117 成果発表
それから2ヶ月が過ぎた。
本当にこの間にいろいろなことがあったんだけど……100回を超える失敗の末のことだった。
ポーション・ホムンクルス製造計画の最終局面となり、シィンさんの研究所から俺の家の一室に移した。
ここから先は俺の家で充分だったし、この後の問題でどうしても必要なことが出てきたんだ。
「そんなわけで頼む、シエラ!」
「ん」
ここ2ヶ月の事情を話してシエラにも参加してもらうことになった。
基本的に女性陣には最後の最後まで黙ってあっと言わせたかったんだけど……どうせシエラはあっと言うタイプでもないし、彼女の持つ白魔術セラフィムがどうしても必要だった。
「セラフィム」
シエラはセラフィムを具現化させた。
半身を鎧で纏った不思議な生命体。
人間とは違う構造の生命体だがある意味俺達の計画の参考データになる存在だ。
セラフィムは喋られないがシエラの身辺のお世話をしているために無茶苦茶器用だった。
もはやシエラのお母さん的存在だ。
セラフィムは俺達の言っていることは理解しているらしい。
「じゃ、シエラは向こう行く」
「ああ、戸棚に俺の食う分のケーキあるから食っていいぞ」
「食べる!」
シエラはたたたっと行ってしまった。
「じゃあ、セラフィム宜しく頼むな」
「ーーーーーー!」
セラフィムはぐっと指で合図した。シエラと違って表情が豊富だよなぁ。
「本当に不思議だねぇ、白魔術って……」
「黒魔術もそうだが……特別なんだろうな」
シィンさんも白魔術、黒魔術は従来の魔法と完全に体系が違うと言っていた。
「でもシエラって大丈夫なの?」
「何が」
「食べるのに一直線というか……何か見ていて危なっかしいよね。食べ物に誘われたらどこでも行っちゃいそうじゃん」
「おいおい」
俺はミュージの言い草に少し腹が立ってしまう。
「あの温泉郷の時、メロディを助けられたのはシエラのおかげだぞ」
「え?」
「霧隠龍が逃げようとした時にシエラが俺を呼んでマーキングポーションを投げさせなかったら……メロディは助からなかった可能性が高い」
「そ、そうだったの!?」
あの時俺とシエラは後衛にいたが、ミュージは音波攻撃で気を失っていたっけ。
シエラのあの機転には本当に助かった。シエラとセラフィムがあの場にいなかったら間違いなくメロディは助からなかっただろう。
「僕全然知らなかった。シエラは何も言わなかったし……」
「そうだな。シエラは多分あえて言わないんだと思う。マイペースに見られがちだけど……結構まわりを見ている子なんだよ。面倒くさがりやだし、服はだらしないし、食べこぼしも多いけど……他人の不幸を良しとしない優しい子だ」
出会った次の日の朝、誘拐されそうになった子供をいの一番に助けにいったし、巨大アリに街が襲われた時だって指示する間もなく、敵へ向かっていった。
シエラの中ではきっと分別が出来ているんだろう。他人も自分も幸せにする。それが出来る子なんだよ。
カナデに対しては血の影響か敵対気味だけど……俺やスティーナに対して、ここぞって時はちゃんと話を理解してくれる。
「シエラの語らない誠実さは素敵で尊敬できる。だから俺はシエラを信用しているし、仲間としてずっと側で支えてあげたいと思っている。だからミュージもそうしてあげてほしい」
「分かったよ。……だってシエラ」
「ふにゃっ!?」
え……と振り向いた途端シエラがすっころんでしまう。
「あ……あぅ」
恐る恐る立ち上がると顔をめちゃくちゃ真っ赤にしていた。表情をそこまで変えないイメージがあったのに……恥ずかしがっているのか。
……あんな反応されるとめちゃくちゃ恥ずかしいんだが。
「き、聞いてたのか」
「セラフィムがもし消えたら……魔力切れ! シエラにこ、声かけて!」
ぴゃーっとシエラは走り去ってしまった。
あんな慌てたをシエラ初めて見たな……。
「ああやって年下の女の子を落としてるんだね、勉強になるよ」
「イヤミかこの野郎」
ニヤニヤしやがって……。
後でシエラには一言話しておくとしよう。
◇◇◇
そうしてセラフィムの支援もあってリハーサルも無事成功。
ついに……女性陣へのお披露目の日となる。
ここまでの2ヶ月の軌跡を事細かに話しているのに何だかカナデとスティーナは冷たい。
シエラも欠伸をして聞いている。
くそ、やはり女どもは研究に対する理解ってやつが足りてない。ミュージをメンバーにいれて大成功だな。
「男達ってほんとそーいうの好きよね」
「研究ばっかで……もう少し私に構って欲しかったです!」
「え、夜もカナディアを放置してたの?」
「あ、それはしっかりと愛してくれましたぁ」
「ほんとこのバカ夫婦、毎日毎日ドコドコやってよぉ。僕の安眠を妨害しまくりだよ!」
「オラオラ、俺の性事情はどーでもいいんだよ。さぁ、行くぞ!」