29 黒髪テイスティング
「おらぁ……もっと飲めよ」
「も、もう無理ですぅ……」
「そのゆるゆるのお口にデッカイものぶちこんでんだからよ」
「ヴィーノ、わ、私……もう入らない……」
「カナディア……ほらぁ、ゆっくりとお口を開けるんだ」
「ああああ……早く、イかせて下さい!」
「カナディアは1度に飲めるポーションは10本が限界か……」
「と、トイレに行ってきます!」
「おー、行ってこい」
カナディアが猛スピードで走っていった。
この前の戦いで1人が飲めるポーションの本数には限界があることが分かった。
ヒーラーの回復魔法であるヒーリングと違ってポーションは液体である。
おまけにコップ1杯分くらいの容量があるので飲みまくるのはなかなか厳しい。
あと店売りのポーションは吐くほど苦い。なので飲みやすさというのは意外にバカにならない。
人の胃腸には限界があるため俺が改良して飲みやすくしているのだ。
「ポーションの調合って……大変なのですね」
お腹を押さえたカナディアが戻ってきた。
つらいことを押しつけてしまったが基本飲むのはカナディアだからそこは仕方ない。
◇◇◇
交易の街へ向かうため、馬車を呼び、御者にお金を払って進んでもらう。
交易の街まで馬車で2時間、のんびりと過ごさせてもらおう。
「私、馬車って初めてなんですよ」
「え、今まで移動はどうしてたんだ?」
「走れば1時間くらいでいけるので」
カナディアは単独でA級まで登り詰めた冒険者。
全体的に能力が高いんだな。今回も走った方が早いんだろうけどわざわざ体力を使う必要もない。
「……この髪で乗車を断られたというのもあります」
「そうか」
金さえもらえばどんな客でも乗せる御者とは裏腹に気分屋の御者も多い。
本当に苦労したんだなと思う。
こうやって2人並んで座っていると……カナディアの黒髪を意識してしまうな。
「なぁカナディア」
「なんですか?」
「髪触っていい?」
「ほえっ!?」
びっくり声を上げられる。あまりの驚きに御者がこっちを見ちゃったじゃないか。
「いや、……何というか何度も言うけど綺麗だなと思って。失礼な言い方だけど黒髪じゃなかったらあらゆる女性冒険者が憧れると思うぞ」
「母から髪は女の命。身だしなみだけは気をつけなさいときつく言われましたから」
カナディアの両親か……。
この話だとカナディアの両親も黒髪なんだと思う。
お互いにまだ知らないことが多すぎる。
……S級冒険者になって落ち着いたらもう少し内面に踏み込んでみたいな。
「普段は絶対触らせないんだけど、ヴィ、ヴィーノならいいですよ……」
「いいの!? 気持ち悪いって断られると思ったから」
「気持ち悪いです」
「じゃあ遠慮無く」
暴言は聞かなかったことにして……横からカナディアの黒髪の先端に触れていく。
サラサラできめ細やかな髪質。手櫛のように指でとかしてみると枝毛に引っかかることなく手が下まで通る。
背中に垂れる髪をすくって、香りを嗅いでみる。
「う、うぅーん」
「どうしたの?」
「な、何か変な感じです。気持ちいいような、恥ずかしいような、嫌なような」
「まぁ嫌だったらやめるし……言ってね」
「嫌」
「あとちょっと、ちょっとだけ!」
もうバレてると思うが俺は女の子の髪が大好きである。
胸も尻も大好きだが、同じくらい髪が好きだ。
そういう意味ではカナディアは全て理想的で完璧な容姿であると言える。
俺の夢の1つに、女の子の髪にくるまれて眠りたいというのがある。
カナディアの髪の量ならそれも可能じゃないかと思う。
「カナディアはさ」
「髪にくるまりながら話かけてくるのやめてくれませんか」
顔に当たるのすっげー気持ちいい。カナディアの声に呆れが入ってきているのでそろそろ限界だろうか。
「黒髪のこと以外に……望むもの、夢とかないのか?」
「ありますよ」
髪から顔を外し、手櫛で綺麗な髪を整えて……背中の方へ戻していく。
とても良い髪だった。今度もっと触らせてもらおう。
「……お嫁さんになって幸せになりたいなって思います」
突如それを言われ……俺は思わず手を止めてしまう。
女の子なのであればそんな夢を持つことだって当たり前だと思う。
でも冒険者である以上は常に死と隣合わせだ。
結婚している冒険者も多いが……気付けば伴侶を失っているという話もよく聞く。
「結婚したら……たくさんの子供が欲しいとかあるのか?」
「それは思いますよ。でも」
カナディアは首を振った。
「まだ、黒髪の子供が生まれると……不幸になりますから」
カナディアの夢は全て繋がっているんだ。
黒髪の人間が堂々と歩ける未来を作り上げていくことで……。
「ヴィーノにも手伝ってもらいますからね!」
「ああ、当然だ」
馬車はがたごと音を立てて進み、やがて交易の街へと到着する。
「お、見え「髪は夫にしか触らせないんですから!」てきたな!」
「うん? 何か言った?」
「ふふ、例え逃げたって地の果てまで追いかけるんですからね」
「よく分からんが分かった!」






