121 カナディアとの夜
夜も更け、いつもの営みを終えた後に疲れて眠ったのだがふと夜中に目が覚めてしまう。
ベッドの上にはいつも朝までぐっすりのはずのカナデの姿がなかった。
珍しいなと思いつつもリビングの方に足を運ぶと窓をじっと見上げたカナデの姿があった。
「カナデ、こんな所でどうした」
「すみません、起こしてしまいましたか」
「いつも朝までぐっすりだもんな。さすがに気になるよ」
俺はテーブルの椅子に腰掛けて、隣に座るカナデに飲み物を手渡した。
「夜に飲むにはやっぱこれだな。ホットミルク・ポーション」
「ただのホットミルクでいいと思うんですけど」
まるでミルクの味がするホットミルク・ポーション。眠れない夜にぴったりだ。
「完全にポーション業界の回し者になってますね」
「宣伝してくれって最近大手業者がうるさくてな」
ふふっとカナデは笑って、ポーションをゆっくりと飲み始めた。
「最近、すごく穏やかですね」
「そうだな……。そろそろカナデと出会って1年経つのか」
「お互い絶望の淵にいたのに……こんなに変わるものなのですね」
俺の絶望はカナデに比べると大したことはない気がする……。
まぁ殺されかけたけどあれがあったからカナデと共に生きることができたんだ。
「スティーナもミュージもポーちゃんも……あと白狸も」
「最初は俺達2人だけだったのに……増えたよなぁ」
俺のパーティと評しているが厳密にはS級には固定のパーティはない。
俺が冒険者の中でも上役であるペルエストさんやバリスさんにお願いしてカナデと一緒に組んでいるのだ。
戦闘の相性が良いってのもあるが、不遇な黒髪の立場にいるカナデをフォローできるように計らってくれているんだ。
みんな……とっても優しくてカナデを取り巻く現状をどうにかしてやりたいと思っている。
冒険者も王家も力になってくれようとしている。あとは……国内、最後には世界……だろう。
「みんな……みんな優しくしてくれるのが嬉しいです」
「そうだな」
「でも……」
カナデは俺の肩に首を預けてくる。
「あなたが側にいてくれることが一番嬉しい」
ああ、嬉しいことを言ってくれる。
もうちょっと近づいてカナデの肩を抱いてやる。
女性の中では長身な方だけど、俺からすれば赤子のように小さい。
守ってあげたいし、この上なく愛してあげたい。
「20歳になったら……」
「なったら?」
「ヴィーノとの子が欲しいなぁ」
「ヤキュウチームが作れるぐらい作ろうぜ」
そうだな……。カナデには黒の民の血を次世代に繋いでいく役目もある。
しかし……まぁ。カナデを愛する気持ちはきっと10年経っても100年経っても消えないと思っている。
「今年の休暇はどうしましょうか?」
「俺とカナデで2週間ずつか……。みんなに悪いけど一緒に取りたいよな」
「結婚式を挙げるのも手ですけど……王族やお互いの両親を呼ぶとなるとかなりの時間とお金が必要になりますね」
「マジで王城の大聖堂でやるの!? でも……」
「でも?」
「カナデが最高級のウエディングドレスを着れるってことを考えると価値あるよなぁ」
「ひゃう。もう~~~。そんな似合わないですよぉ」
言うわりに嬉しそうだ。
かなり先になるだろうけど、予約だけしてみるか……? 金はS級2馬力分あるから多分何とかなると思うし……。
「それより休暇だな」
「そ、そうですね。……本当は2人きりの新婚旅行に行きたいですけど……、今回は」
カナデは外を見上げた。
「親しい人みんなで行きたいですね。スティーナ達にミルヴァさんやメロディちゃん。アメリさん、シィンさんも誘いましょう。まぁ白狸も誘ってやらなくもないです」
「あはは……そうだな。南の方でバカンスに行くか。カナデの水着姿が楽しみだなぁ」
「もう! そうですね、分かりました。私が悩殺してあげます」
よし、南国のバカンス決定!
これは絶対楽しみだな……!
俺はカナデの両肩を掴んで、ゆっくりと口づけをする。
キス自体は毎日やっていることだけど、やっぱり……好きという気持ちが昂ぶった時こそしてあげたいと思う。
カナデもちゃんと俺を受け入れてくれている。
唇をつけて、離して、もう一度唇をつけた。
愛しい気持ちが膨れ上がってくる。
「ヴィーノ……」
「なに?」
「もう一回……抱いてほしいな」
「おっしゃ」
「きゃっ!」
その言葉が聞きたかったので妻をお姫様だっこで持ち上げる。
言わされたぁって可愛く呟くカナデをだっこして寝室へ歩いて行くその時だった。
ゴンゴンゴンゴン!
ドアを強烈に叩く音が聞こえる。
戸締まりをしてなかったのが悪いがドアががちゃりと空いて慌てたまま1人の男が入ってきた。
……その服装は冒険者ギルドの制服であった。
「や、夜分にすみません! 緊急事態です。S級のお二人には王城の方へお越し願います!」
えーーーー。
このタイミングで緊急かよ……。
俺は……恐る恐る聞くことにした。
「一発ヤってからじゃだめ?」
さすがにダメだった。