23 対砲弾龍戦②
明朝……日が上がってきて、砲弾龍の咆吼で嫌でも目が覚める。
「見えてきたな」
通るだけで災厄を振りまくと言われた破滅級の魔獣。
砲弾龍ではないが、2年前に王都のクエストで破滅級の魔獣と戦った時は雑用係として支援するのみだった。
基本的に戦い方はどれも同じのため……俺の指揮でもやれると思う。
「うぅ……緊張します」
受付嬢ミルヴァは俺の補佐役という形で来てもらった。
さすがの俺も17人のポーション支援をしながら指揮をするのは無理がある。
使用するポーションの選定や巡視をお願いするためここに来てもらっていた。
俺とミルヴァは高所にある見張り台におり、俺のポーション投擲の射程圏に全て入っている。
「ここに弾が飛んでこないですよね……」
「砲弾龍だから可能性はあるな。そのために滑空装置を装備させてんだから何かあったら飛び降りて逃げていいよ」
「私、ただの受付嬢なのに……」
他のギルド職員は街の住民の避難に尽力してくれている。
街の規模が小さいのが幸いしたな。避難誘導は順調のようだ。
俺を除く17人の冒険者。
A級冒険者のカナディア。この戦いの圧倒的エースだ。
そしてタンク職の【ファランクス】が6名。進行をなるべく食い止める役目を持つ。
戦士職の【ナイト】が6名。破滅級の魔獣はまず足を攻撃して、怯ませる。貴重な火力役だ。
魔法職【ソーサレス】が4名。魔獣が出す砲台をぶっ壊していくのが目的。
40年前の進行ルートに進まれると街は大損害に陥ってしまう。
なので各員にはダメージを与えて、進行方向を変えて………撤退させるのが目的と伝えている。
しかし、俺の目標は違う。
このポーションの力とカナディアの戦闘力をうまく使えば……討伐だってできると思っている。
カナディアをこの討伐の立役者に仕立て上げれば……彼女はこの街の英雄となり、黒髪の言い伝えを打ち破ることができる。
「ヴィーノさん、砲弾龍が正門をくぐって大通りに入りました!」
寝転んだ人7人分はある幅の大通りに、すっぽり入るくらいの図体。
高さは……一軒家の屋根くらいはあり、ちょうど……大通りを横断するためのアーチ状の橋がギリギリ抜けられるくらいだ。
昔の人はすごいな。それを想定して大通りの幅や橋の高さを決めたというのか。
破滅級の魔獣で最も恐ろしいのは尾である。
その尾を振り回すだけで弱い冒険者はあっと言う間に倒れてしまう。
だけど大通りの幅は魔獣の体でちょうど良く埋まっている。おかげでやつはしっぽをうまく動かせない。
これは大きなアドバンテージとなる。
4足歩行でのっしりと動いているが、でかいだけあって一歩の距離は長い。
一応龍という扱いだが……亀って感じもするな。
今は砲台がまったくないが……どこから出てくるのやら。
俺は拡声器を手に取る。言葉を円錐状の機械に通して拡散することができる。
魔法の力で各員の耳に伝わるこの魔法機械は集団戦においてとても便利である。
「よし、見立て通りだ! ファランクス隊……龍を食い止めろ!」
大通りの真正面からタンク職の6人が砲弾龍の進行を押さえようと盾で押しつけ、槍で突く。
事前情報では砲弾龍の攻撃に爪による斬り裂きはない。
至近距離まで行けば有効的に戦えるのだ。踏みつけだけには充分気をつけてもらわないといけないが。
「ナイト隊! 足を斬りつけろ!」
6人の戦士職が前足に3人ずつ分かれて、剣で斬りさいていく。
龍の鱗は非常に固い。しかし時間をかけて削っていけば弱っていき、柔らかい肉質が露わになる。
足を攻撃して、ダウンさせれば頭部にも攻撃が届くようになる。そうすれば大きいダメージも与えられる。
破滅級の魔獣の耐久は異常と言われる。俺が攻撃に専念すればもう少しダメージを稼げるのだろうが……支援役が1人もいないパーティでそれをやると戦線が維持できなくなる。
今回の俺の役割はあくまで指揮と支援。ダウン時のみ攻撃に専念しよう。
普通の魔物だったら俺のポーション投擲でゴリ押せるんだけどな。
「ソーサレス隊! 砲台が出てくるまで頭部に向かって魔法を撃て、全力だ!」
空にかかる橋のあたりに配置させた魔法職の4人は各々、得意な攻撃魔法を砲弾龍の頭部に撃ち込んでいく。
砲弾龍はたまらず、呻き声を上げた。ダメージが入っている。これならいける!
ここまでは大丈夫だ。そろそろ……本格的に砲弾龍が向かってくるか。
「あ、ヴィーノさん。魔法隊の1人がMPが切れたと言っています」
「分かった!」
「私、あの人にマジックポーションを渡してきますね!」
「必要ない」
「え?」
「ソーサレス3番! 口を開けろ」
俺は見張り台の足場に並べたポーションコンテナからマジックポーションを取り出し、MPが切れたというソーサレスにぶん投げた。
この位置と距離であれば外すはずもない。
ソーサレスの口の中にすぽりとポーション瓶は埋まっていく。
「……ポーションって手を使って飲むものですよね?」
目をぱちぱちするミルヴァに俺はごく当たり前に言ってやった。
「ポーションは口にぶち込んで飲ますもんだぞ」






