20 新技
ポーションを使えば全ての攻撃を受け流せる。
ポーションがあれば何だってできる!
「くそっ、高い金出して雇ってんだ…。ちゃんと殺ってもらいますぜ!」
こいつ……傭兵か。
冒険者とはまた違う体系で動く流れ者。金さえ渡せばどんな汚いこともやると言われている。
この男は恐らくB級冒険者レベルの力がある。
この街のギルドにはC級以下しかいないと分かっていたから呼んできたのか。
だったら……見せてやろうじゃねぇか。
俺はホルダーに手をかけ、速射でポーションを2本ぶん投げた。
このスピードを避けられるわけない。
シュパ!
それは俺の想像と違った展開だった。
また、頭にぶつけ昏睡すると思っていたのに……止められてしまったのだ。
斬られて落ちるポーション。地面に落ちて瓶が割れる音が聞こえる。
俺のポーションが通用しないだと?
和装の男はまた飛び出してくる。
受け流しに集中し、隙をついてポーションを投げるが全て刀で斬られてしまった。
こいつ……見切ってやがる。
どうする。もっと早く……タイラントドラゴンを倒した時のように本気でぶん投げれば見切られないかもしれない。
だが……それをすると間違いなく和装の男の頭が飛ぶ。手足どこにぶつけても多分その部位が飛ぶ。さすがにそれはまずい。
だけど殺さないレベルだと見切られてしまう。
どうすれば……。
「ヴィーノ!」
カナディアが心配そうに声をかける。大太刀を持ってりゃカナディアに変わってもらってそれで終わりだ。
でもここは俺が何とかするって決めたんだ。
迷ってる暇はない。
あれを使うか。
後ろに飛んで、和装の男から少し距離を取る。
俺は呼吸を整え、両足に力を込めて、膝をあげる。
和装の男は刀を構えた。おそらく投げたポーションを斬ろうとしてるのだろう。
あげた膝を降ろしつつ、前へ進むように力を入れる。
その足を支点として俺は肩をまわし、ポーションをぶん投げた。
いつもと違う所が1つだけある。
それは……。
「そのポーションは落ちるぞ」
「!?」
ポーションが急下降したおかげで和装の男の振った刀は見事から振る。
その後、和装の男の大事な大事な股間の急所へ直撃した。
「がはっ!」
和装の男は泡を吹き、倒れてしまった。
その痛み分かるよ……。すまないとは思っている。
「新技……名付けて、フォーク・ポーションなんてどうかな」
ポーションを投げる時に指の握りを変えるだけで変幻自在に軌道を変えられる。
これぞ変化ポーションと名付けたい所だ。
「く、くそ! 覚えてろよ!」
そんな捨て台詞とともにスーツ姿の男は逃げていった。
これでしばらくは大丈夫……と思いたい所だ。
「ヴィーノ!」
「お、おい!」
ちょっと格好付けていた所、カナディアが抱きついてきた。
急に感じた女の子の柔らかさにものすごく動揺してしまう。
さらりとした黒髪が触れて気持ちが高揚し、胸に良い感じのものが当たってとても心地が良い。
やべっ、興奮しちゃう。
「すごいです! やっぱり……ヴィーノは憧れの……私の夫」
「おお! そ、その、カナディア。みんな見てるから」
「え?」
カナディアってやっぱいいカラダしてるよなぁ……と思い続けたかったが
子供達が矢継ぎにラブラブだーってはやし始めたので情操教育にまずいと思ってきた。
「わ、私ったら! はしたない……」
カナディアは飛びつくように離れて、両手を頬にあて、顔を紅くさせた。
「にいちゃん!」
ディノが飛び出してきた。
「にいちゃんすげー強いんだ! 俺、大きくなったら冒険者になる! にいちゃんみたいにポーション使いになる!」
「ポーション投げは絶対オススメしないけど……がんばれよ。スリなんかせず、君が先生やみんなを守ってやるんだぞ」
「うん!」
やれやれ、気付けば外は真っ暗だ。
とんだ休日になってしまったな。
宿に戻って、明日の準備を……。
ゴォォォォォーーーン!
ゴォォォォォーーーン!
ゴォォォォォーーーン!
「な、何!?」
急に鳴り響く鐘の音、これは確か……。
ギルドが外の住民に向けて出す警鐘だ。
ここ数年聞いたことがなかったが……何かあったんだろうか。
俺とカナディアにとって最初の大きな戦いが始まる。