03 アイテム係
「オスタル、アミナ、行くぞ」
「りょーかい!」
「おうよ!」
場面は古びた遺跡ダンジョンの最奥。
今回のクエストの目的はA級モンスターであるポイズンケルベロスの討伐だ。
ケルベロスとは1つ胴体に3つの頭が存在する獣である。毒のブレスを打ち込んでくる恐ろしい魔獣だ。
「行くわよ!」
魔法職のルネがロッドを翳すと10本の炎の槍が具現化し、ケルベロスの方へ向かっていく。
ルネが得意とする連続詠唱だ。大量のMPを使用するが並の魔物ならこの技だけで燃やしつくしてしまう。
ポイズンケルベロスはA級に指定される魔獣だ。この程度ではまだ倒すに至らない。
そんなケルベロスに追撃をかけるのが3人の前衛の存在だ。
ケルベロスの噛みつきをタンク職のオスタルがしっかりガード。そのままトミーとアミナが斬撃と打撃を与える。
「……」
ルネから2回目のファイヤーランスが投射された。
見立て通りMP切れだ。すぐさまは俺はポーションを保管するベルトからマジックポーションを取り出した。
「ルネ!」
俺は走りながらルネにマジックポーションを投げる。
女性でもキャッチしやすいように初速は最大に受け止め時の負荷は最小限にする。
ルネはポーションを受け取り、MPを回復するマジックポーションを飲んで、再び詠唱へ入った。
防御から一転、攻撃に転じたオスタルを含み、前衛の3人は猛攻を加える。
これがA級パーティ【アサルト】の勝ちパターンだ。圧倒的な火力で敵を殲滅してきた。
だから攻撃手段の無い俺の存在はこのパーティのお荷物という扱いとなっている。
いかに大火力で短時間で倒せるか。そこだけを考えられていた。
ケルベロスが大きく息を吸う。
「全員、後ろに下がれ!」
俺の声のすぐ後に放たれたそれは毒のブレスだった。前衛の3人はくらってしまい、膝をついてしまう。
声かけで後ろに下がったおかげで直撃じゃなかったのは幸いだ。直撃だったらさすがにただじゃすまない。
ダメージを大きく受けると前衛の動きが極端に悪くなる。この現象を王都の学者が【HP】が減るという言葉にしていた。
なので俺達冒険者はHPやMPという言葉をごく当たり前のように使用している。
今、3人のHPはかなり削られた状態になっている。
俺は全力で走ってケルベロスの後ろにまわりこむ。
「口をあけろ!」
3人の内の1人……まずは盾役のオスタルの口の中にポーションの瓶を投げ入れる。
【アイテムユーザー】の俺は走りながらも味方を支援する技を持っている。
仲間の口の中にポーションを投げて、口に咥えさせるなんて楽勝だ。
「おっしゃー!」
俺の作った特別ポーションは毒を消す力もある。昨日徹夜で作って、本当によかった。
続いて、体力の低いアミナの口に投げ、最後にリーダーのトミーに投げ入れた。
「回復遅いよ-!」
イライラを隠さないアミナはオスタルに続いて動く。
「……」
最後に回復させたトミーも不機嫌な顔だ。
そう、この3人は誰が敵を倒すかを競っている。なので回復が遅いと出遅れるために不機嫌となるのだ。
……3人同時に回復できない俺の無力さが悪いのだろう。
ヒーラー職であれば同時に癒やせると聞く。
「ちょっと、早くポーション渡しなさいよ!」
ルネのMPがまた切れてしまったらしい。前衛の状況も考えてほしいが、こいつはこいつでトドメをさしたがっていた。
俺は懐のマジックポーションを手に、ルネへと投げる。
……ったく忙しい。
そうして……何度かの回復を経て、ポイズンケルベロスを討伐することができた。
「まぁ余裕だったね」
「俺の攻撃のおかげだな!」
「よし、戻るぞ」
前衛3人に対して使用したポーションを6本。後ろのルネにはマジックポーションを3本。まぁ……こんなもんだろう。
気付けばトミーが俺の側に来ていた。
「これでS級クエストの挑戦権を得ることができるだろう」
「ああ、そうだな」
「これも……今まで俺達を支えてくれたヴィーノのおかげだ」
パーティリーダーのトミーがにこりと笑う。
何だよ……いきなり、そんなこと言われたら何て顔をしていいか分からないじゃないか。
だけど……そう言ってくれるなら円満にパーティを脱退ができるのかもしれないな。
「俺達【アサルト】はS級となり、さらなる名声を得ていきたい。だからヴィーノ。……いままでありがとう」
「え……」
その瞬間、俺の腹を何か鋭いモノで貫く感触がした。