86 冒険者シエラ
「冒険者?」
「ああ、あのセラフィムとの連携攻撃……ただものではないよな? あれだけ戦えるなら冒険者を仕事にしてみたらいい。金になるぞ」
「うーん」
今日、俺は内勤、待機の予定である。
ちょうどよかったのでシエラを冒険者ギルドへ連れていくことにした。
朝の攻撃を詳しく聞いてみるとセラフィムはシエラの魔力と魂で動いているらしい。
そしてセラフィムの力はシエラの身体能力は向上させる効果もあるようだ。通りで華奢な女の子なのに動けるわけだ。
この魂ってのが曖昧だが消費すると腹が減るらしく、それがエネルギー源だという。
セラフィムが持つ【スピリット・ソード】と【マテリアル・ブレード】
相手の魔力にダメージを与える【スピリット・ソード】。肉体に傷をつけずにダメージを与えることができる。
そして物理攻撃である【マテリアル・ブレード】。馬車を真っ二つにできるほどの剛力。
正直な所S級レベルの力を持っているんじゃないかと思う。
「じーーー」
そんなシエラは立ち止まって屋台の串焼きを見ている。
まったく食い意地はすごいな……。
セラフィム稼働のために腹が減りやすいのだろうけど、稼働してないのに腹減っているようにも見えるので単純に食いしん坊なのだろう。
そして俺の顔を見た。
「ほらっさっさといくぞ」
シエラの首根っこ掴んで……歩いて行く。
「ふえ?」
妙な声を出すがどうせ昼飯でがっつり食うんだし、今は我慢させておいた方がいい。
「……ヴィーノは不思議だね」
「ん? どういうこと」
「白の国ではシエラの言うことに誰も逆らわなかった。シエラの望むもの全て手にはいったんだよ」
「そりゃうらやましいことで」
「でも全然楽しくなくて、みんなよそよそしく様付けでいつも一歩下がっていた」
「……」
「ヴィーノはまじないの効果があるはずなのにあの黒狐と結婚するし、シエラのことも普通に見てる。特別扱いしてるようには見えない」
「たまたまだと思うぞ」
「へ?」
「特殊な環境下だったからそう思うのかもしれないけど、世の中み~んな不思議なやつばかりだ。従順なフリして大太刀振り回す奴、情事を隠れて見て興奮する奴、若い女と壮年の男しか興味のない奴、誰よりも女好きなのにまったく喋られないやつ。俺がたまたまカナデもシエラも特別な目線で見ることのできない不思議なやつだけ」
「たまたま……」
「あぁ。その分、みんな自分のしたいことをしている。だからシエラも今は自由なんだ。好きにいろいろやってみたらいいんじゃないか。人に迷惑かけないレベルでな」
「そっか」
「じゃあ、冒険者ギルドの方へ行くぞ」
「うん!」
シエラは大きな笑顔を見せた。
もしかしたら今見せた笑顔が……本当のシエラの笑顔だったのかもしれない。
◇◇◇
「失礼しました」
冒険者ギルドの4階。
さて……ペルエストさんに報告をした俺はゆっくりと階段を降りていく。
シエラの件はさっそく相談した。
出た答えはこのまま面倒を見ろ……だそうだ。
ペルエストさんの話だと白の国の情勢は1年前から良いものではないらしく、ここ半年は完全に外部との取引を最小限にしているらしい。
逆にこの王国までに逃げることができたことが奇跡だと言うぐらいだ。
シエラを取り戻しに来る可能性は高い。それはすなわち白の国の情勢を公にすることと同じだ。
それを誘い出した方が得策かもしれないと言っていた。
国家間の争いになりそうな危険な考えだと思うがペルエストさんは神眼の二つ名を持つ。何か違う所が見えているのだろう。
あとは冒険者をさせることには賛成のようだ。
シエラの味方をたくさんを作っておけ。
このあたりの理由は分からないけど……まぁいいか。
シエラのやつはミルヴァに任せてみたが大丈夫かな。
さっそくまじないの効果でめちゃくちゃ囲まれてたもんな。大層可愛がられ、甘やかされているに違いない。
こういう所はカナデと真逆だと思う。白の巫女ってだけで……相当可愛がられるのだろう。
1階に降りてみたら……シエラが泣きそうな顔で近づいて、抱きついてきた。
甘やかされてると思ったら違うことになってた!?
「ど、どうした!?」
「ヴィ、ヴィーノ……助けて。あいつ……怖い!」
「へ?」
「シエラを……こちょこちょしてくる!」
見上げた先にはシエラと同じ背丈の青髪ツーサイドアップの女の子が手をワキワキさせて近づいていくる。
すっげー嬉しそうに眼を血走らせて……一歩、一歩近づいてきた。
「ヴィーノ……」
「無理だ。俺には止められない」
「やだぁ」
アメリのやつに捕まってしまったか。
シエラはアメリの好みにドンピシャなのだろうな……。
「セラフィム! シエラを助けて!」
セラフィムが出現してアメリの方へ向かう。
そのセラフィムの豪腕がアメリを掴みかかる……が。
「邪魔」
アメリは生まれつき、筋力量が異常に高い特性を持っている。
いくらセラフィムが豪腕だったとしても……アメリには敵わず、ぽいっと投げ捨てられてしまった。
「シエラぁ……いい子いい子してやらぁ!」
「に、逃げる!」
だがまわりこまれてしまった。
風車は力と速さが備わっているんだ。
絶対に逃げられない。
あっと言う間にシエラはアメリに抱え込まれてしまう。
「シエラはかわいいなぁ! あたしと同じ背丈なのに……なんで胸がこんなでけーんだ? 不公平だなぁ」
「にゃっ!? わ、ワキはやめて、ひゃはははは!」
「おぅヴィーノ。シエラのやつ、カナディアと同じくらい弱いな! こんな敏感な子久しぶりだぁ。ワキが弱いのかぁ」
「た、たしゅけてぇ!!」
ここにカナデがいたらざまぁみたいなことを言ったいたのかもしれない。
まぁそのままカナデも餌食になるんだろうけど……。
天敵って奴が存在しておいた方が天狗にならなくてすむ。
しばらくシエラがやらかしそうならアメリに頼んでお仕置きしてもらうとしよう。
それから2週間が過ぎた。