30 再び交易の街
交易の街。旧パーティに囮にされて追い出されてから1ヶ月も経っていないというのに懐かしい感じがある。
工芸が盛んな街に比べれば人口も多く、この国では4番目に大きい街となる。
そのために冒険者ギルドの規模も大きいし、様々なクエストが張られている。
ギヨーム商会のような危なげな組織も多いので王都よりも治安が悪い。
俺とカナディアは冒険者ギルドへと足を運んだ。
酒場と隣接しており、この酒場が旧パーティである【アサルト】の行きつけでもあった。
「ヴィーノと初めて会ったのもここでしたね」
「ああ、あの時のポーションが俺の命を繋いでくれることになるなんてな」
「ええ、まさに運命の出会いというわけですね!」
何だかテンション高く言われてしまう。
まぁ間違ってはいない。あれがきっかけでパーティを組むようになったわけだし、大げさだとは思うけど。
さすがに昼間からはあいつらも飲んだくれてはいないか。
「ヴィーノさん、カナディアさん。ようこそおいでくださいました」
交易の街の受付は歴20年のカインが務めている。
向こうのミルヴァと違い常に冷静、落ちついた態度だ。それが安心できるというのもある。
「あ、ギルドマスター。お久しぶりです」
偶然、交易の街のギルドマスターが通りがかった。俺は以前同様に挨拶する。
「チッ」
おいおい、舌打ちして向こうに行っちまったぞ。
「私はあの人嫌いです」
「元々差別意識の強い人だったからな」
カナディアがものすごく睨んでいる所を見ると相当黒髪で嫌みを言われたのかもしれない。
A級冒険者パーティ【アサルト】がここのギルドマスターと懇意にしていたからパーティを外れた俺を敵視しているのだろう。
【アサルト】がギルドの補償制度を使ったことも知っている。俺は生きているというのにお咎めなしなのはここのギルドマスターがもみ消したんだろうと思う。
「あとは王都の本部が地方ギルド支部の方に打診したことが痛手ですね」
カインが続けざまに話す。
「そういうことか」
「どういうことですか?」
ギルドマスターの器の小ささに呆れつつも、カナディアにざっくりと説明する。
ギルドとしてもS級を地元から出すことは名誉なこと。特にこのギルドは今までS級を輩出したことがなかった。
んで一番可能性のあった【アサルト】よりも俺とカナディアの方が早く打診が来たから大慌てだ。
それに俺とカナディアは工芸の盛んな街のギルドに所属しているから、自慢もできないし面目丸つぶれだ。
まぁ【アサルト】がS級になれると思って賄賂とか根回しとかもしてたらしいし、当然か。俺には何も恩恵無かったけど!
「あれでも我々の長ですからこれ以上は……」
「ああ、分かってる」
「では試験官が応接室でお待ちですのでそちらへお向かいください」
応接室は酒場の通路を通って、さらに奥にある。
俺とカナディアは堂々と酒場を横切って……応接室へ向かった。
「あれだけ暴言を吐いてたくせに何も言ってこないですね」
俺にもカナディアにも陰口を言いたい放題だったやつらが俺達が通りかかると喋りを止めて黙って見つめる。
「S級は文字通りスペシャルの冒険者で、特別なんだよ。それに暴言を吐いたりしたら自分の首をしめるだけになる」
「なるほど……ではもし、私達がS級になれなかったら」
「盛大にバカ笑いするだろうよ。実際にクラスアップできる確率は2割に満たないって言われている。1回では厳しいかもしれないな」
このあたりは試験官のさじ加減だ。
試験官がS級として相応しいと思えばクラスアップできるし、無理だと思えばずっとA級のままである。
「ふふ、でもヴィーノと一緒だったら……どんなことでも乗り越えていけるような気がします。最強の【ポーション卿】なのですから」
「はは、【堕天使】には敵わないな……。ああ、二人で頑張ろう!」






