112 危機は去って ※ミュージ視点
それからのことは正直ぼんやりとしか覚えていない。
たぶん、久しぶりに本気の魔法を2発使ったため体力が大幅に消耗してしまったんだろう。
背中を大きくケガしたヴィーノに連れて帰ってもらうなんて本当に弱いな僕は……と思ってしまった。
女王アリを討伐したため数百の鋼殻アリは大パニックとなり、逃げていくのは追わず、街でたむろしている個体を1匹ずつ倒していく。
ギルドの休憩室に運ばれて、眠って起きた後には全てが終わっていた。
それから数日。街の被害に対しての修復作業などでヴィーノ達は朝から晩まで働き詰めだ。
子供の僕に手伝えることはそう多くなくヴィーノ達と再び喋られない内に日だけが去っていく。
「冒険者達……明日帰るって」
「え……そうなんだ」
すっかり元気になったメロディはいつもの調子で言葉を告げる。
ヴィーノ達に直接言われたのだろうか。
「元々1週間の滞在予定だったのに3日も多くここにいるからね。後は任せて王国に帰るみたい」
女性陣は宿に帰ってきていたが、ヴィーノだけは冒険者ギルドで泊まりぱなしだった。
あの戦いの後から1度として喋ることができていない。
あの時……僕をパーティに誘ってくれたあの話は夢だったんだろうか。
「ねぇ……ミュージ」
メロディは僕の服の袖を引っ張る。
「やっぱり……王国に行くんだよね」
「うん、僕の魔法の力を引き出せるのはヴィーノだけだからね」
「王国自体は遠くはないけど……、外国だし……心配だよ」
メロディにはすでに成人してからの僕の進路先を説明している。
進路の話は先日もしているので行き先が決まっただけマシになったと思ったがメロディの心配性は変わらずだった。
王国の王都は遠くはないが、気軽に行ける距離ではない。
働き始めは生活するので手一杯だろうから……なかなか帰ることもできないだろう。
「だけど……必ず温泉郷に戻ってくる。その時は魔法の力でみんなを守って……温泉にゆったりつかりたいな」
「でもさ……」
メロディは怪訝な顔をする。
「冒険者のおにさーんって本当に大丈夫なのかな」
「何の心配をしてるのさ」
「だって……あんな綺麗な人達をはべらせているんだよ。男のミュージの扱いが心配だよ」
「さすがに……それはないと思うけど」
「じゃあ聞いてみよ! あそこにシエラちゃんがいるし」
宿の入口の長椅子でシエラが温泉まんじゅうを食べてのんびりしていた。
滞在最終日だからのんびりしているのだろうか。
「ねぇ、シエラちゃん! ちょっといい?」
「ん?」
1週間の滞在ですっかりメロディもヴィーノ達と仲良くなってしまった。
カナディアとかスティーナは大人びているから丁寧語だけど、姿や顔の幼いシエラは何となくそんな気にならず砕けた口調になってしまっている。
本人も戦闘の時以外はのほほんとしているし、失礼な言い方だが、飯を献上したら何でもしてくれそうな危うさが見える。
それでもシエラは何だろう。決して汚してはいけない。そんなイメージがある。
特徴的な白髪だからだろうか。遺伝子レベルで……褒めて称えなきゃならないような気にさせられるんだ。
「冒険者のおにーさんってシエラちゃんから見て……どんな感じかな?」
「ヴィーノのこと? うーん、うーん」
シエラはまんじゅうを頬張りながら考え込む。食べきって、次のまんじゅうに手がいく。
晩ご飯これからなのに……どれだけ食べるんだろうか。
「クリームスープが美味しい!」
「食べ物はいいって」
思わず口を挟んでしまった。
「食べ物以外……うーん。とってもシエラをよく見てくれて、気遣ってくれるかな」
「そうなんだぁ~」
確かに僕のこともそうやって見てくれていたから気配り上手なのかなと思う。
「シエラはよく胸がこるんだけど……ヴィーノが優しく揉みほぐしてくれるの」
「ぶほっ!」「ゴホッゴホッ!」
僕とメロディは思わず吹いてしまった。
「む、胸を……?」
メロディの顔が真っ赤になる。メロディはこういう話は得意じゃない。僕もだけど……。
「ん。シエラなんだかこりやすいから。こってますね~ってモミモミ」
確かにそれだけでかけりゃ……しかしそれをモミモミなんて何てうらやまっ……。
メロディにはまったく。
「ねぇ、ミュージ。何で私の胸を見るのかな」
「見てないよ!?」
危ない……幼馴染のまったく成長が見られない胸部を見る所だった。
「たまにどさくさに紛れて肩を揉まれたりもするんだけど……それくらいかなぁ」
「ちょっと待って。ねぇ、シエラ。胸と肩……間違えてない?」
シエラはおおっと呟く。
「間違えた」
「そ、そうだよね。肩揉みのことだよね……。あぁ、びっくりした」
確かにびっくりだ。
とんでもない爆弾を放つなシエラは……。奥さんのカナディアが今の話を聞いたらとんでもないことになりそうだ。
……待って。どさくさに紛れて肩を揉まれるって言ってなかったか。
肩と胸を間違えて発言……ってことは。
「おお! ミュージにメロディ、ここにいたのか」
宿の入口からヴィーノとカナディア、スティーナが現れる。
陽気で機嫌よさそうに僕とメロディの側に来たので……。
「メロディ後ろに下がってて」
「え?」
「おっぱい揉まれるかもしれない」
「そんなことしねぇよ!?」
次話が5章最終話となります~!