの実力は別格か。
「このパーティのリーダー……名前は?」
「トミー……です」
アメリの気迫にさすがのトミーも言葉を改める。
元々トミー、オスタル、ルネは俺の年齢とほぼ一緒だ。アメリを敬うのは当然のことである。
「本当に【アサルト】がS級の試験を受けられるって思ってんのか?」
【アサルト】の面々、誰もが言葉を発せない。もう分かっているんだろうな……。だけどそれを認めることができない。
なら俺が言ってやろう。
「自分達はS級どころかA級すら過ぎたランクでしたって誰も言わねぇの?」
「はぁ!? 無能のくせにふざけたこと言ってんじゃねぇよ!」
「あんただってその死神の力のおかげでしょ!? 女の力に頼ってるくせに!」
オスタルとルネが言い返してくるが……痛くもかゆくも無い。
格が違うなんて言葉は使いたくないが……いや、格が勝手に下がったのはあいつらだな。
「俺が所属してる時はA級クエストもクリアできていたのに俺がいなくなってクリア出来なくなったんだろ。理由は明白じゃないか」
「……」
【アサルト】がA級クエストを失敗続きだってことは工芸が盛んな街のギルドにも伝わっている。
あのギルドで伝わってるんだから王都の冒険者ギルドにも伝わっているのだろう。
A級パーティの凋落にざまぁみろという声もよく聞かれる
「調子に乗るなよ……」
トミーの絞り出すような声に一歩カナディアが前へ出た。
「面を見て思いましたけど……そちらのヒーラー職の方以外は鍛え直した方がいいと思いますよ。絶望的に能力が足りてないかと」
カナディアの直球な声に【アサルト】の面々は般若のように表情を変えた。
「カナディア、あんた素養はもうS級レベルだな。見えるんだよ……あたし達には相手の力量がさ」
アメリが揚々と笑い、その判断を肯定する。
やばい……俺には見えないぞ。
俺はポーション技術のみ特化してるから仕方ないか。
「も、もういいじゃん!」
大きな声を出したのはアミナだ。
唯一2つ年下のアミナが対面する俺達の間に入る。
「今までにーちゃんのポーションに頼り切ってたのは確かなんだし……! ねぇ……にーちゃん、にーちゃんが作ったポーションをあたし達に売ってほしいの」
「はぁ!? そんなの無能から奪い取ればいいだろ!」
アミナの言葉に心が動きかけたが、やっぱりやめだ。
欲しいなら……正規価格で売ってやる。
「特製ポーション1本、大銀貨1枚、マジックポーションは大銀貨2枚でどうだ?」
「ふざけんな!」
当然ながら【アサルト】から不満は上がる。ちなみにレートは一番効能が悪く安いポーション1個で小銅貨2枚ほど。小銅貨、大銅貨、小銀貨、大銀貨、小金貨、大金貨。
よく使うのはこのあたりだろう。各々10倍の価値となる。
大銀貨1枚あれば安価のポーションを500個買える計算だ。
ちなみに同じぐらいの効果がある伝説の秘薬エリシキル剤で金貨数枚だ。結構破格の値段だと思うけどな。
ただ、A級クエストクリアにもらえる報酬が多くても大銀貨数枚程度なので、今のこいつらでは支払うことすらできないのは知っている。
「んじゃ【アサルト】の方々はB級クエストでもクリアしながら何とかA級になれるように頑張ってください。それじゃ」
話はこれで終わりだ。俺はカナディアとアメリを呼び、S級認定の試験を進めるように話す。
「ヴィーノ」
鈍い声でトミーが呼び止めてくる。
「俺達と決闘しろ。……俺達が勝ったらS級試験を取りやめ、ポーションを俺達に供給しろ」
「なぁ、トミー。君は自分が何を言ってるか分かってるのか? 横暴にもほどがある、そう思わないか?」
「……」
オスタルやルネが言葉で追撃をしてこないことから……トミーの言葉が破綻しているのは誰が見ても明らかだった。
このトミーという男、リーダーとしての資質はあるんだが、想定外の事態に弱い所がある。
多分、自分でも何を言っているのか分かっていないんだろう。
放置してもいいが……それが祟って他のことに波及するのはまずい。
トミーはやりかねない。言葉ばっかのオスタルやルネよりよっぽど根性が曲がっている。
「分かった。いいだろう。俺が君達を完膚なきまでに叩きのめせばいんだな」
「はぁ……」
アメリが後ろで言葉を吐く。
「勝手に決めるなって言いたくなるけど、めんどくせーし勝手にしな。あたしはダンジョンの入口で待ってる。勝ったパーティに試験を受けさせてやる」
それだけ言って、アメリは走り去ってしまった。
2対5だが……負ける気はしない。負けるわけにいかない。
「俺はパスするぜ」
今まで言葉を一度も発してなかった男の声に気をそがれる。
最近【アサルト】に入ったというヒーラー職の男。
「俺の名はガルだ。噂はかねがね……。あんた達の個人的な争いに参加する気はねぇ。ケガしたくないし」
確かにほぼ無関係なのにこんなことでカナディアの斬撃やポーションを食らってたらたまったもんじゃない。
俺は当然了承した。
「あ、あたしも……」
その声に俺だけでなく、【アサルト】の面々も驚いていた。
格闘職のアミナが声を上げたのだ。
「トミーの言ってることは無茶苦茶だし……、にーちゃんを殺そうとしたあたし達が……にーちゃんからさらに奪うなんて無理、戦えない」
そういえばアミナだけは俺を囮にする計画を知らなかったっけ。
まぁ……他のメンバーよりはこのパーティに入って歴が浅い。我慢ならない部分が出てしまったのだろう。
だったら……こっちも。
「カナディア、下がっていい」
「いいのですか?」
「ああ、ここで勝ってもカナディアのおかげって言われそうだし……」
俺はポーションホルダーに手を入れる。
トミー、オスタル、ルネの3人は各々の武器を構えた。
「こいつらなんて俺一人で充分だ」
「言ってくれるじゃねぇか、無能!」
絶対負けられない戦いが始まる。