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28 二つ名

 砲弾龍の討伐クエストを終わって数日。

 砲弾龍の砲弾により被害を受けた街の修復や、大通りにある、死体となった魔獣の撤去作業で俺達、冒険者達はずっと働きづめだった。


 レアな魔獣である砲弾龍の素材を売ったりしたおかげで街の修復の費用は賄えるようだ。

 俺も貴重な部位をもらい、今後のポーション合成に役立てることができそうだ。


 カナディアは孤児院の方へ手伝いに行っている。

 今回の件があり、砲弾龍の進行方向に孤児院があったためギヨーム商会も施設の建設場所を変えたらしい。


 まぁ40年後にやって来る可能性がある所に大規模施設は作らないか。

 孤児院から引っ越しする必要は無くなった。


「ヴィーノさん、おはようございます!」


「ミルヴァ、おはよう」


 受付嬢ミルヴァは元気いっぱいに声をかけてくれる。

 この前の戦いでは相当無理させてしまい、怖い目に遭わせてしまったと思う。


「あの戦いが終わってから……ヴィーノさん、大人気ですね」


 破滅級の魔獣は下手すればS級モンスターよりも討伐が難しいとも言われている。

 まぁ、他の冒険者達が俺の指示に従ってくれて、全力で戦ってくれたのが大きい。

 勝手気ままに動かれていたらこうはならなかった。


 なんだけど……。


「お疲れ様です、【ポーション狂】!」

「今日は何のポーション作ってたんですか【ポーション狂】!」

「【ポーション狂】のポーションマジですごいっすね! 新しいの売ってくださいよ」


 このように下級冒険者から慕われるようになった。


「なぁミルヴァ。俺は【ポーション卿】って言われてると思ってるけど……何か発音が違うような気がしてならない」


「あはは……【ポーション狂】ですよ、【ポーション狂】」


 栄誉なことで二つ名を手にいれたのだが、どうにも疑問が残る。

【ポーション卿】なら別にいいんだけど……。


 あと……。


「ひっ!【ポーション狂】」


 何か女性のギルド職員や一般人が俺の顔を見て怯えるんだがどういうことだろうか。


「そりゃあれですよ。ポーション飲み過ぎてもう飲めない女性冒険者に『もう飲めないだと!? じゃあそのガバガバの口に飲みやすいようにドロドロした真っ白いものがつまったデッカイやつをつっこんでやる』とか言って乱暴するからですよ」


「ポーションを口に咥えさせただけだろ!? あと言い方!?」


 15歳の女の子がそんなこと言うんじゃない。

 そりゃ液体じゃ何本も飲めないって意見を参考にしてヨーグルトタイプのものを用意したというのに……。

 その件があってから女の子の口に無理やり瓶をつっこむ変質者みたいな噂が上がってしまった。


 男性の冒険者からは同情されるが……正直きつい。


「でも……あたしは【ポーション狂】結構好きだけどなぁ」


「へ?」


 後ろから現れたのは砲弾龍の時に魔法職【ソーサレス】として戦ってくれたC級の女性冒険者だ。

 俺よりも年上で……結構色気ムンムンである。


「ねぇ、もしよかったら夜に一緒にポーションのことで話し合わない」


「え、えーと」


 ごくわずかな女性冒険者からウケがよくなったのだ。

 決まって遊び慣れているお姉さんタイプの人なんだが、恋人のいない……俺は願ったり叶ったりだったりする。


 だけど……後方から何やら圧を感じ、俺の額から汗が噴き出る。

 危機感というやつだろうか。


「あ、カナディアさん」

「あ、あたしは用事があるから帰るね!」


 色っぽいお姉さんは去り、振り返ると……殺気をまき散らしたカナディアの姿があった。


「あ、あのカナディアさん……?」


「別に浮気は男の甲斐性ですので……ヴィーノが誰を愛そうが私は構いません」


 ザスッ!


「なんで大太刀を地面に刺すの!?」


 魔獣も去ってしまいそうなほどの圧力だ。


「妻は後ろで泣くばかりです。まぁ、ヴィーノが他の女を手に入れるというならその女を殺して私も死にます!」


「君の夢は黒髪の地位向上だよね!? そんなことで死ぬの!?」


「それはそれ」


 カナディアが相当重い感じになっていて、恐れおののいてしまった。

 別に俺はカナディアと交際してるわけでも何でもないわけだし……誰と喋ろうが勝手じゃないだろうか……。

 もしかしたら俺が他の女と話すことでカナディアを捨てるって思われているのかもしれない。


 そうだよ。俺がいなくなったらカナディアは1人になってしまう。だから不安なのだろう。


「大丈夫だよ。俺は絶対カナディアを手放したりしない」


「え?」


「君がその黒髪で俺を癒してくれる限り……側にいるからさ」


「ヴィーノぉ! うへへへへ、そんなこと言われたら照れちゃいますよぅ」


「チッ、えーとヴィーノさんとカナディアさんにここ来ていただいたわけは……ですね」


 今、思いっきり舌打ちをされたような気がする。

 まぁ……そこは聞かなかったことにしよう。

 カナディアもミルヴァに呼ばれたからここにいるのか。


「冒険者ギルド協会からの連絡でお二人には正式にS級冒険者になるための認定試験を受けていただきます」


「え」「へ」


 俺とカナディアの声が重なった。


「おめでとうございます! この試験に合格できればお二人はS級冒険者ですよ!」


「本当か! 俺はともかくカナディアはまだ足りないんじゃなかったのか」


「やはり砲弾龍を倒したのが評価されたようですね」


「カナディア、やったな!」


「夢に一歩近づきましたね! 嬉しい……」


 S級冒険者になれれば王都にある国管轄のクエストを受けることができる。

 S級は身分の証明として絶大的な信頼もされるので……安心だ。

 カナディアの黒髪の言い伝えを払拭する土台作りになるのだ。


「がんばれよ、【ポーション狂】! 応援してんぜ!」


 S級の話を聞いた他の冒険者達が応援してくれる。


「頑張れよ【堕天使】!」


「はい、ありがとうございます!」


 俺が【ポーション卿】という二つ名を頂戴した中でカナディアは【堕天使】という名をもらった。

 あの時俺が飲ませたポーションの効果で白い羽根を生やしたわけだが、それと黒髪の姿が相まってそんな二つ名となってしまった。


「なぁ、カナディア。本当に【堕天使】でいいのか?」


「え? はい! 私の黒髪をモチーフにしているのですよね。だったら……嬉しいです」


 女の子にこんな二つ名付けるってどうなのかなって思ったけど……本人が納得しているならいいか。

 この二つ名もあってこのギルドにいる奴らは皆カナディアへの憎悪の気持ちが消え去ってしまったのだ。


 孤児院にギルドと……カナディアの居場所が出来てきているのがとても嬉しい。


 S級冒険者となれば王都に住み、仕事をすることになるのでつらい時に帰る場所が作れるのであればそれが一番だ。


「試験は3日後、交易の街に試験官が来られるそうなので向かってください」


「ああ」「分かりました」


 ミルヴァの言葉に気合い充分に返事をする。

 ギルド内の冒険者達も俺達の旅立ちを応援してくれていた!


「【ポーション狂】!【ポーション狂】!【ポーション狂】!」

「【堕天使】!【堕天使】!【堕天使】!」



「本当に応援してんのかこいつら……」


 悪口言ってるんじゃないよな……。

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書籍版ポーション160km/hで投げるモノ! ~アイテム係の俺が万能回復薬を投擲することで最強の冒険者に成り上がる!?~』
第2巻が7月20日 より発売予定です! 応援よろしくお願いします!

表紙イラスト
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