13 旧パーティ視点
「どういうことだよ!!」
交易の街のギルドに所属するA級パーティ【アサルト】は危機に陥っていた。
S級冒険者になるための試験に挑む資格は得られたので冒険者ギルドの本部に掛け合ったものの、未だ何の連絡もない。
戦力維持のためA級クエストを受けてダンジョンに潜っていたが思うように進めていなかった。
2週間ほど前に無能と断じていた【アイテムユーザー】のヴィーノを追い出し、ギルドの制度を使った結果念願のヒーラー職のメンバーを得たものの結果が伴わない。
雑魚敵との戦闘ですら満身創痍の状態だったからだ。
新しいメンバーを加えた結果で連携が取れていないと思っていたがこれは明らかにおかしかった。
タンク職のオスタルはその荒々しい口調で何度も何度もきつい言葉を吐く。
「オスタル、少し黙ってろ」
「けどよぅ」
パーティのリーダーであるトミーも諫めるもいらだちを隠せていない。
以前に比べて、魔獣の急襲の回数が増え、体勢が整わないまま戦うことでより一層ダメージを受けていた。
「にーちゃんのクリームスープが食べたい」
「おい! 追い出した奴の話はすんな!」
「仕方ないじゃん! 戦いは役に立たなかったけど……料理とか……野営は上手かったし」
このような話が出るたびオスタルと格闘職のアミナは言い合いになる。
ヴィーノは野営の設営が得意で料理なども上手かった。見張りなども優先的にやってくれていたため、いざいなくなると不都合が続出した。
このパーティは全員戦闘スキルに特化しており、攻撃一辺倒なので戦闘外のことは不得意だったのだ。
S級モンスターに襲われて死んだと思ったヴィーノはどうやら生き延びていたということも知っている。
今は工芸が盛んな街で細々と低級クエストをこなしていると聞く。
置き去りにされたなど余計な吹聴をしてくると思われたが……特に何もなかった。
どうせ無能な冒険者の言葉などもみ消せると思っていたが拍子抜けしたぐらいであった。
それより、今のこの状況の方がまずい。
「うぇ……ポーションまっず」
魔法使いのルネは消費されたMPを回復させるためマジックポーションを飲むがそのあまりの苦さに嗚咽の声を出す。
すでにヴィーノが残したアイテムは使いきっている。仕方なく店売りのマジックポーションを買い込んだが……期待した効能ではなかったことにも愕然とした。
「きゃっ!」
「アミナ!? また急襲かよ!」
突如現れたリザードマンの群れに【アサルト】の面々は手痛いダメージを受けてしまう。
アミナは吹き飛ばされ、前衛のトミーとオスタルでリザードマン達の動きに対応する。
「くっ……このままでは」
リーダーのトミーはまた歯がゆい気持ちに表情を歪ませた。
◇◇◇
リザードマンの群れを討伐できたものの、パーティはほぼ半壊していた。
回復アイテムは残り少なく、ルネのMPも底をついている。
このままの状態で最奥のボスに挑んだら間違いなく全滅だ。
「くそっ!」
オスタルは傷ついた体で悔しさをにじませ、拳を地につける。
今までA級クエストは苦戦はしても最奥までいけないということはなかった。
火力が足りなくて、ボスに時間がかかり、戦闘力の無いヴィーノに不満をぶつけることはあったが、今はそれ以上に時間がかかってしまっている。
今までとは違うこと。その不満は新しく入ったヒーラーに向けられる。
オスタルが吠えた。
「てめぇがもっと回復しねぇからこうなるんじゃねぇか! 無能を追い出したのに……さらに無能が来たってのかよ!」
「はぁ!?」
今まで無言だったヒーラー職【プリースト】のガルが怒りを露わにした。
「無能はおめーらじゃねぇかよ! A級パーティに入れるって聞いたから王都から来たってのによ。おめぇらの動きはB級以下じゃねぇか!」
「んだとぉ!?」
「火力ないくせに攻めまくる【ファランクス】。何で初撃しかヘイトコントロールしねぇんだよ! いつでも勝手に回復されると思ってんのか!? おまえが盾になって前衛守らねぇでどうする!」
「ぐっ……」
オスタルは思い浮かぶ所があり、黙り込んでしまう。
今までは他の前衛がダメージを受けてもすぐ回復し、戦闘に戻れるため最初の1回だけ守れればいいと思っていた。
だが今は同じような戦いだとあっと言う間に他の2人が戦闘不能になってしまうのだ。
「火力はあるが装甲が紙の【グラップラー】。雑魚の一撃にHPの半分も飛ばしてんじゃねぇよ! 回復が追いつかねぇんだよ。避ける気ねぇのか!」
「だって……今までは減ってもにーちゃんのポーションですぐ回復できたし……」
アミナは下を向く。
今まではHPが減ってもすぐ、ポーションで全回復できたのでアミナは装備も防御を捨てた攻撃、素早さに極振りしたものだった。おかげで一撃が致命傷になり、回復が追いつかなくなっている。
「一回の戦闘でMPを使い切る【ソーサレス】。MP切れたら何にもできないじゃねぇか。どれだけマジックポーション使う気だ」
「う、うるさい! ヴィーノのマジックポーションがあればこんなことには!」
ルネも負けじと言い返す。
ルネのMP補填でマジックポーションを使用するため、ヒーラーのガルの分が確保できないのだ。
「何よりリーダーだろ! 指示も出さずに敵の大技食らいまくり、【ナイト】のくせにまわり見えてねぇのか! さっきから強襲されてんのもそれだろ!」
「……」
トミーは黙り込んでしまった。
ガルの言うことは全て当たっていたからだ。
思えば戦闘中の大技の警戒はヴィーノが指示をしていた。ダンジョンを進む時もヴィーノがいち早く異変に気付き、警戒をしていたのだ。
だがトミーはそれに納得することができない。【アサルト】はヴィーノを追い出してしまったから。
「言っておくがヒーリングは無敵じゃねぇ。全体ヒーリングしたってHPの少量しか回復しないし、MPは空っ穴だ。……警戒とか野営とかは時間かけりゃ何とかなる。おめーらが追い出した奴のアイテムがよっぽど優秀だったんだな。HPもMPもほぼ全回復のポーションなんて聞いたこともねぇわ」
「そうだよ!」
アミナが声をかける。
「にーちゃんのポーションさえあれば……ガルの回復と合わせて、あたし達はずっと戦える!」
「ヴィーノのマジックポーションさえあれば魔法が山ほど撃てる……」
「あの無能にポーションを供給させ続けりゃいいってことか!」
「……ああ」
だが、今更追い出した人間、しかも殺そうとした人間に対して助力を願うなどできるはずもない。
だけど彼らは皆思い込んでいた。ヴィーノはまだパーティのために尽力し、ポーションを供給してくれると。
ヴィーノの人となりを知らないガルだけはその光景を見て深いため息をついたのであった。
ガアアアアアアアアアアア!
「おい、ドラゴンがでやがった!」
「俺とオスタルで守りつつ、撤退するぞ! 今の状態じゃドラゴンに勝てない!」






