17 孤児院
眼鏡をかけたエプロン姿の若い女性が俺達を睨んだままだ。
だが、体が震えている所を見ると荒事にはそこまで慣れていないという感じだ。
戦闘に特化した体のごつい冒険者相手だとそうなるのもおかしくはない。
話をするか。
「その子が仲間の財布をスったので返してほしいからここまで来た。ちゃんと返してくれたら危害は加えない」
「ディノ?」
女性にじっと見られて少年は目を伏せる。
ここで白状してくれたらそれでよかったが。仕方ない、細工を披露するとしよう。
俺は右手をあげた。
「わっ!」
少年の懐からがま口財布がするりと出てくる。
それはそのまま俺の手のひらにおさまった。
「わー、ヴィーノ、どうやったんですか?」
さっき少年の首根っこ掴んだ時に糸を使った仕掛けをしたのだ。
あの時、財布を抜き取ってもよかったんだが……大人が出てくることも考えられたからな。
旧パーティが脳筋ばかりだったのでこういう搦め手は俺が担当していた。
まっ……それも評価されることはなかったが。
「ディノ! また、あなたは……」
「っ!」
「大変申し訳ありません。この罰は私がお受けします。どうか……どうか、この子を許して頂けないでしょうか」
女性は深々と頭を下げた。
子供のいたずらの罰は保護者が受けるモノ、当然だ。
俺はカナディアに財布を渡した。
「ヴィーノ、私は財布さえ戻れば……いいのです」
俺の意図を分かったのかカナディアは首を振った。
でもちゃんと落とし前をつけなきゃな。
「……ならこのポーションを飲んでもらおうか」
『え?』
全員の声が揃った。
「飲むのはそこのケガをした子だけど」
「わ、わたし?」
さっきのやりとりで言葉を発した子供達の中で1人体の大きな女の子がいた。
確かアリーと呼ばれていたっけ。足に包帯を巻いており、ケガをしているのが今でも見えている。
俺は腰に巻いたホルダーからポーションを取り出し、アリーに手渡す。
「毒でも何でもないから安心しな」
「あ……うん」
「あの!」
女性が何か言うのを手で止めさせた。
女の子は恐る恐るポーションに口をつける。
「あ、甘くて美味しい」
カナディア好みに合わせて俺が調合したポーションだ。甘味は通常よりマシマシで入れている。
女の子はまるでジュースのようにごくごくと勢いよく飲んでいった。
女の子が自分の足に手をやる。
「……全然痛くない」
やっぱり外傷だったようだ。それならポーションですぐに治すことができる。
女の子は飛び跳ねて、喜びを体いっぱいで表現している。
女の子を含めて子供達は嬉しそうな顔をしたが女性だけは表情を曇らせていた。
女性が一歩出てくる。
「この子のケガを治して頂けたのは嬉しいのですが……ポーションのお金を支払う余裕はないんです」
「だったら……」
俺はカナディアの方をちらっと見て、女性の方へ視線を戻す。
「少し孤児院でお茶でも飲ませてもらおうかな」






