15 デート
「そんな服持ってたんだな」
「私だって女なのですから……綺麗な服は憧れるのですよ」
2人横並び、街並みを歩幅を合わせて歩いて行く。
「憧れだったんですよ。かわいい服着て街並みを歩くの……」
「普段は着て歩かないのか?」
「そうですね。やっぱりこの黒髪を見て……嫌がる人も多いですから。石を投げられることもあるし、汚れるのは嫌だから普段は……ね」
この国では黒髪は災いを呼ぶものと言われている。
今でもギルドでは煙たがれることも多いし、決して扱いは良くない。
今は俺が側にいるから表だって批判をしてくる者はいないが、1人だったら悪いことにしかならないだろう。
なので必需品など買わないといけない時は髪を帽子で隠しているらしい。だが黒髪の地位向上を求めるカナディアとしてはそれはあまりやりたくないという。
「……あっ」
俺は少しカナディアから離れて通りの屋台へ向かった。
銅貨を数枚渡して……女の子が好むアレを購入する。
「……ヴィーノ」
「アイス、どうだ?」
「食べます!」
最近はカナディアの好みに合わせて特殊ポーションを作成しているので、味覚が甘い物に目がないってことは分かっていた。
カナディアは満面の笑みでソフトクリームを受け取り、小さな口を開いて嘗めていく。
冒険者としてのカナディアは凜々しいが、今のカナディアの姿は本当に可愛らしい。
道行く住民がカナディアの容姿、顔立ちを見てぼーっと眺めて歩いているのが分かる。その後、黒髪を見て眉をしかめるのだが。
「この街の名物を見てまわろうか。明日から交易の街に戻るんだし、よく見ておこう」
「はい!」
俺とカナディアはアイスを片手にゆったりと話ながら街をまわる。
大通りは馬車などが交易のために頻繁に通るため、横断は空へかかるアーチ状の橋を渡ることが多い。
階段も数多く、家よりも通路の方が高い位置にあることが多いのだ。
屋根を伝って歩いた方が早いのかなと思うほど。
この街を作った長が元建築家だったそうだ。
工芸が盛んであるがゆえに職人も多く、小さいながらここは芸術性のある街となっている。
工芸品の店をふと覗き、店主達と会話しながらこの余暇を楽しむ。
前のパーティの時は休みは1人でいることが多かったから……こうやって2人で一緒に見てまわるのはすごく楽しかった。
夕方一歩手前まで俺とカナディアは見てまわり、ちょっと休憩に広場の方へ行く。
「今日は楽しかったです!」
「そりゃよかった。交易の街でも……こうやってずっと一緒にまわれたらいいな」
「……」
カナディアはさきほどの明るさとは裏腹に静かに……穏やかな表情を浮かべた。
何かまずいことを言っただろうか……。
「……ヴィーノは優しい人ですね。この2週間で私がいかに迫害されるか見てきたでしょう。それでも側にいてくれるんですか?」
空が赤くなり始め、カナディアは一歩、また一歩離れていく。
「呪われた黒髪。本当に不幸になるのかもしれないんですよ。……死神が本当になる可能性だって」
俺自身、黒髪の言い伝えはよく知っている。だからまったく嫌悪感がないと言ったらウソになる。
頭と体に染みこまれものはそうは消えない。
でも……死にそうになった時に助けてくれたカナディアの姿は間違いなく美しかった。あの黒髪に俺は見惚れてしまったんだ。
そして今、そんな俺と一緒にいてくれるカナディアが俺は大事だと思っている。
「……こんなかわいい死神なら大歓迎だろ」
「そ、そんなこと……へへへ、嬉しくないんですからぁ」
カナディアは顔を紅くさせ、頬に手を寄せてくねくねし始めた。
つい、本音がぼろって出てしまった。さすがに俺も恥ずかしい。
ドン。
「ひゃっ!」
カナディアは前のめりになり転びそうになったため思わず両腕を掴んで抱え込む。
「あ、ねーちゃん、ごめんね」
カナディアにぶっつかったのは子供のようだ。
危なっかしい……ことを。
「ん?」
何か違和感を感じる。この場所はかなり開けた所だ……。意図しない限りぶつかることなんてないはず。
「カナディア、財布をどこにいれている?」
「へ? このスカート、後ろポケットがあってそこに……」
俺はカナディアのスカートの後ろポケットをまさぐった。
「ひゃあああああん!? お、お尻は敏感だからやめてください」
「やっぱり……」
「もう……ヴィーノが希望するなら夜はしっぽり……」
「なに、言ってんだ。財布スられたんだぞ」
「え」
まだ遠くに行ってはいないはず、追いかけよう。