18 お茶でも飲もう
「何とお礼を言っていいか……」
「冒険者のきまぐれって思ってくれてかまわないさ」
「ねぇねぇ! あのポーションっておっさんが作ったの!? 店売りとは違うよね?」
「こ、こらディノ」
おっさんじゃねぇ! まだ19歳だ!
俺とカナディアは先のやりとりで孤児院で少し話をすることになった。
俺はテーブルで女性と男の子、ディノと話をする。
「申し遅れました。私は院長のピエラと言います。この子はディノ。いたずらっ子で本当に申し訳ありません」
「俺は冒険者のヴィーノ。あっちはカナディアだ。ディノ、スリはやめとけ。割に合わないし、相手次第で孤児院のみんなに迷惑かかるからな」
「はーい……」
ディノはふてくされたように言葉を出す。
まぁ……10歳ぐらい男の子だと言うことはなかなか聞かないだろうな。
カナディアはというと。
「おねーさんの髪きれー。どうやって手入れしてるの!」
「ふわふわ……」
「だっこしてぇ!」
「はぁ……子供はかわいいなぁ」
ケガをしていた女の子のアリーと他の幼い子達から大人気ですっかり囲まれて愛されてしまっていた。
「あの子達には黒髪の言い伝えを話してないのか?」
「はい、差別になるようなことは教えないようにしています。私もここの孤児院出身で……代々の院長の教育ですね」
「ピエラさんも含めて良い人達に育ててもらっているんだな」
「ありがとうございます。……でもカナディアさんの姿を見ると言い伝えはただの言い伝えですね。とても優しい顔をしてらっしゃる」
正直ここまで上手くいくとは思っていなかった。
黒髪を嫌うように教えこまれている子供達は平気で石を投げたりしてくる。
しかし、さっき孤児院の前で子供達と話をした時にカナディアに嫌悪な感情を抱いてなかったからもしかして……って思ったんだ。
俺以外にカナディアに気を許せる人が現れたら……きっと彼女にとって大きな力になると思った。
だからこうやって無理やり孤児院と関係が作れるよう取り払った。
「おじさん」
「にーちゃんな」
そこは否定させてもらう。
「にーちゃんはA級冒険者なんだろ! 強いってことだよな」
「ま、まぁな」
カナディアは間違いなく強いが、俺はどうだろう。
ポーション投擲には慣れてきたとはいえ、魔獣以外には試していないのでちょっと分からなかったりする。
「じゃあ、あいつらを追い出してくれよ! 先生が」
「こらっディノ! ……ヴィーノさん、ごめんなさい。忘れてください」
「何か困ったことがあるなら教えてくれ。力になれるかどうかは聞いてからでも判断できる」
ここで恩を売るのは悪くない。
ピエラは躊躇したが……やがてゆっくりと話を始めた。
「交易の街のドン・ギヨームをご存じですか?」
知らないはずがない。
交易の街に存在するギヨーム商会のボスの名前だ。
正直良い噂は聞かない。よく言われる反社会組織ってやつだ。
旧パーティのリーダーのトミーからギヨーム商会には手を出すなと直々に言われたしな。
多分トミーは商会から金を握らされていたんだろうなと思っている。
A級冒険者とは本来敵対になるはずだから見逃させていたんだろう。
「ギヨーム商会の社員が……最近、この街によく現れるんです。どうやら大きな商業施設を作るのが目的だそうです」
ここで作られた工芸品が交易の街や王都へ運ばれていく。
そのためこの街は小さいわりに流通は盛んで人の出入りも多い。
小さいとはいえギルドがあるのもその影響だ。
「大きな商業施設をここに建てるから孤児院を明け渡せと迫ってきているんです。立地条件が一番いいって」
「そうか、ギヨームに目をつけられたか」
「あいつらマジでひでーんだ! 子供なんて奴隷にしてしまえばいいって、金になるって……。おれやアリーはまだしも、チビ達は……」
このような話は決して少なくない。
ギヨーム商会の手にかかって滅ぼされた場所はよく聞く。
「ピエラさん。手はあるのか? ギヨームは絶対諦めないぞ」
ピエラは首を横に振った。……さすがにないよな。
「にーちゃん達でもどうにもならないの?」
厳しいようだが、難しい。さすがに表だってギヨーム商会に敵対するわけにはいかない。
事件とかが発生すれば一時しのぎするくらいはできるけど……。
「冒険者を雇う金はないよな?」
「はい、……冒険者の方々に見回りはお願いしていますが。ずっとは無理だと言われました」
それもあくまで好意だろう。それにC級の冒険者であれば無理やり突破される可能性もある。
やはり刃向かうくらいなら逃げ出した方がいい。
「王都には身よりのない子供達を集めて……仕事を振り分ける場所もある。公的な機関だし、奴隷よりはマシのはずだ。15歳になればちゃんと成人して働きに出ることができる」
王都には何度か冒険者のクエストで向かっているからそういう施設があることを知っている。
路頭に迷うよりは幾分良いだろう。
「だけど……王都に向かうまでの護衛にかかるお金が……。魔獣が出る中子供達を連れては歩けません」
「護衛だったら格安で引き受けてもいい。カナディアのためになるなら……安いもんだ」
「あ、ありがとうございます!」
本来A級冒険者がやるようなことではないんだけど、俺自身が最底辺と呼ばれて悔しい想いをしたもんだ。ガキ達を背負い込める甲斐性はないが可能な限りは手を差し伸べてあげたい
目的も達成できたし、引き上げるとしよう。
「!?」
カナディアが急に立ち上がった。
その表情はさっきまでのふやけた感じではない、冒険者としての顔だ。
何かを感じ取ったのか?
 






