122 緊急クエスト①
緊急の招集で俺とカナデは冒険者ギルドの方へ向かった。
今回の招集指定はS級だけのためにシエラやミュージは家で待機してもらっている。
シエラはぐっすり寝ていたため、どっちにしろ置いていくしかなかった。
「カナディアしゃん、おにいしゃん……何があったのですの?」
記録要員としてポーション・ホムンクルス、ポーちゃんを連れていくことにする。
データ処理機能を設けているので録音も思いのままである。我ながらとんでもねーものを生み出しちゃったぜ。
「私とスティーナが用意した衣装はどうですか?」
「可愛くて嬉しいですの! カナディアしゃん、ありがとうですの!」
カナデとスティーナがポーちゃん用に髪型やアクセサリー、魔導衣を用意したので1種の着せ替え人形のような扱いだ。
毎日あれやこれや着せて楽しんでいる。
ちなみにこの子はミュージの側にいれば常に魔力が供給されるが、離れている場合は約2日間稼働できる。
ポーションを魔力に変換してエネルギー源とすることもできるので俺かミュージとポーちゃんは相互な関係にあると言える。
基本的にミュージの支援キャラとして作成しているからマスターとしているが、あの機能を俺が独占して使うならもう一体、ポーちゃんが欲しくなるな。
ま、今はこのままでいいだろう。
冒険者ギルドへ到着。夜中なので受付場は閉鎖の状態だった。
2階にある会議室へと向かう。
「お! 来たな、2人とも」
「アメリにシィンさん……他の人達も揃ってますね」
外国出張へ言っている人達以外は全員が集まっていた。
一番下っ端の俺が遅かったことに軽く謝罪し、取りまとめである【聖騎士】の能力を持つバリスさんが前に出た。
「みんな、夜間に呼び出してすまない。ここ数十年で例を見ない事件が発生しちゃってね。先遣隊は即刻出てほしくて、集まってもらった」
「んで何があったんだよ」
アメリがもったいぶらずに言えと言わんばかりの口調を告げる。
「破滅級の魔獣が2体、別方向から現れた」
ぞわっと冒険者の間で沸き立つ。
破滅級とはS級~D級までのカテゴリーにある通常の魔獣とは別で設定されているカテゴリーである。
とにかくサイズがでかい。俺が工芸が盛んな街で20人弱て戦ったあの砲弾龍ですら小さい部類のカテゴリーとなる。
1パーティで戦うには到底不可能な魔獣。それが破滅級だ。
それが2体同時って冗談だろ。聞いたことないぞ。
「世界に目を配れば過去に例がなかったわけじゃない。1体目は通称【覇巌龍】世界最大級とも言われる破滅級の魔獣だ。隣国の公国で出現し、明後日には王国との国境を通過し、この国にやってくる」
バリスさんが恐らく公国が送られただろう写真をボードに貼り付けて説明する。
うーんでかい。特別な攻撃はしてこないようだがそのサイズ自体が大問題というわけか。実際に見たらきっとたまげてしまうのだろう。
「そして2体目からは【岩砕龍】。こちらは一般的なサイズ破滅級の魔獣だが地中に潜ったり、体内の岩石をブレスと一緒に放出したりと知能の高い魔獣となる」
【覇巌龍】は西、【岩砕龍】は北からやってくるらしい。そして直線上には王国の街が存在する。
つまりこいつらを倒さなければ大きな損害となるわけだ。
しかし【岩砕龍】はともかく【覇巌龍】は冒険者をかき集めたって無理だろう。向こうからすれば俺達は蟻みたいなモノだからな……。
まぁこの前その蟻に殲滅されそうになったケド。
「今回、2体の破滅級の対処のため特別にある方から協力の要請があった。どうぞお越し下さい」
奥の控え室の扉が開く。
「あ……」
ウェーブかかった桃髪に圧倒的とも言える美貌。
王国で絶大な人気を誇る姫君、シュトレーセ様がそこにはいた。
「冒険者の皆様、夜分にご苦労様です。我が国のためにお集まり頂き感謝します」
全員が敬礼をする。
この国は絶対王政だ。次期王の候補であるシュトレーセ様には絶対的な忠実を誓う。
「ふふ、と言っても見知った顔ばかりですのでいつも通りにさせてください。その方が良いでしょう」
「助かります姫」
バリスさんは柔らかく微笑んで礼を言う。
そうか……シュトレーセ様の護衛はS級冒険者がつとめることが多いからほとんど顔見知りなんだろうな。
「護衛の任務、私は一度もないんだが……」
シィンさんが悲しいそうに呟いているがやぶ蛇になりそうだし、つっこむのはやめてあげよう。
「グランドましゅたー。悲しいですの?」
「そうなのだ。ポーちゃん。私は悲しいのだ」
ポーちゃんが慰めだしたぞ……。もういいや放っておこう。
「今回は王国騎士団を動かします。もちろん冒険者の練度に比べたら落ちるのは分かっているのですが……経験のために宜しくお願いします」
「ええ、1人でも手数が欲しい状況です。支援などを期待させて頂きます」
「昨年の王都と工芸が盛んな街の近くで同時期発生した件がありましたから……やはり急務でしょう」
そうだ。俺とカナデと低級冒険者で対処したあの砲弾龍戦は同時期に王都で破滅級が発生したせいで支援が遅れてしまったんだったな。
前回は完全に別の場所だったし同時でなかったのでまだマシだったが、今回は最終合流地が一緒だ。魔獣の規模的にも難易度は高いだろう。
今までは魔物の戦闘は冒険者。人同士の戦いは騎士団が主に担当していたが戦争などが少なくなったご時世、騎士団の練度の低下が問題視されていた。
シュトレーセ様はテコ入れをしようとしているのかもしれない。
前に言ってた姫様の親衛隊。カナデを入れようとしていたその親衛隊に冒険者を使おうとしているのかもしれない。
その見極めもあるのかもな……。
今回、下っ端S級の俺は基本的に指示に従うのみ。
前のような砲弾龍戦とは違う。1冒険者として派手に暴れさせてもらおうか。
「すまない、遅れたな」
「ペルエストさん」
「ペルエスト様、夜分にありがとうございます」
「ああ、姫君。このような時間に起きていては美貌が台無しだぞ」
「どうせ、眠れないからいいのです!」
王国最高の冒険者、SS級のペルエストさんがやってきた。
正直楽観視できているのはこの人がいてくれるからってのがある。単体戦闘能力、指揮技能は最高だからな。
バリスさんもシュトレーセ様も何だか緊張が緩んだように思える。
「ヴィーノ」
ペルエストさんから呼ばれてどきりとする。
「今回の戦い、期待しているぞ」
「お、俺がですか……?」
「シィンと共同で作り上げたあの子を使ったトリック……あるんだろう」
ペルエストさんがポーちゃんを見つめる。
「ま、まぁ……よく知ってますね。カナデにすら教えてないのに」
「俺には目があるからな」
ペルエストさんは神眼と呼ばれる二つ名がある。
もしかして俺がやろうとしていること……見えているのか……?
後ろからカナデも近づいてきた。
「カナディアとヴィーノ一派は姫様の護衛をしろ。ヴィーノだけは一時的に俺達についてくるんだ」
一時的? よく分からなかったが了承することにした……って。
「シュトレーセ様も来られるんですか?」
「はい、近くで見ないと分からないこともあると思います。それに魔法をちょっと使えるので魔物くらいなら倒せるんですよ~!」
シュトレーセ様はえいって腕を振る。実にかわいらしい。良き、見惚れちゃう。
カナデが後ろから腕をつねってくるがこれはさすがに許してほしい……。
まぁ魔臓が発達していたら魔法が使えるから王族だろうが何だろうが使えるの不思議ではない。
「ヴィーノ一派って。スティーナ達はまだBランクじゃないですよ」
「俺が許可してやる」
「は、はぁ」
基本的に破滅級の戦闘ではBランク冒険者にならなければ参加できない。
スティーナ、シエラ、ミュージは皆低ランクだから参加資格はないのだがペルエストさんに出ろと言われたら出るしかあるまい。
「私がシュトレーセ様をお守りする最終防衛ラインってことですね」
「そうだ。ヴィーノを最初だけ借りていく。姫様をしっかり守れよ」
姫様の親衛隊も付いているだろうし、シエラのセラフィムがいるから例え目の前に現れたとしても被害がいくことはないだろう。
自分のことを考えた方がよさそうだな。
こうして初期配置や持ち場などの役割が決定し、一端解散することになった。
そして翌日A級、B級の冒険者が集められて……2体の破滅級の魔獣を討伐する作戦が開始される。
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