104 メロディを助けなきゃ ※ミュージ視点
ここから5章完結までミュージ視点となります。
メロディとは本当に赤ちゃんの頃からの付き合いだった。
気付けば常に隣にいたし、同い年だけど何となく妹みたいな気持ちで接していた。
5歳にして魔法の素質が開花した僕は明らかに天狗になっていたんだ。
日曜学校の同い年のやつらの低俗さを思うと鼻で笑ってしまうレベルだと感じていた。
そんな僕だから友達なんてできるはずもなく、まぁ、僕もどうせ大人相手にやりとりするものと思っていたからどうでもよかったんだけど……。
それでもずっと側にいてくれたのはメロディだった。
メロディは子供の頃は気弱でよくいじめられていた。
妹扱いしていたし、僕の魔法の成果はいつも喜んでいたから、僕がメロディを守らなきゃって思いが強かったんだと思う。
だからどんなことがあってもメロディを守るって決めていたんだ。
数年前に事故にあって、魔法が使えなくなって生活は一変。
あれだけ威張ってた僕の凋落に同世代の人間は笑いが止まらなかったと思う。
だけどそれが悔しくてたまらないから必死に魔法の勉強もした。全属性、レアな魔法も支援魔法も撃てないと分かっていながらも必死になって頑張った。
でも……結果は一緒だ。
僕には何もない。
守る対象だったメロディは旅館を営むおじさん、おばさんを手伝い、大人相手にやりとりをするようになってからぐっと強くなった。
たまに大人から嫌がらせを受けることがあってもけろっとするようになってしまった。
今思えばメロディのお母さんも強い人だったから当然だったのかもしれない。
守る対象が強くなり、僕はやっぱり何もない。
それが悔しくてメロディに辛く当たってしまう。
幸い、ヴィーノにこのあたりのことを相談したおかけで少しだけ心が落ち着いたように思える。
僕は一人で閉じこもり過ぎたんだと思う。まったく何もできないくせに……プライドだけが先行している。
カッコイイこと行って外の世界へ行くなんて言うけど、不安でいっぱいだ。僕を受け入れてくれる国がなければどうしようと想いでいっぱいなんだ。
ヴィーノも気をかけてくれるけど……一線は引いている。
きっとこれは僕の問題だから助言すれど手は差し伸べない、そういうことだろう。
もっといろいろ考えたかった矢先にこの事件だ。
まさかメロディが狙われるなんて想ってもみなかった。
両親を失って、メロディまでいなくなんて絶対嫌だ。
大切な人を失うくらいなら僕のちっぽけなプライドなんかどうでもいい。
メロディを絶対助けるんだ。
「くそ……」
急いでメロディを助けなきゃいけないのに……。
ヴィーノに無理行ってついていったのに完全に足手まといになっている現状が歯がゆい。
魔法が使えたら……と思ったけど前を走る3人の運動量を考えると魔法を使えていても足手まといになっていたんじゃと思う。
カナディアは何となく天性のものを持っているってのは分かる。
僕と2つしか違わないのに僕より身長が高いし、カッコイイのが男としてふがいない。
ヴィーノは前に無能なアイテム係と言われていたって言ってたけど風呂の中で見た彼の体は本当に引き締まっていたし、今もまわりを警戒しながら走っている。
極限まで鍛錬して今の地位にいるんだろう。ふにゃふにゃの筋肉の僕は正直恥ずかしい。
シエラは僕より小さいし、冒険者のクラスも最低のDだって聞く。
なのにカナディア、ヴィーノとまったく引けを取らない運動量を誇っている。
そして何よりこのセラフィム……白魔術といってたけど僕が知っている魔法とはまったく違う大系のようだ。
そういえばさっき黒魔術がどうって行っていた気がする。黒と白……聞いたことがない、
僕は今、セラフィムに抱かれて移動している。
僕の足が遅すぎてメロディを救う時間のロスを防ぐために助けてくれている。
「ミュージ! このまま真っ直ぐでいいんだな!」
「う、うん! 大型の魔獣が寝床にしやすい住処があって、多分そこにいる可能性が一番高い」
子供の時から凰火山には魔法の練習で何度行っている。
魔獣が出るからって大人から禁止されていたけど、正直街の冒険者達よりも強い意識はあったし、ちゃんと逃げ道も確保していたから大きな問題に発展することはなかった。
魔法が使えなくなってから一度も行ってないけど……そう変わるものじゃない。
それにしてもS級冒険者はすごい。
前を塞ぐ魔物はカナディアが一刀両断だし、空を飛んでいる魔物や遠距離で魔法を放とうとする魔物はヴィーノがポーションで一瞬で倒していく。
ナイフを投げて敵を倒す冒険者を見たことがあるけど、あそこまで早くて射程の長い投擲武器を走りながら確実に当てるなんて無茶苦茶だと思う。
でもこれならメロディは助かるかもしれない。
ヴィーノが霧隠龍はメロディを住処に持ち帰って非常食とすることが可能性が高いと言っていた。
すぐには殺されないが……ゆっくりもできない。
本当に無事でいてくれ……メロディ。
「この先が住処だよ」
「当たりですね」
「カナデが分かるなら確実だな」
魔獣の住処に到達した僕達だが……その絶望的な光景にぞっとする。
「なんだこれ……蟻だらけじゃないか」
「きもちわる……」
「先ほど街で見つけた蟻型の魔獣ですね。捕まえて食べていたんでしょうか」
住処には蟻の死体が山のように存在していた。
いずれも持ち帰ってここで食べたんだろうか。
「この蟻があの霧隠龍の主食のようだな」
「ええ、蟻が捕まらない時は人間を変わりに捕まえたのかもしれませんね」
「今日、俺達が先に倒してしまったから……メロディが捕まえられたのか」
「メロディはどこに!?」
急いでメロディの行方を探す。
頼む……無事でいてくれ
「セラフィム、メロディを探したいから最弱威力でのスピリッドソード」
「&’)($#$&’」
この世に存在するとは思えない言葉を発して、セラフィムは僕を地面へと下ろす。
そのまま半身の体を宙へ浮かばせ、背中に装備する2本の内の1本を掴み抜き取った。
青く光る剣を振り下ろす。
「えっ!」
僕の声をそのままにセラフィムが放った剣波は魔獣の住処を通過する。
なおもセラフィムは何度も剣を振り、その度に発生する剣の刃が住処に突き刺さった。
「何をやって!」
「それでいい、問題ない」
よく分からないけどヴィーノがそう言うんなら大丈夫だと思うけど……心配だ。
「ん、見つけた」
「スピリッドソードは確か精神にダメージに与えるんだよな?」
「そう、死んでたらダメージを受けない。手応えがあるってことは生きているのは間違いない」
シエラの言葉にドキドキしていた心がすっと冷えるような感覚に陥った。
生きている……メロディは無事なんだ。
良かった……。
安心したら思わず力が抜けそうになった。
でも……ヴィーノもシエラも表情を緩めない。
「それは1人か?」
ヴィーノの問いかけにシエラは首を横に振る。
「うんうん、2体……手応えがあった」
カナディアは大太刀を、ヴィーノはポーションを抜き取る。
「シエラ、セラフィムにメロディの回収を命じてくれ」
「分かった」
「ガアアアアアアアアアアアァッッッッッ!」
巨大な咆吼。
霞隠龍が住処から飛び出してきた。
シエラのさっきの技に反応したのかもしれない。
赤く鱗に巨大な尾、背中に大きな羽を伸ばしている……ドラゴン。
こんな魔獣初めて見た。
……魔法の練習中に出会っていたら僕は腰を抜かしていたかもしれない。
こんな敵に勝てるんだろうか……。