10 連携しよう
翌日、冒険者ギルドへ向かった俺とカナディアは早速クエストを受注する。
目当てはB級クエスト。あとはC級クエストであるウルフの討伐も選び取る。
このあたりの草原で増えすぎてしまった魔獣の討伐。
動きの素早いウルフの討伐はC級に上がったばかりの冒険者には良いお手本となる。
他にもリハビリ明けだったり、俺達のようにパーティ組んだばかりで連携が取れていない時にも有効だ。
「A級冒険者同士で組まれるんですね! すごいです」
工芸が盛んな街、冒険者ギルドの受付嬢ミルヴァは感慨深く声をかける。
この子は今年からここの受付嬢になったっけ。幼い顔立ちだから15歳で成人したばかりだろう。
「ちょっとした成り行きだよ。それより交易の街のギルドから……何か上がってないか?」
「いえ、特に何もありませんよ。まーこんな地方ギルドにはなかなか情報なんて来ないですから」
基本的に有力なB級以上の冒険者は皆、交易の街のギルドで常駐していることが多い。
たくさんのクエストがあり、難易度が高く報酬が良いからだ。
なのでここのような小さいギルドはC級冒険者以下でまわしていることがほとんど。
俺とカナディアのようなA級が来るのはよっぽどである。
「カナディアさんもこの前は薬草採取ありがとうございました! みんな喜んでましたよ」
「そうですか」
宿を出たあたりからカナディアの態度が急にツンとなってしまった。
仕事モードなのかもしれない。
「……死神がこんなトコに何の用だよ」
「ひゃぁ、呪われるぅ……」
ここでもやはりカナディアの黒髪は良く目立つようだ。
「A級の癌と死神が組んでるとかお笑いだな」
「でもS級のタイラントドラゴンを倒したって噂だろ?」
「たまたま死体から剥ぎ取っただけだろ。誰も信じちゃいねーよ」
「ヴィーノ、準備が出来たら参りましょう」
「お、おお」
俺の悪口は何でもいいが、仲間を悪く言われるのはやはり良い気分がしないな。
◇◇◇
草原に出た俺達はギルドで聞いた出現ポイントへ向かう。
ウルフは群れで行動する魔物だ。ただ、そのまま探しても出てこないのでおびき寄せる必要がある。
「カナディア。罠をしかけるから確認ができたら戦闘準備に……」
「……」
「カナディア?」
「は、はい! 何ですか!?」
呆けていたらしい。慌てたようなそぶりを見せる。
「何か気になることでもあるのか? ……もしかしてさっきのギルドで」
「……私自身が何かを言われるのは慣れているので構いません。でもそれが原因でヴィーノにも悪評が立つのがやはり……」
ああ、そのことか。カナディアも同じだったんだ。
自分への悪口は無視できるが、仲間の悪口に心を痛める。
カナディアは優しい子だな。
俺はカナディアの肩に手で触れる。
「俺も【アイテムユーザー】ってことで相当にバカにされたからな。今更悪評なんて気にしちゃいねーよ」
「ですが……」
「カナディアは俺が誘ったんだ。俺が君の黒髪が好きで誘ったんだ堂々としておけ!」
「はい! ありがとうございます」
ようやく笑顔を見せてくれた。
いくら強いと言ってもまだ16歳の女の子だ。俺がフォローしてやんないといけないな。
「これからはヴィーノを立てるため常に三歩下がって歩かせて頂きます!」
「戦いでは前に出てね」
グオオオオオオ!
さっそく仕掛けた罠に釣られて、ウルフが3匹現れたな。
カナディアは背負う大太刀を手に持ち、鞘を落とす。
本当に背の丈のほどあるバカ長い太刀だ。それをあんなに華麗に操るんだからすごいよな。
「ヴィーノ、私の動きを見ていてください!」
「ああ、頼りにしているぜ!」
そうだ。俺はポーション投擲の練習をしておかないと……。
今までは支援オンリーだったけど、今後は攻撃もしていかなければならない。
射程とか速度とか……ポーション以外でも効果があるのか、いろいろ試してみないといけないな。
まずは……向かってくる3匹のウルフに向けて俺は腰に巻いたホルダーからポーションを取り出し、ぶん投げた。
ズコッ! ゴスッ! ドゴッ!
ウルフの急所にぶつけると3匹ともパタリと倒れ、動かなくなる。
今までは走りながら動く仲間の口の中にポーションをぶち込んでいたんだ。
走っているだけの魔獣にただ当てるだけならまったく難しくない。
俺のポーション投擲は大きな武器となるだろう。
銃を超える射程、弓を超える速度。ポーションは偉大だ。
「次の3体だ!」
「つ、次こそ!」
また現れた3体にカナディアは向かっていく。
もう一回投げてみよう。
3本のポーションを掴んで、ウルフに向かってぶん投げた
ズコッ! ゴスッ! ドゴッ!
さきほどと同じくウルフは3匹とも倒れ、動かなくなる。
一発で倒せるなんて気持ちいい!
攻撃ができるって分かるとたまんねーな。
ポーション3本までなら威力を低下させずにほぼ同時にぶん投げられる。
回復よりも攻撃の方が楽だ。
「まだ次だ!」
「今度は!」
ズコッ! ゴスッ! ドゴッ!
戦闘が終わり、一安心。
ふと……見上げるとカナディアが泣いていた。
大太刀を地面に突き刺し目をうるうるとさせる。
「私……役立たずです、ぐすん」
「わーわー! もうちょっと強い魔獣と戦おうな、な! 絶対次はカナディアが必要だから」
どうやら精神面の支援も必要のようだ。






