120 接点
入ってきたのが桃髪でギルドの受付係の制服を着た人物。
「ミルヴァ!? どうしてここに!」
「おーー、姫様が会おうとしてたのってミルヴァだったのか」
アメリも知らなかったようでびっくりしていた。
ミルヴァはたたた……っと歩いてシュトレーセ様と嬉しそうに手を合わせる。
「久しぶりですねミルヴァ。王都に来たと聞いて会うのを楽しみにしていたのですよ!」
「わぁ、嬉しいです姫様!」
「えっと……ミルヴァとシュトレーセ様はお知り合い……ということですか?」
「ふっふっふ、そうなんですよヴィーノさん!」
元気よくミルヴァは物足りない胸を突き出し、えっへんと自慢気に喜ぶ。
「そうなのですよ、ヴィーノ様」
つられてシュトレーセ様が胸を突き出した。こっちは大したボリュームだ。
美人でスタイルまで良いとか……完璧な王女といえる、こうして横に並ぶと何となく見えてきた。
この二人、同じ桃髪なんだ。
「姫様とミルヴァは親族……ではないけど遠縁ってことか」
「そのとーりです!」
さすが先輩。俺よりも早く気付きやがった。
桃髪って王国では珍しいんだよな。王家の女子に発現しやすい髪色って聞いたことがある。
「わたくしの祖母とミルヴァの祖母が姉妹だったのです。ミルヴァの祖母はとある事情で王家を離れてしまったのですが……そのままであればミルヴァの王族であったのですよ」
「えっへん、もっと敬ってもいいのですよ」
「報奨金の額、間違えてこの前めちゃくちゃ怒られたミルヴァがなぁ」
「ハゲてる冒険者に今日はまぶしいですねって言っちまうミルヴァがねぇ」
「姫様の前でそーいうこと言うのやめてください」
「ふふふ、そういう所で変わらないのがミルヴァの良い所なのです」
真っ赤になって怒るミルヴァに対してシュトレーセ様は優しげに微笑んでいた。
俺達と違ってミルヴァを略称無しで話すってことはそれだけ関わりがあったんだろうな。
しかしこのためだけに冒険者ギルドまで来るなんてよっぽど会いたかったんだな。
いや、それなら普通に王城にミルヴァを呼び出せば良かったんじゃ……。いや待てよ。
「そもそもミルヴァ。君はここに来れないだろ。ギルドの4階は機密でうるさくて警備員がいるはずだ。ギルドの幹部かS級冒険者しか入れないはずじゃ……」
「だからS級冒険者に連れてきてもらったんですよ~」
「それは……」
「そこにおられるのであればお入りください。今日はあなたにお会いしたくてここまで来たのです。カナディア様」
応接室に入ってきたのは……カナデだった。
あまりに予想外の出来事に俺もアメリですら言葉を失う。
無言のまま……真面目な表情で部屋に入ったカナデは俺の側へと来る。
「ヴィーノ、わ、私、王族の方と話したことないのですが、どうしたら不敬でなくなりますか!」
やっぱりいつも通りのカナデだった。
小市民はね……王族と関わりなんてないものなんだよ。
聞けば数日前に急に連絡があったらしい。それでミルヴァと一緒にここへ来たということだ。
一緒に住んでいると言っても王族関係の話は不用意に漏らせないからよく分かる。
「本当に黒髪なのですね。少しの混じりけの無い……完全な黒」
昔もちょろっと話したがこの国で黒髪はほとんど存在しない。
S級冒険者として仕事を始めて国中をまわったが、黒の里の民以外で見ることはなかった。
本当に隠れて暮らしている。もしくは黒髪を染めているのかもしれない。
シュトレーセ様はカナディアの側に近づいてカナデの手をゆっくりと掴む。
「お会い出来て光栄です。こんなにお美しい方だなんて思っていませんでした」
「いえ、私なんてそんな……。ありがとうございます」
シュトレーセ様の笑顔で微笑みかけられ、カナデは顔を紅くする。
「おー、カナディアと姫様なら並んでも絵になるなぁ」
「ふんだ、どうせ私は貧弱ですよ」
さっきシュトレーセ様とミルヴァが並んだ時は差が歴然だったので、今の形は素晴らしい
「今日に至るまで大変だったとお聞きしております。申し訳ありません、わたくしに力があればそのようなことにはならなかったのに」
「つらいこと多かったですけど……そのおかげでヴィーノ達に会えたので今となっては良い思い出だったと思います。なので……気を病まないでください」
「そうでしたか。良いご縁があったのですね。そして今回カナディア様をお呼び立てしたのは……ただ一つの理由」
もしかしたら出会った時に俺に呼びかけ、言い淀んだのは俺がカナデの夫だと知っていたから……だろうか。
しかし、さすが王女様。人によってカナディアの黒髪を見るだけで体調を崩すほど嫌がる人もいるのに……まったく動じていない。
まじないの効果を寄せ付けないほど精神が強いのか、王家の血筋がそうなのか……。
ミルヴァがカナディアに悪感情を抱かないのは王家の血が入っているから……なのか? いや、あれは素だろ。
王族でカナディアの味方になってくれる方ができるのは……良いことだ。
「わたくしなりに黒髪の言い伝えのこと、黒髪の与える影響について調べて参りました。しかしやはり……情報としてあまり多く残っていません。白の国の影響なのかもしれませんが」
「……はい」
「王国と黒の民の関係をこのままにしておきたくないと私は思っています。なので……わたくしがこの国の王になった暁には女性だけの親衛隊を作ろうと思っています。カナディア様、その時は親衛隊長になって頂けませんか?」
おお!? マジで言っているのか。
それは……大騒動に発展するぞ。
「姫様、それは結構ヤバイ発言だぞ」
アメリも危険性を感じたのか忠告をする。
「分かっております。まだ……大きな発言は出来ないのですが……ちょっときな臭くなっている雰囲気があるのです」
もしかして白の国のことだろうか。
危険が及んだらすぐにペルエストさんから連絡が来るはずだからまだ微妙なラインなのかもしれない。
「失礼ながらカナディア様が冒険者をやられている目的を知りました。わたくしとカナディア様。利害が一致するかと思うのです。黒髪の地位向上も王家の後ろ盾があれば活動しやすいと思います」
確かにその通りだ。
S級冒険者かつ王の親衛隊隊長。これが実現すれば国の中枢に影響を持つことができる。すぐには黒髪の呪いを打ち消すこはできないだろうが……今よりは間違いなくカナディアのためになる。
カナディアは少し険しい顔で考えこむ。いろいろと考えているのだろう。
「少し考えさせて頂けませんか。ちょっとびっくりしちゃって……。確かに黒髪を侮蔑する世界を何とかしたいと思っています。でも……今は冒険者としてやれることをもっとやりきりたいと考えています。ヴィーノと一緒ならもっと……より良い方法が見つかるんじゃないかなって思うんです」
「カナデ」
「ふふ、分かりました。実際に動くのはわたくしが確実に王になれるタイミングからなので今はまだ顔繋ぎと思ってくださって構いません」
「でも嬉しかったです。王家の方々に考えて頂けているのが分かっただけでも……私にとって大きな実りとなりそうです」
「それにしても残念です。わたくしよりもヴィーノ様を選ばれるなんて……夫婦愛が溢れていていいですね!」
「えへへ……そうなんですぅ。だから早く結婚式も挙げたいんですよ」
「まぁ! そうだったのですね! では是非結婚式は王城にある大聖堂をお使いください! わたくしも参加させて頂きますから!」
何だか変な方向に話が進んでいる件。
え、俺……カナデとの結婚式は王族も呼ぶの……マジっすか!?
そんな結婚話にアメリやミルヴァが加わり、女4人姦しく、時間がギリギリになるまで話し込むのであった。
シュトレーセ様と出会い、それは次の事件に関わってくるのであった。
発売まであと4日!
今やっている6章も全部入っておりますので発売日に購入して頂ければほんのちょっとだけ早く読めるかもしれません!
宜しくお願いします。