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85 シエラの力

「シエラって何か得意なことはあるか?」


「ごはんを食べること」


「そりゃ誰でもできるな」


 お姫様のような格好は特に一目につく。

 街の中を歩く度に通る人々が皆シエラの容姿に見惚れる。

 確かにシエラは美しい。来ている魔法衣もお姫様を超えた天使って感じだからな。

 俺がシエラをほっとけないのは昨日言ってたまじないの効果もあるんだろう。


「ヴィーノ、ヴィーノ!」

「どうした?」

「外って楽しい」

「外に出たことなかったのか」

「白の巫女は……自由が許されないから」


 白の国の象徴と言っていたっけ。そりゃ大事に育てられたんだろうなと思う。


「なぁシエラ。カナデともう少し仲良くできないか……」


「無理……。だけどまじないを消すには黒の巫女の力を借りないといけないのは分かっている」


「え……シエラ。君はまじないを消すことを考えているのか? 君は巫女じゃないのか?」


「シエラは自由が欲しい。まじないの力が無くなれば白の国は影響力を失う。……あの国は一度滅んだ方がいい」


 とんでもないこと言うな。

 シエラがここまで言うんだ。何かしらあるのかもしれない。

 出張とか白の国に行けば……分かるのか? ペルエストさんにも聞いて見るか。


「もしかしてこの王国に来たのは黒の巫女がいると知っていたからか」


「半年前に黒の力の高まりを王国方面で感じたから……。強い力を持つ、黒の民がいるんじゃないかって思った」


 半年前と言ったらS級昇格の頃か。もしかしてあの結晶獣を倒した時のことがそうなんだろうか。


「でもあの黒狐は黒魔術が使えないほど力が弱い。あれじゃ何もできない」


「黒の民は大きく数を減らして子孫も大変だったらしいからな」


「昔の白の民はそれも見越していたのかも。多分あのまじないは白魔術と黒魔術のどちらも併せ持つから、黒の民がいなくなれば永久に解くことはできない」


「そうなのか。解き方は知らないよな」


 シエラはすぐに首を横に振ったためどうしようもないことを知る。

 うーん、どうしたものか。


「それにしても白と黒が敵対しているのは分かってたけど……顔見ただけど腹が立つとは思ってもみなかった」


 シエラは俺やスティーナには従順な方だ。

 カナデだけに対して厳しい言葉をかける。カナデももちろんそうだ。

 遙か昔からの因縁が頭の中に染みついているのかもしれない。


「そういえばシエラっていくつなんだ」

「18歳」

「え、マジ!?」


 俺と1つしか変わらないの!?


「あの黒狐はいくつなの?」

「16歳だな。もうすぐ17になんだけど」

「年上を敬わせるべきだと思う」

「間違っても言うなよ。またぶち切れられるぞ」


「ヴィーノ、お腹空いた」


 家帰った朝飯はあるんだろうけど……あの剣幕のカナデを説得するのは難しい。

 どっかの喫茶店でメシを食うことにするか。




「きゃああああ!」


 突如の悲鳴。

 振り向くと女性が男に押し倒されていた。

 手には小さな子供。直感的に人さらいであることが分かる。


「早く、馬車をまわせ!」


「おろ」


「し、シエラ!?」

「へっ、貴族の嬢ちゃんか? こいつもさらっていくか」


 もう一人別の男が現れて、シエラを抱えて持ち上げた。

 通りの先から馬車……いや、馬型魔獣で引っ張った荷車がこちらに向かってやってくる。


 そういえば最近、馬車を使った人さらいが増えているって聞いたことがあった。


「はっ、S級冒険者の前で現れるとは……不幸なやつら」


 俺はポーションホルダーに手をつっこみ、ポーションを取り出す。

 取り出……。


「あっ、ない!?」


 朝飯の前に出て行ったからまだポーションホルダーを家に置いたままだ。

 ま、まずい!


「シエラッ! 逃げろ!」


 ダメだ、もうこの距離じゃ追いつかない。


「セラフィム」


 シエラの凛とした声が響いた。


「な、なんだこいつ!!」


 人さらいの男は現れたセラフィムに驚き、立ち尽くす。

 今なら救える!


「セラフィム、【スピリット・ソード】」


 セラフィムは背負う2対の剣の内の1つを抜き、シエラに向かって投げた。


「汚い手で触らないで」


 シエラは隙を突き、男の手から逃れる。

 そのままセラフィムから投げられた一振りの青色く輝く剣を掴み、男の胸を斬り裂いた。


「お、おい!」


 予想と違い、血は吹き出ない。

 なんなんだあの剣は……。普通の剣じゃないのか。

 男は気を失ったように倒れる。


「シエラ! 馬車が来る! 避けろ」

「必要ないよ」


 迫ってくる馬車、シエラは避けようともしない。

 ただ見えるのは……天から降りてきたセラフィムが馬車の突進を食い止めたのだ。


「セラフィム、【マテリアル・ブレード】」


 馬車の突進を完全に食い止めている。あの衝撃をもろともしないというのか。

 セラフィムはもう1つの剣をシエラに渡す。

 それは熱を帯びているように赤く輝く剣であった。

 シエラは開いている手で剣の持ち手を握り、大きく跳躍する。

 そのまま馬車を真っ二つに斬り裂いた。


「寝てて」


 もう一本の剣で馬車を運転していた男を斬り裂いてしまう。

 男は力なく倒れ込んでしまった。


 あの赤い剣は物理的な攻撃。青い剣は魔力的な攻撃なのかもしれない。


 馬車の中からは縛られた子供が何人か見られた。あんな感じで何人も誘拐してきたというのか。

 さっさと捕まえないと!


「ち、ちくしょう!」


 まだ1人残っていた。

 さきほどの母親から無理やり浚おうとした男が女の子を持ち上げて、ナイフをつきつけこちらを見ている。


「こっちは人質がいるんだ。どきやがれ!」


 くそっ、ポーションさえあれば人質なんて関係なく倒せるのに……。

 シエラも困った顔でこちらを見ている。

 石でも投げてみるか……。


 いや……不要だな。


「さっさと道を空けろ!」


 俺は全速力で女の子を人質に取る男に向かって走る。


「二の太刀【神速】」


 もはや言葉など不要。

 カナデの動きは目を瞑っていても分かる。


 距離を一瞬で詰めて、鞘ありの大太刀で男の背中を強打。

 思わず女の子を放してしまう所を俺が滑り込んで抱え込む。


 ふぅ……間に合った。


「工芸が盛んな街の時を思い出しますね」

「あの時は逆だったよな」


 孤児院の子供が人質に取られた時、俺がポーションで敵を倒し、カナデが救出したっけ。

 ……みんな無事でよかった。



 ◇◇◇



 王国警察に後処理は任せてカナデ、シエラと帰路につく。


「どうせ喫茶店か何かで朝をすまそうとしたんでしょ……」


「やっぱりバレるよね」


「まったく妻が朝食を用意してるというのに他の女に構うなんて」


「その通りだよ……ごめん」


「そんなあなたを好きになったのだからこの際いいです。で?」


「んっ……」


 じろりとカナデはシエラをにらみつけた。

 さすがにバツが悪そうに目を背ける


「そこの白狸の分も用意しました……今回だけですからね」


 カナデの譲歩だろう。

 俺はゆっくりとシエラの背中を叩いた。


 シエラはびくっと体を震わせて……躊躇したが口を開く。


「……ありがと」


「ふん、礼はいいです」


 お互いそっぽを向いて言葉を交わし合う。

 ちょっとだけ雰囲気がよくなったかな……。


 礼が言える子で良かった。


「どっちにしろ。働かざる者食うべからずです。私のごはんが食べたきゃ、ちゃんとお金を払いなさい!」


 金銭が絡むなら仕事として割り切ることができる。

 この際……仕方ないか。

 シエラに出来る仕事か。さっきの誘拐騒ぎの動きを見ると適正があるかもしれない。


「わかった」


 シエラはゆったりとゆったりと膝を地面につける。

 袖の長いフリルがゆらゆらと揺れ、胸元が大きく開いたこの白のドレスは色っぽく目に毒だ。


 シエラはうるうると瞳を光らせて、俺をじっと見つめる。

 な、何をするつもりだろうか。

 そうして情を誘いつつ、自分の両胸を持ち上げた。


「ヴィーノに体を売る……。シエラを買ってくれる?」


「ぶほっ!」


 カナデは吹いた。


「い、いくら!?」


「ヴィーノォォォォ!」


 やっべ、財布だしそうになったらめちゃくちゃ怒られた。


「白狸も何てこと言うんですか!! 体を売らなくていい! ただ自分で稼げるようになりなさい!」


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書籍版ポーション160km/hで投げるモノ! ~アイテム係の俺が万能回復薬を投擲することで最強の冒険者に成り上がる!?~』
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