116 王国案内③
冒険者ギルドの用事は終わったので当初の目的であったシィンさんが住む魔導研究所へ向かう。
S級冒険者【幻魔人】の呼び名を持つシィンさん。
王国最高の魔法使いにして世界でもトップクラスに著名な人物でもある。
実はシィンさんの研究所は王都から離れた郊外に存在する。
様々な魔法の実験で街中にあるといろいろ壊れてまずいということでそのような対処をされているのだ。
俺とミュージはジェットポーションを使ってかっ飛ばし、魔導研究所の前へ降り立った。
「ヴィーノって本当に魔法使いじゃないんだよね?」
「おいおい、魔法を使えるように見えるか?」
「ポーションを空に飛ばすのは魔法使いでもできないと思うよ」
呆れた顔でミュージは言うが、大したことではないと思うけどな。
シィンさんの使う空間転移とかに比べればまだまだだ。
俺達はさっそく研究所の中へ入った。
「こんにちは~」
応答はない。1人で住んでいるし、せっせと出迎えに来てくれる人ではないので気にしない。
さっさと……奥の研究室に向かう。
「何なの……ここやばくない?」
「女性に見せていいものではないな」
「禁止薬物とかもあるんだけど……うえぇ、何か気持ち悪い」
「成人したんだから覚えておくんだ。偉いやつは何でも許される」
小動物がここへ迷い込んだら最後、あっと言う間に実験動物に早変わりだ。
違法薬物に毒物、実験動物に言葉にするのは憚れる何かの死骸。一般人がこの施設を所有していた即刻逮捕だが、シィンさんは許される。
俺も正直ここには来たいと思わない。
今回それもあってカナデ達を連れてこなかった。
シィンさんだって女性を連れてきたら困るだろうし……。でも先輩冒険者を俺の家に呼びつけるのは立場的にできないんだよなぁ。
奥の研究室へ足を運んだ。
「お疲れ様です」
「来たか……」
「あ!」
ミュージはシィンさんの姿を見て、怖がる所か目を輝かせた。
「も、もしかして世界三大魔導研究者の1人シィン先生ですか! ぼ、僕……先生が書いた魔導書を熟読しました!」
「ほぅ」
やっぱり魔法使いを志していたからシィンさんの存在は知ってたんだな。
しかし三大魔導研究者って。
「シィンさんってそんなすごい人なのか?」
「何言ってんのヴィーノ! 魔法の中でも新たなカテゴリーを生み出した天才だよ!? そっか、今は王国にいたんですね! お会い出来て光栄です!」
「若いのによく勉強をしているな。そこのハーレム男とは大違いだ」
「シィンさん、それだけすごいのに何で女性が寄ってこないんでしょうね」
「……私に会いたがるのは男ばかりだ。それより……」
ギリッと睨まれる。
「カナディアとシエラちゃんとスティーナちゃんと温泉に入ったという噂は本当なのか」
めんどくせぇ質問が来た。
「いや、まぁ……。でも仕方ないじゃないですか、ねぇ」
「ヴィーノが積極的に誘ってたってスティーナが言ってたけど」
余計なことを言うんじゃない。
「それで……どうだった。3人のその……体つきというか」
このおっさん……。
さっきまで目を輝かせていたミュージが冷たい目になっているじゃないか。
「妻のことを話すわけないでしょ。もう、そろそろ話を入りましょう。ミュージが来たんです。一気にプロジェクトを進めましょうよ」
「う、うむ」
「それで何なの? アメリ……さんも僕を生け贄って言ってたけど」
俺はポーションホルダーからバッテリーポーションを取り出してミュージに手渡した。
「炎属性の魔法を溜められるか?」
「もちろん、めちゃくちゃ練習したし」
ミュージは魔力を込め始めた
あの女王アリとの戦いのような不安定な形じゃない。
力が均等にポーションに吸収されている。
相当練習したっぽいな。……ちょっと嬉しい。
「どう?」
自慢気質な所はもうちょっと指導しなきゃならないが15才にしては十分と言った所だろう。
「ミュージの魔力体質はどうですか?」
「ふむ、悪くない。これだけの素質が帝国で埋もれていたのはもったいのないことだ。事故がなければ大成しただろう」
「やっぱりシィンさんでもミュージのケガはどうにもならないんですよね?」
「私は医者ではないからな。だが若い魔法使いがやりがちな成長期の魔臓負荷が最小限になっているのはかえって今回の計画ではよかったのかもしれん」
魔法扱う臓器、魔臓。ミュージやシィンさんは大きく強く発達しており、そこから魔力が作られる。
若い魔法使いは魔法練習のために魔臓に負担をかけやすいそうだ。
ミュージも事故が起こるまでは魔法の練習をしていたが、事故後は魔法の放出が出来なくなったため臓器の負荷は最小限に収まっている。
さらに魔法が放出できないながらも魔法の訓練は続けていたため魔臓の機能は破格のレベルに達しているらしい。
「そろそろ教えてよ!何をしようとしているの?」
「そうだな。まず前提として残酷なことを言うが俺のパーティで動くにあたって今のままでは使い物にならない」
「そ、そんな!」
あんなに修行したのに! と愕然とした表情を浮かべる。
この話はあくまでS級である俺主導で動くパーティでの話だ。
俺はさきほど力を込めたバッテリーポーションを手にとった。
「もうすでに炎の力が消えかかっている。長期保存できればよかったんだが、短期じゃな……」
「だったらすぐに使えば!」
「それだったら結局魔法が使える魔法使いを連れて来た方が早い。そういうことだ」
「……」
ミュージは黙り込んでしまう。
まぁそうだろう。俺が同じ立場なら愕然としてしまう。だけど……。
「ミュージの才能を有効活用してこそだと……俺は思っている。そのためのプロジェクトだ。成功するかどうかはわからん」
「ヴィーノ……」
「魔力を大幅に消費する、つらく厳しい戦いになるかもしれない。それこそ生け贄になるレベルでな」
「あ……」
「それでもやるか?」
俺の問いにミュージは一度も目をそらさず、真っ直ぐ見続けた。
「当然! 僕はそのために王国へ来たんだ」
「いい答えだ。ではシィンさん、あれをお願いします。俺は"砲弾龍の心臓"を持ってきました」
「……ほ、本当に何をするの?」
俺は拳を上げて叫んでみる。
「聞けミュージ。俺とシィンさんとミュージで携わるポーション・ホムンクルス製造計画の始動だ!」