124 緊急クエスト③
空中戦なるとやはり戦いは難しくなる。
落ちた時のことも考えるとあまり低級冒険者にはこれを渡したくない。
セグウェイの移動技術をジェットに応用することである程度ポーションに乗りながら方角、速度を制御できるようになった。
「シィンは使わねーのか」
「必要ない」
高等な魔法使いは風属性魔法【スカイ】で空を飛ぶことができるので、さすがのポーションもそれには勝てない。
だけどあれは魔力消費が凄まじいので……どっちを選ぶかはその人次第である。
ペルエストさんも【スカイ】が使えるがポーション移動を選択している。
「アメリが前衛、俺とシィンで後方だ。ヴィーノは支援に努めろ」
「了解っす」
「分かった」
「分かりました!」
S級4人で組むことは滅多にないので楽しみだ。
先輩の活躍を見せてもらうとしよう。
A級以下の冒険者が撤退していくな……。
そういや出撃のタイミングに連絡をいれたから巻き込まれを恐れたっぽいな。
一番身軽で器用なアメリはジェットポーションでどんどん【覇巌龍】に近づく。
最大級のクジラ100匹分だっけ? 正直それ以上のサイズに思える。
試しに不自由だが超速のポーションをぶん投げてみたが……やはり効果は薄いようだ。
こりゃポーション1000本ぶっ放してようやく怯ませられるくらいかもな。
「ヴィーノ!」
「了解!」
アメリが手をあげたので攻撃力を増す【ソードポーション】をぶん投げて、アメリの口に入れてやる。
支援係としての役目を忘れちゃいない。
【スカイ】の魔法で上昇しているシィンさんが手を翳す。
「ディープフリーズ」
のしっりと前を進み続ける【覇巌龍】の前方の砂が全て凍り付いてしまった。
範囲だけで言ったら【覇巌龍】のサイズ以上の砂地を凍らせてしまった。
えげつねぇな……。
普通だったら10人、20人の魔法使いが全魔力を使ってやることをシィンさんは1人でこなし……尚且つ魔力消費も最小限に抑えている。
【覇巌龍】の動きが止まった。
それ好機と捉えたアメリが一気に【覇巌龍】に近づく。
背負うハルバードを両手で持って大量の魔力を込め始めた。
【風車】の異名の本気をこの目で見れる。
「どっっせーーーーーい!」
アメリのハルバードによる打撃が【覇巌龍】の側面を剛打。
とんでもない轟音と【覇巌龍】の側部に大きな凹みが入って思わず驚いてしまった所、【覇巌龍】がなんと横転してしまったのだ。
その衝撃で砂が立ち上がり、周囲の全てを砂の波は覆う。
「嘘だろ……。すっげー馬鹿力」
「おらっ、聞こえてんぞ!」
ありえるか?
俺のポーションですらほとんどダメージを与えられなかったのにアメリの攻撃でバカでかい【覇巌龍】が横転だぞ。
あんな小さい体のどこにあれだけのパワーがこめられているのやら……。
シィンさんもアメリも本当にすごいな。
俺も負けられない……。
気付けばペルエストさんが手を翳していた。
ペルエストさんの背負う矢筒から大量の矢が魔法の力でシュポポポポっと出て行く。
あれが有名な無限矢筒だな。
ペルエストさんの周囲には1000本以上の矢が【覇巌龍】に向けられていた。
これは魔法使いとしても優秀なこの人だからできる芸当だ。
横転した【覇巌龍】が元の体勢に戻ったと同時にその矢は一気に放たれた。
くらったわけじゃないのに痛覚が伝わってくるような気がした。
1本の針なら大したことがないが、千本の針にぶっさされたらさすがに悶絶してしまう。
その矢全てが【覇巌龍】に突き刺さった。
「なるほどな」
ペルエストさんはそんな感じでつぶやき、愛弓を従える。
こうして矢をゆっくりとした動作でセットし、そうして放った。
たった1本……。それでは効果なんてあるはずがない。
ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
その一本が突き刺さった瞬間【覇巌龍】の大きな悲鳴が響き渡った。
どうして、なぜ!?
100人を超す冒険者達が横転させることができなかったことをやりとげたアメリでも挙げさせなかった悲鳴を……わずか1矢で出させるなんて……。
やはりこの人はすごい。
「急所への的確の一斜。末恐ろしい男だ」
「ペルエストさんすごいすごい! はよ、結婚して!」
あの千本以上の投射で急所を特定し、そして威力のある1射で確実にダメージを与えていく。
俺もいつかポーション投擲でこんな芸当ができるように頑張らないとな……。
ペルエストさんの連射で【覇巌龍】は怯んで動けなくなってしまっている。
これならかなり早くに倒せるんじゃないろうか。
「来たか」
「え?」
その時、俺のポーションホルダーが揺れ始める。
ポーション・デンワに設定した奴だな。
ポーションを連結させて通話を開始する。
「ヴィーノ、大変!【岩砕龍】が地面に潜ってこっちに来ちゃったの! ど、どうしよう!」
スティーナからの通信でその戸惑っている声色が聞こえる。
いったい何がどうなって……。
「予感がした悪い方向に的中してしまったか」
ペルエストさんは続ける。
まさか……カナデ達の所に岩砕龍が現れたってことなのか。
あっちの護衛は手薄となっている。
「カナディア達に防衛させろ。姫に傷をつけさせるなよ」
「そんな! あっちは姫の親衛隊を抜けば4人しかいないんですよ!? いくらなんでも」
「言っただろう? おまえが一時的だと」
そういえば戦闘前にそんな話をされた気がする。
「こっちは問題ない。ヴィーノ、今から飛べ。おまえ達5人なら立ち向かえると俺の眼が言っている」
ペルエストさん、それにアメリもシィンさんも頷いてくれた。
ここで躊躇するわけにはいかない。ジェットポーションの最速のやつを使えばすぐに現場に到着することができる。
ペルエストさんのシナリオ通りに事が進んでいるなら決して悪い方向にいかないはずだ。
……俺の想定する戦いが出来るなら誰にだって負けはしない。
「気ーつけろよ! 時間を稼げばバリス達の隊が救援にくるはずだからよ!」
アメリは声を大きくして応援してくれる。
「ポーちゃんの機能をフルに使うといい。貴様の考案した多次元の戦いを……見せてもらうぞ」
シィンさんにはいろいろ相談にのってもらったから内容の話をさせてもらっている。
戦闘で使用するのは初めてだ。
絶対に失敗はしない。
俺はジェットポーションを起動させてカナデ達のいる方へ向かった。
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