14 休日
ガア……。
ドシンと音を立てて討伐対象のドラゴンは倒れてしまった。
「……ドラゴンも簡単に倒せるようになったなぁ」
全力で顔に向けてポーションをぶん投げるだけでB級以下の魔獣であればだいたい瞬殺できるようになった。
A級魔獣も癖のある能力を持つのが多い反面、耐久はB級並が多いので多分A級も倒せる。
ただ1つ絶対に倒せないやつがいた。
「ぷーー、私の出番がありません」
「ま、まぁ仕方ないさ」
出番が無くて怒ってしまう女の子はどうやっても勝てる気がしない。
この2週間……ポーション投擲でどれほど敵を倒せるかをやってみた。
ドラゴンから魔鳥やトロールや魔法生物、いろいろ戦ってみたがだいたいポーションぶん投げるだけで撃破できることが分かった。
あと、いろいろ試してみたがポーション投擲のみが俺の技術に適応されることが分かった。
試しにナイフや石を投げてみたが……上手くいかなかった。ポーションよりも投げにくくて力が入らない。
「もしかして……私、追い出されたりしないですよね……。全然役に立たないし」
「斬撃が効果的な相手だとカナディアがいないとまずいし、カナディアは魔法効果の特技も使えるし、重要!」
「そうですか……」
実はそれも……ポーションで代用できそうってのだけは伏せておこう。
この2週間で手に入れた素材を使えば……もっとポーション投擲を応用できそうなことに気付いたのだ。
叶うならS級魔獣と戦ってみたい。
そもそも俺の能力はクエスト向きといえる。
敵陣に乗り込んでポーションを投げるだけで終わるんだ、楽なんだよ。
これが護衛とか防衛戦、撤退戦なら変わってくるだろう。
だからこそカナディアの前衛能力は決して無駄にはならない
「俺にはカナディアが必要なんだ」
「はぅ!? もうぅ~。妻は夫を支えていくものですからね。いつでもどこでも側で仕えます」
「戦闘中は前に出てよ……」
◇◇◇
俺達は工芸が盛んな街へ戻っていた。
「それで……明日からどうしますか?」
「そーだなぁ」
工芸が盛んな街はギルドも小規模だ。B級クエストの他はC級以下のクエストしかない。
それを俺達のようなA級冒険者が奪ってしまうと反感を買うし、他の奴らの食い扶持を減らしてしまう。
そのためB級を消化しきってしまったらやることがないのだ。
「交易の街に行くしか無いか」
「いいのですか?」
不安そうにカナディアは言う。
カナディアがS級冒険者になるためにはA級クエストをもっとこなさなければならない。
A級を受けるために大きなギルドがある交易の街へ行く必要がある。
この2週間でカナディアの動きはほぼ分かったし、俺のポーション投擲の可能性もある程度熟知できた。
もっと早く知るべきだった。どうしてあんな無駄な時間を過ごしてしまったのだろう……。
前のパーティがいるだろうし、おそらく揉めるだろうなと感じる。
今の所、向こうからちょっかいをかけてくる様子はない。生きていることはすでに伝わっているだろうし……。
「仕方ない。明日から向こうで仕事するとしよう」
「はい! 私がヴィーノをお守りしますね!」
ポーション投擲を覚えて俺はもうあいつらにも負ける気はしないけど……カナディアが側にいることの心強さが嬉しかった。
「となると……今日は暇になるな」
「だったら……」
カナディアは手を後ろにまわして、くねくねと動き出した。
「一緒に……街の中を見てまわりませんか」
◇◇◇
俺は恋人ができたことはない。
元A級パーティの一員だったのだからさぞかしおいしい想いをしたのだろうと思われがちだが、そんなことはない。
最底辺職【アイテムユーザー】の噂は街中に広まっており、女の子の店に行った所でその扱いは変わることなく……金さえ払えば嬢はいろいろやってくれたが、心から俺を愛してくれる女性は現れなかった。
自分に自信がなかったら積極的にいけなかったし、アイテム作りの陰湿キャラとよくからかわれたもんだ……。
だからカナディアに誘われた時は胸が躍った。
実は俺のこと好きなんじゃね? って勘違いしてしまうくらいカナディアは俺に優しい。
さすがに出会って2週間でそうはならないので……俺をからかっているだけなのかもしれない。
教会で式を挙げたいとか、盛大なパーティをしたいとか言うんだから俺を夫と見立てて練習しているのかなと感じる。
ちょっと痛々しいような思い込みが激しいようにも見えるが俺も悪い気はしないので良い。
今日も……わざわざ部屋から出発ではなく待ち合わせにしたのも大きい。
デート? なんてことも予想してしまうのだ。
時間がないのでいつもの冒険者服を着るしかないが……今度はちゃんと用意しておこう。
宿を出て、街の大通りへ出てくる。
空に繋がるアーチ状の橋を渡って大通りを横断し、その先の公園の待ち合わせ場所へ向かった。
「ま、待たせたな」
カナディアの姿を見て、思わず声が上擦る。
「今、来た所なので大丈夫ですよ」
いつものレザーアーマーの姿とは違う、女の子らしい薄めの色のミディブラウスと足先が見えるフレアスカートはとても良く似合っていた
その姿に思わず胸がときめく。
「行きましょ!」
戦闘でのカナディアも凜々しく美しいがこうやって、あどけなく笑う姿はとても可愛らしかった。
「私、新婚旅行は帝都がいいです」
ただ……それを俺に言われてもどうしようもない。






