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102 霧に潜む魔獣

「っ!?」


 信号弾が空へと上がる。

 正確には信号弾の要素を持たせたシグナル・ポーションである。

 地面にぶん投げて割ったら、大きな音と光が空へと上がる仕組みの俺の特製のポーションである。

 これをみんなに持たせている。


 あの場所は確かスティーナか。


 急いでスティーナがいる場所へ行く。

 するとスティーナは双銃剣を構えて何かを見据えていた。

 朝霧でよく見えないが……巨大な蟻の魔獣がのそのそと這っている。


「急に地面から現れたの……」


 空や地面から魔獣が現れるのは決して少なくはない。

 王国でもたまに見られる現象だ。


「これが人さらいの原因……には見えないな」


「スティーナ、大丈夫ですか」


 カナデとセラフィムに乗ったシエラが近づいてきた。


 とりあえず魔獣は倒さないと。


「カナデ、頼めるか?」


「ええ」


 あの巨大蟻のような魔獣は王国では見たことがない。

 だけど……今まで問題になっていないのであればそう手強いことはないだろう。


 カナデは一気に近づき、大太刀で両断する。


「くっ!?」


 固い。カナデの一撃を弾きやがった。

 だけどダメージは入っているようで苦悶の叫び声を上げる。


 カナデに向けて反撃で刃のような手を振るが当たるはずもない。

 俺は急いでポーションを抜いて速射でぶん投げた。

 巨大蟻の頭に命中し、これで終わり……。


「ぐぅぅぅぅ!」


 まだ動いてやがる!


「五の太刀【大牙】!」


 カナデの技で最も威力ある五の太刀が炸裂する。

 さすがにこの一撃は耐えられず、巨大蟻は両断され絶命した。


 俺はカナデの側に寄る。


「随分、固い魔獣だったな」


「ええ、物理耐性があるようですね。大して強くないことが救いでしょうか」


「これが人さらいの原因?」


 スティーナの問いに俺は首を横に振った。


「この魔獣が原因だったらすぐに分かったはずだ。恐らくは原因ではないだろう」


「そうですね。たまたま……スティーナの前に現れただけでしょうか」


 たまたま……か。

 でも何だろう……この違和感。

 何か……何かあるような気がする。

 なんだ?


「うわあああああ!」


 宿の中から叫び声が上がった。

 あの声はミュージか。

 人さらいの可能性があったから宿から出るなと言っておいたんだが……。


 俺達は急いで宿の中へと入った。

 そこで見たものは……尻餅をついたミュージと……霧の中で浮かぶメロディの姿であった。


「ミュージ……たすけ」


 メロディはふわりと浮かび始めてしまった。

 そこで直感的に理解する。これが人さらいの原因だったと。


 まず、メロディを助けないと……!

 俺はホルダーからポーションを取り出して5本、朝霧に向かってぶん投げた。

 実体があるのか分からない、これは試しだ。


「ガアアアアアァ!」


 その内の1本が当たった!

 こいつ霊的な魔獣ではない、恐らく霧で姿を隠すことができる魔獣だ。

 もう一本投げようとした先、何もない所から火炎のブレスが飛び出してくる。


「やばっ!」


 予備動作なしだったため反応が遅れた。

 ダメージを覚悟する。


「セラフィムガード」


 俺の目の前にセラフィムが出現し、淡い光の障壁を展開する。

 シエラが防御の白魔術を撃ってくれたのか。


「シエラ助かる!」

「ぶい!」


 さすがに何もない所からの攻撃は反則だろう。

 あれは避けられないぞ!


「メロディを放しなさい!」

「はぁぁぁ!」


 左右、カナデとスティーナが飛び上がり霧の中の魔物に斬りかかる。

 あの位置であれば確実にダメージを与えられる。行ける。


 その時、霧が若干晴れ……魔獣の顔が姿を現す。

 ばっと口が開いたと思ったら。


「キキキキキキキキキキキイイイイイイイイイイィィィィェェェェェェェ!」


「がぁっ」「ぐっ!」「んっ!」


 五感に刺激の与える音波攻撃が周囲に響き渡った。

 カナデとスティーナは崩れ落ち、少し離れた俺とシエラも頭を揺さぶれ、耳がまったく聞こえなくなる。


 やられた……。こんな技を使ってくるとは……。


 音波で気を失ったメロディの体が霧の中に入り始めた。

 このままじゃ見失ってしまう。

 魔獣に取り込まれたらもう助ける術がない。


 その時、肩を叩かれる。


「っ!」


 シエラ?

 彼女も音波の攻撃に苦しんでるが必死に指をさして呼びかけている。

 その先にあるのはセラフィムだった。

 そうかセラフィムは音波の影響を受けないのか。


 だが……今のままじゃ助けることはできない。

 だったら。


 俺はポーションを取り出し、セラフィムに投げつける。

 受けとったセラフィムはすぐさま霧で隠れようとしている魔獣の元へ向かった。


「投げろ!」


 セラフィムの投げたポーションは霧の魔獣の体に炸裂する。

 霧の魔獣はメロディを取り込んで高く飛び上がって消え去ってしまった。


「く、くそ……取り逃しちまうとは!」


 頭がクラクラする中、悔しさだけが残った。

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書籍版ポーション160km/hで投げるモノ! ~アイテム係の俺が万能回復薬を投擲することで最強の冒険者に成り上がる!?~』
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表紙イラスト
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