21 集合
工芸が盛んな街に警鐘が鳴り響く、
「カナディア、行くぞ」
「はい!」
どちらにしろこれを聞いた時は冒険者は一斉にギルドへ集合しなければならない。
「ヴィーノさん、カナディアさん、気をつけてください!」
「ああ、後で状況説明があると思うからピエラさんも子供達と集まって気をつけておいてくれ」
「みんな! ありがとうございます!」
俺とカナディアは冒険者ギルドの方へ向かう。
「ヴィーノさん! カナディアさん!」
冒険者ギルドの中に入った俺達を見て、受付嬢のミルヴァが安心したように声をあげる。
ピンクの巻き髪が印象的な女の子でぴょんぴょん跳ねている所は若くて初々しいなと思う。
「A級のお二人がいてくださって……本当にありがたいです」
工芸が盛んな街は小規模ギルドだ。所属しているパーティはどれもC級以下の冒険者ばかり。
B級以上は用でもない限り、この街を根城にはしない。
「何があったんだ?」
「ほんとに、ほんとにやばいんです! 今、ギルドマスターを呼んできます」
ミルヴァは15歳。成人して初めてここの受付嬢になったと言っていた。
若いながらもやる気に溢れていて人なつっこい女の子だ。
「いつものほほんとしているのに……よほどのことのようですね」
「カナディアはミルヴァと話すのか?」
「ええ、このギルドで黒髪を忌避しないのは彼女くらいなので」
そんな話をしている内にギルドマスターがやってきた。
「すなない、お待たせしてしまったようだね」
恰幅の良い、丸々とした体をして近づいてきたのはこの街のギルドマスターだ。
この街に20年以上も勤めており、誰よりも詳しい。
ギルドマスターがやってきたのに合わせて、ギルドの中にある待ち合わせ所に腰かけていた冒険者達が近づいてきた。
見知った顔はない。B級以上はいなさそうだ。
「集まった冒険者は18人です……」
ミルヴァの沈んだ声に……ギルド長の表情も険しくなる。
「それだけか。そうか……仕方ない」
「緊急事態で冒険者を集めたってことは……強大な魔獣が現れたってことですか?」
俺の問いにギルドマスターは頷いた。
「【破滅級魔獣】に指定されている砲弾龍ブラアニが明朝、この街へやってくる」
ギルドマスターの言葉に一同ざわついた。
本来、魔獣はS級からD級まで区分で分けられているのだが、それとは別に破滅級という形で違う区分にされている魔獣がいる。
それらは例外なく太古より生きていて、恐ろしい力を持つ魔獣なのだ。
サイズも圧倒的で1パーティ5人で倒せるレベルではなく、破滅級の魔獣と戦う時は数十単位で人を集めて討伐する。
しかし解せないのは……なぜそんな魔獣が現れたのかだ。基本的には人里の近くに現れるものではなく、遠く離れた所で様々な理由で討伐されることが多い。
「今回、砲弾龍が現れた件については……私の父が説明しよう」
その声とともにギルドマスターの後ろからゆっくりと杖をついた老人が現れた。
軽い自己紹介の後、老人は砲弾龍について声をあげた。
「砲弾龍は40年に1度現れるのじゃ」
「40年に1度ってことは40年前にも現れたんですか?」
俺の問いに老人は頷き、息子であるギルドマスターにこの街の地図を出させる。
全体図の正門を指さした。
「現れた砲弾龍はこの進路を通ってこの街を通過する。おまえさん方。なぜこの街に巨大な大通りがあるか知っているか?」
この工芸が盛んな街は馬車の移動や流通を滞りなくするために、中央を真っ二つに割る大通りが存在する。
日常、人が大通りを横断するときはアーチと呼ばれた上空にかけられた橋を渡るもんだ。
「この大通りこそが、砲弾龍の通る道なのである」
老人はペンを使って、砲弾龍が通るルートを地図に書き記した。
この街の歴史は古い。まさかそのような目的だったとは驚きだった。
「つまり、さらに40年前も同じようなことがあったということですね?」
「左様。ワシの祖父が言っておったわ。砲弾龍が通った後は草すら生えないと……全てを破壊尽くしてしまったと……。それでこのような龍が通行できるような大通りを作り上げたと聞いている」
なぜ砲弾龍がこのルートを通るかは誰も知らないようだ。産卵期なのか、何か目的があるのか。
40年前はこの大通りのルートを通らせた為最低限の被害ですんだ。今回もそうすれば……。んっ?
「大通りのルート、変わってないか? 老人、これはどういうこと……」
「ええい! 30年前、当時の街の長が砲弾龍などもう現れないと言って、大通りのルートを変更しおったのじゃ! ワシらの反対を押し切って……進めおって」
そんなことがあったのか。
そして実際今年……砲弾龍は現れた。ってことは……途中までは大通りを通るが、その後は新設された所ではなく……従来のルートを通る。
「あ、……孤児院が!」
カナディアは地図を指さす。
砲弾龍の進行先にはたくさんの家屋があり、その先に……さきほどまで話をしていた孤児院が対象となっていたのだ。
「進行方向にあるものは……どうなるんです?」
「全て破壊されるのじゃ。奴が砲弾龍と呼ばれる由縁、まるで機械のように体中から砲台を生み出して全方位に弾をばらまく。そして3度の奇声を上げた後、額のコアが赤く光り、口から放たれる熱線は全てを焼き尽くし、なぎ払われるのじゃ」
なんてこった……。
そんな魔獣が現れたってのか。






