109 温泉郷の危機③ ※ミュージ視点
「じゃああんた達は霧隠龍を倒せたって言うの? S級魔獣の霧隠龍の危機に怯える生活とどっちがいいかって話だよ」
「ミュージ……」
「なんだおまえは……。子供が余計なことを!」
「余計じゃない。僕はヴィーノのおかげで霧隠龍から大事な人を救われたんだ。ヴィーノ達は絶対間違っていない。どうせ……鋼殻アリだってヴィーノ達がメインで戦うんだから責任もクソもないでしょ」
ヴィーノは僕に近づき、ポンと肩に手を置いてくる。
「霧隠龍を早期に倒してしまったのは俺のミスと言える。だから鋼殻アリとの戦いで最も危険な役を俺が引き受けよう。時間もない、さっそく作戦会議をしよう」
「ええ、その通りです」
このギルドでの唯一のB級冒険者、カリスさんが口を出した。
「鋼殻アリで滅ばされた村は民間人しかいない集落ばかりと聞きます。今、ここにはS級冒険者も2人いますし、3日待てば帝都から冒険者が来るのです。我々に今できることをしましょう!」
カリスさんの言葉でしぶしぶ有力者達が引き下がった。
鋼殻アリの襲撃はすぐ側まで迫っている。時間はあまりない。
「カリス、助かったよ」
「いえ、ヴィーノさんの判断は間違っていないと思います。おそらく霧隠龍によって人知れずさらわれた人や家畜はそれなりにいますし、ここで倒しておかなければ別で大きな被害になっていたと思います」
「鋼殻アリの存在に気付いていれば……やりようがあったんだ。それよりミュージ、君はメロディと一緒に避難しなかったのか」
ヴィーノが若干不思議そうに声をかけてくる。
「僕も手伝うよ。魔法の力、必要なんでしょ」
「いや……今回は冒険者や警察など人手もいる。安全な所に……」
「安全なトコなんてないでしょ。地中から現れるんだ。どこに逃げたって追っかけてくる」
「それはそうだが……。そ、それよりカリス。女王アリを倒すのに炎系が使える魔法使いを俺につけてくれ。2人……最低、1人は欲しい」
話題をそらされてしまった。
僕はまだ14才で成人しているわけじゃない。僕が同じ立場でメロディが同じことを言ったら拒否しただろう。
ヴィーノの言葉にカリスさんは首を横に振った。
「すみません。実は温泉郷の冒険者ギルドには魔法使いがいないのです。去年まではいたのですが……帝都の方へ」
「え!?」
鋼殻アリの弱点は霧隠龍が得意とする炎属性の攻撃だ。
物理に強耐性を持つ代わりに魔法に対する耐性はそこまで高くない。
堂々としていたヴィーノの姿に焦りが見え始めた。
「そ、そうか。うーん、うーん……どうするか」
僕はヴィーノの背中をポンと叩いた。
「魔法なら僕が使えるよ」
「いや……しかしなぁ」
「覚悟なら……ある」
悩むヴィーノの目をまっすぐ見る。
「待つだけじゃ何も得られないよ。僕に出来る最大限のこと……、僕の力を使えばヴィーノの力を最大に引き上げることができる」
「死ぬかもしれないぞ」
「死なないよ。メロディに絶対戻ってくるって言ったから」
「ふふ、あの時ミュージを連れていったことで一本取られてしまったようですね」
「どこにいたって危険なんだし、戦力になるなら連れて行くしかないんじゃない?」
カナディアとスティーナがやってきた。
2人は巡回し、鋼殻アリの進路など防衛ラインを調べてきたようだ。
この街はかつて城郭都市としての名残が今でも残っている。鉄や石段の建物も多く、鋼殻アリの進路を妨げられやすい構造となっている。
「しゃーない。やるからにはアテにするぞ」
「うん!」
それから作戦会議が開始され、各々の配置が決まっていく。
帝都のギルドや王国のギルドには連絡がされており、準備を整えて進軍しているということで2日耐えきることができれば僕達の勝利となる。
帝国製の飛行船を使えればすぐに到着するのにとヴィーノは嘆いていたが……できないのは仕方ない。
「避難は進んでいるか?」
「ええ、警察の方々が率先してやってくれています。避難民を数十カ所の強固の建物に隔離、アリの侵入を徹底的に押さえましょう」
「あとは外で戦うあたし達が2日耐えられるかどうかよね。カナディアなんてほぼ出突っ張りになるけど大丈夫?」
「食事とトイレの時だけは進行を押さえてくれるとありがたいんですけどね」
鋼殻アリは昼も夜も構わず移動している。それ故襲撃は恐らく断続的に来ることになるだろう。
「シエラはどうすればいい?」
「防衛の戦力的にはカナデとシエラが鍵となるな。気になることはあるか?」
「お腹が空いたら困る」
「メシを用意させよう。カリス、冒険者達の配置は決まったか」
「はい、緊急時の離脱ルートも構築、集団で襲われてもすぐに助けにいけるようにある程度パーティを組む形で対処します」
「分かった。後は……女王アリか。俺とミュージで何とかする」
相手のボスを倒しに行くんだ……。ちょっと緊張してきたな。
「女王アリの場所は把握しているの?」
「それについては……」
「おまたせ!!」
なんだ? 作戦会議の場にノートを持った女性とカメラを背負った男性が入ってきた。
「女王アリがいそうな所、調べてきたわ。役立ててちょうだい」
「助かるよ、レリーさん」
帝国時報の腕章を付けている。
この人達は記者なのか。記者がどうして……居場所の調査をしているんだろうか。
「私達の命に関わるしね。でも解決したらしっかり取材させてもらうからね!」
「よし……各自、行動を開始する。絶対死ぬなよ!」
「おーーー!」
何だろう……大作戦に参加する高揚感で胸がドキドキしてきた。
大丈夫かな。
本作の2巻の発売が決定しました!
7月20日となります。
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