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12 太刀を振るう彼女は美しい

「か、体が痛い」


「寝違えたんですか?」


 君の髪に触れようとしたからだよって言いたくなってしまった。


「昨日すごく……良い夢を見たんです……。何というかハグされたような」


 ハグしてきたのは君だけどな。


 よくよく考えればカナディアは1人で冒険者をやっていたわけで……防衛本能が強くなきゃ生き残れないものだ。

 今後は寝顔を観察するだけに留めよう。

 大太刀を持っていたら斬り殺されていたかもしれない。


「しかし……」


「?」


 実に素晴らしいカラダだった。力は凄まじいがとても柔らかかったことだけは覚えていこう。

 16歳とは思えないほどいろんな所が色っぽい……。

 そこだけは役得だったかもしれない。



◇◇



 朽ち果てた教会の地下ダンジョン。

 危険なB級モンスター、ガーゴイルはここに住み着いている。

 B級ほどにもなると一般人では到底敵わない。人里に出てきたらかなり問題になるため早急に対応する必要がある。


 ガーゴイルは石像に擬態をしているが、近づけばその悪魔のような翼をはためかせ、鋭利な爪や強力な魔法攻撃を行ってくる魔獣である。


「ヴィーノ」

「ああ、まいったな」


 このような所のダンジョンに出現するガーゴイルは1体のことが多い、だが今回は3体見られた。

 強力な魔獣3体の同時討伐はA級クエストにも匹敵する。


「カナディア、いけると思うか?」

「はい、もう1人じゃありませんから」

「よし……」


 気合いは充分。俺だってもう以前のような無能な存在ではない。


「フォローお願いしますね。……今回は良い所見せたいんですから!」

「あ、はい」


 じろっとカナディアに睨まれる。

 そういや、ここに来るまでの魔獣は全部俺のポーション投擲で倒していた。

 力強く投げるだけで倒せるから楽だし、気持ちいいんだもん。


 でも今回、攻撃は控えよう。

 今後のためにカナディアの動きを覚えないといけないからな。


「行くぞ、カナディア!」


 俺の声と同時にカナディアは飛び出して行く。


「二の太刀【神速】」


 大太刀を引き抜いたカナディアは猛スピードで突き進み、ガーゴイル1体に鋭い斬撃を与える。

 ウルフだったらこれで両断だっただろう。

 防御力の高いガーゴイルではそれに至らず仰け反らせる形となる。


「あの技は瞬間移動して攻撃するようなモノか……」


 実際は非常に早く動いているだけなんだろうが、俺の目からは瞬間移動したようにしか見えない。

 カナディアは魔法を打つことは出来ないが、MP(まりょく)を消費して技に派生できると言っていた。

 MPの枯渇タイミングを見極めてマジックポーションをお口にぶん投げないとな。


 ガーゴイル3体が横並びとなり、何か手を翳している。


 まさか。


「カナディア、下がれ!」


「っ!」


 ガーゴイル3体の手から集められた魔力が光線となり、放射された。


 俺の声に反応したカナディアは何とか避けることに成功する。


「あの攻撃は初めて見ました」


「敵が複数だと撃ってくるのかもしれないな」


 敵の動きを見ていて正解だった。

 こうやって敵の動きを見て指示していくのは大事な仕事だと思っている。


 最初は優勢だったが、やはりB級モンスターのガーゴイルはそう簡単にはいかない。

 1対1なら問題はないが、3体ともなると勢いだけではどうにもならない。

 こういう時に惹きつける盾役や魔法使いがいれば良いのだろう。


 それでもやはりカナディアはA級冒険者。時間をかければ3体のガーゴイルも倒すことができるだろう。

 だがある程度の被害は覚悟しなければならない。


 ただ……それを防ぐために俺がいるんだ。


「カナディアは口を開けてろ!」


「!」


 俺は飛び出して、カナディアの方にできる限り近づく。


 体勢を崩しながらポーションを口の中に入れるなんて俺からすればたやすいことだ。


「んごっ!」


 カナディアの口の中にポーションのビンがすぽりと入る。


 口の中をケガさせないように何千回、何万回と修行を重ねた投擲だ。

 ミスなどありえない。


「からだ……熱い」


「トドメをさせ!」


「はい!」


 カナディアは大太刀を垂直に翳して、気合いを入れている。

 そのまま先ほどの二の太刀を繰り出した。

 さっきは斬り裂けなかったけど、今のカナディアなら両断できる。


 ポーションに店売りのカリョク茸を調合したソード・ポーションだ。回復と同時に使用者の攻撃力を上げることができる。

 これをカナディアの口にぶち込んだ。


「ガァッ!」


 想定通り1体を斬り断ち、ガーゴイルを撃破。そのままカナディアは腰を下げた。


「三の太刀【円波】」


 カナディアが大太刀を力強く横に振ると周囲に剣刃のようなものが生まれた。

 そして逆方向にいたガーゴイルの2体が真っ二つに斬れてしまったのだ。


「すっげぇ……」


 あれだけの範囲攻撃を初めて見た。

 間違いなく旧パーティ前衛の3人より、カナディアの方が強い。


 そして何よりも……。

 大太刀を鞘に戻し、腰まで伸びた黒髪が揺れる姿は何よりも。


「今度こそお役に立てましたか?」


 美しい……。



 ◇◇◇



 ガーゴイルを討伐し、魔獣の素材を剥ぎ取って帰路へとつく。

 今回初めてのクエストだったが手応えを感じていた。


「カナディアの動きも見えてきたな。あとはあの超スピードに合わせてポーションを投げ込めるようにならないとな」


「口に大きいの入れられるの結構恥ずかしいのですケド……」


「すぐ慣れるぞ。旧パーティの奴らもそこは文句言わなかったし」


「旧パーティ……」


 カナディアは少し考えこむ。


「どう見積もったってヴィーノが無能とは到底思えないのですが……」


「ああ、昔はポーションで敵をぶっ壊すなんて考えてなかったからな。それで」

「いえ」


 カナディアは続ける。


「遠距離から的確にポーションで味方を回復させる技量。敵の動きを読んで仲間に指示できる視野。……そして特殊効果を持つポーション」


 カナディアはそうやって一つ、一つ並べるように喋る。

 こうやって人から聞かされると……自分のやってきたことを実感できる。


「旧パーティの人達は本当に見る目がなかったのですね」


「……そうかも」


「私はヴィーノが一緒にいてくれて本当によかったと……心から思います」


 カナディアは微笑んでくれた。

 俺が必要だと……偽りなく言ってくれる。

 俺が本当に欲しかったもの……。本当の仲間からの信頼だったのかもしれない。


 俺の胸の中は喜びで一杯になっていた。

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書籍版ポーション160km/hで投げるモノ! ~アイテム係の俺が万能回復薬を投擲することで最強の冒険者に成り上がる!?~』
第2巻が7月20日 より発売予定です! 応援よろしくお願いします!

表紙イラスト
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