129 ヴィーノパーティVS巨大魔獣⑤
カナデの一撃が決まり、【岩砕龍】の首は2つに分かれることになった。
正直な所、もう少し時間がかかると思っていた。
なのにカナデは一発で決めてしまったのだ。
何か黒のオーラを纏っているのがすっごい気になるけど……【岩砕龍】を一撃で倒すなんてさすがだと思った。
「何かすごかったね。カナディアの前は何か目映い光で竜巻が消えちゃったし」
魔力供給に専念していたミュージが近づいてきた。
【岩砕龍】のまわりに竜巻が出来た時はびっくりした。
幸い、俺達の範囲外だったので攻撃を受けることはなかったがカナデ達が巻き込まれるんじゃって心配した。
白色の光が【岩砕龍】の背中から刃のように広がったと思ったら竜巻が消えちゃったもんな……。
「恐らくシエラの白魔術だろう。……あとでスティーナに聞いておかないとな」
前衛の支援を任せてしまったが俺が行くべきだったか……。
さっきカナデの攻撃といい、すごく何が起こってるか気になる。
「あの場にいたら【岩砕龍】に巻き込まれるんじゃ」
「スティーナがいるから大丈夫だろう」
リフレクターポーションを張り巡らせていたし、身軽さだけだったらS級すらも上回れるはずだ。
伊達に伝説の怪盗、怪盗ティーナをしていない。
ゴゴゴゴゴゴッッッ
大轟音があたりを響く。
音のした方を向くと
【覇巌龍】の姿が見えていた。
「かなり進んでいるね」
「体力がデカいんだろうな……」
ペルエストさん達がいるからいずれは倒せるだろう。
しかし……時間をかければかけるほど低級冒険者達に被害が出てしまう。
「おにいしゃま。ポーション・ビット・システムは切りますの?」
「そうだな【岩砕龍】も倒したし、いいだろう」
空中に浮いていた未使用のポーションが俺のポーション・ホルダーに戻っていく。
「だったら……構想中だったアレをやってみない? 魔力はかなり残ってるし、使い切ってもいいと思っている」
ミュージの提案に少し考えてみる。
どこかで試してみたかったあの技か……。
ポーション・ビット・システムと違ってまだ1度も試せてはいないが……理論上可能なはずだ。
それにちょうどいい相手でもある。
「ポーちゃん、距離はどうだ」
「計測~~! 大丈夫ですの! あと2分近づけば最大威力の範囲内になりますの」
「よし、じゃあやってみるか!」
ポーションデンワでペルエストさん達に射線上にこないように連絡を取った。
何をする気だと問われたけど、面白いことですとだけと言ったら笑ってくれたので了承ってことでいいだろう。
俺はポーションを1本、取り出す。
「メテオシステム起動! メテオシステム起動! マスター、急激な魔力消費に気をつけてくださいの!」
「分かったよ! ポーション・ビット・システムだけじゃない僕らの成果を……あっちの冒険者達に見せてやろう!」
大地に両足をつけ、強く、強く……気をため込む。
ストレートよりもジャイロよりもさらに強く、早く……ポーションをぶん投げる。
俺ならいける、やれる。
右足を軸に左足を天よりも高くあげる。
そうして下ろした左足と一緒に右肘をしなやかに伸ばして半回転、一気にポーションを放り投げる。
リリースするこの一瞬だ。
「巨大化、巨大化、巨大化!」
「うぐっ。すごっ魔力を吸われる……」
ポーちゃんとミュージの支援を経て、今……ポーションは巨大化する!
「メテオポーション!」
魔力により【岩砕龍】サイズまで巨大化したポーションをリリースする。
ポーちゃんのシステム補助もあり、そのスピードは理論上、音速にまで到達することできる。
その巨大化したポーションは恐ろしい速度で進み、魔法の力で射程圏内では威力が減衰することなく真っ直ぐ進む。
正直な所……リハーサルをやってないためどういう風に進むか分かっていない。
一応射線上には誰も入らないようにと思っていた。
恐ろしい速度で進む巨大なポーションはあっと言う間に【覇巌龍】の頭部を直撃した。
ピギャアアアアアアアアアアアアアア!
遠くにいる俺達まで聞こえるほど【覇巌龍】の悲鳴とあと骨がボキボッキに折れる音があたりに響き渡った。
メテオポーションは標的に命中すると魔力が霧散し、元のサイズに戻ってしまう。
まぁ大体ぶつかってコナゴナになるから消滅したと言ってもいい。
「あぁぁぁ……もう無理、魔力尽きた!」
「マスターからの魔力供給の停止を確認したですの! 残存魔力で動作するですの!」
「うーん、思った以上の効果だったかもしれんな」
「……あれはもう二度と撃つなって言われそうだね」
【覇巌龍】が完全に沈黙してしまうとは思ってもみなかった。
思った以上の火力だったようだ……。
「ちょっとあなた達、何やってんの!」
スティーナ達が降りてきた。
カナデもシエラもスティーナも大きなケガなくて本当によかった。
「ヴィーノ、何をやったんですか?」
「あ、ああ……後で詳細は話すよ……とりあえず」
俺はカナデとシエラの前にスティーナの前へ立つ。
「お疲れ様。遠くから見えていたぞ。2人の支援おつかれさん。前衛を支えられるスティーナがいてこそだな」
「ふえっ」
スティーナはびっくりしたのかいつものようなツンツンした口調じゃなく、しおらしくなってしまった。
本来であれば【岩砕龍】を倒したカナデや危機を救ったシエラを褒めるべきなんだ。
だけど……そのお膳立てをした支援役ってのはどうしても日の目が及ばない。
この2人を一生懸命支援したスティーナこそが一番の功労者なのだ。
どうしても目立たない立場となるから分かってる人しかその凄さが分からないのだけどな。
俺は支援役だったから……よく分かる。
「ふ、ふん……当然よ。それよりカナディアやシエラを褒めてやりなさい」
ここで素直じゃないのがスティーナらしさだな。
ま、後で褒めてあげるとしよう。
「じゃ、カナデ……うげっ!」
カナデからはいきなり黒いオーラが生じる。
え、何でそんな怖い顔してるの!?
「ヴィーノ、ヴィーノ!」
シエラが俺の腕を引っ張る。
「シエラすごく頑張った。褒めて褒めて」
「あ、ああ。頑張ったなシエラ」
「いつもみたいにおムネ触ってもいーよ」
「何言ってんのっ!?」
それじゃいつも俺がシエラのいい感じに柔らかくてでかい胸を揉んでいるかのようじゃないか!
「へぇ……」
カナデの黒のオーラの濃さが増したような気がする!
「ヴィーノ、やっぱり白狸のことも随分お気にいりなのですねぇ」
「ち、違うんだ! 俺はそんな大それたこと」
「ヴィーノの腕の中でおしゃべりしたり、ヴィーノの胸の中で眠らせたり、ヴィーノに胸を触られたり、シエラをずっと側で支えてあげたいって言ったでしょ?」
「スティーナ、君はいいタイミングで口出してくるよな!!」
この修羅場大好きツンツン女め……。適切なタイミングで燃料を入れやがる。
「私が新しく覚えた黒皇の太刀。浮気症の夫に是非とも味わってもらいたいと思うのですが」
「ちょっと待って、それって【岩砕龍】ぶった切った技!? あんなのくらったら死ぬわ!」
シエラのやつはずっと腕にからみついたままだし……って胸の谷間に腕入れるやめろ! 気持ち良すぎるわ!
「スティーナ、なんだ!? 2人に何があった」
「カナディアとシエラには優しい顔してベタベタ触るくせにあたしには手出してくれないもんね。それじゃ助けてあげられないわ」
「え、触っていいの?」
触っていいならその細くて、でもしっかり肉の付いた手足を是非とも。
「カナディア、やっぱこの浮気男、成敗した方がいいわよ」
「はい」
「チキショウ、謀ったな! ミュージ、助けてくれぇ!」
「やっぱり現実の女は怖いよね。僕にはポーがいるから安心だね。僕はヴィーノみたいにはならない」
「そうですの! マスターにはポーがいますの! 愛してくださいですの!」
ミュージが俺達のせいで妙な価値観になってしまっている件。
メロディと両想いじゃなかったのか。
現実の女よりも2.5次元だね、何て言いかねないぞ!
「みなさん!」
痴話ゲンカしているとシュトレーセ様と親衛隊の皆様がやってきた。
破滅級の魔獣が倒れたのを見て安心したのだろう。
「何があったのですか!」
「【覇巌龍】はちょっとまだ分かりませんが【岩砕龍】は間違いなく我々で倒しましたよ」
「いえ、そっちではなくヴィーノ様が3人の麗しい女性達と修羅場になってたので詳しく話を聞きたいと思いまして」
「そっちっすか!?」
「ふふふ、冗談です」
えへっとシュトレーセ様は笑顔でウィンクした。
「かわいい。っつぁ!?」
今、3カ所つねられたんだけど!?
こうして2体の破滅級との戦いは無事終わることとなったのであった。
「ヴィーノ、今日帰ったら家族会議です」
「はい」
俺の戦いは始まったばかりであった。
今日こそは死ぬかもしれん。