-6- Take4
「あれ?」
なんで俺また天国にいるんだ?
そう見紛うほどの真っ白な部屋。
目の前にフォルトゥナが倒れている。
「おい、フォルトゥナ?」
体をゆすっても反応が無い。
ぐったりとした彼女は目を覚まさない。
「おい、どうしたんだよ、姉さんって言ってないから拗ねてるのか?」
何度揺すろうと、何度問いかけても彼女は目を開けない。
「フォルトゥナ・・・姉さん?」
彼女の肩を揺する、虚ろな瞳、口から零れる血。
紛う事なき“死”
「ああ、あああ・・・誰がこんな」
俺は彼女の死体を抱きしめる。
わけもわからず泣き叫ぶ。
初めて直面する他人の死。
いや、彼女は他人などではない、この世界で始めて出来た、友人に他ならない。
『実験は失敗だな、さて。彼の中身を見てみようか』
誰かの声が聞こえ、徐々に意識が遠くなる。
部屋にガスでも充満しているのだろうか。
虚ろな視界の中、影がこちらにやって来て腹を裂く。
「ううん、これと言った特徴はないな」
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『おお、なんと悲しきことか、貴方は変態にお腹をくちゃくちゃにされ
帝歴392年7月25日、その生涯を終えてしまいました。』
天国受付窓口第3041号の見慣れた姿。
「?。今回はやけにテンション低めですね。どうしました?」
「これは、夢じゃないんだな」
「ええ、正真正銘天国受付窓口です。こんなに何回も来るのは貴方くらいな
ものですけど」
今までの経緯とは大きく異なり、自分自身まだ頭の整理がついていない。
なぜ突然あんな惨事が。
なぜ俺が。
わからないことだらけだ。
「なぁ、天国受付窓口第3041号。お前は見てたんじゃないのか」
「その質問には回答できません。というか、貴方だけを見ているほど
私は暇ではありません。」
彼女の業務がどのようなものかは知らないが、口ぶりから察するに
知っていたとして原因を教えてくれはしないのだろう。
“僕”は頭を抱える。
「なんであの時オプションバーでも開いて犯人の名前を見る、とか
しなかったんだ・・・」
自戒の念と、フォルトゥナの死に顔が脳裏に焼き付いて離れない。
前世でも碌にできなかった友人を目の前で亡くしたショックは
僕の中で大きな傷を残した。
『もう天国逝っときます?』
天国受付窓口第3041号のシステマチックな声。
「いや、続けるよ。僕があの世界に介入したことによって歪みが生まれた
のなら、せめて責任を取らないと」
「また始めると、最初からなので責任もクソもなくなるんですけどね。
貴方が元凶であり、貴方が介在することによってどうしようもなく
無用の争いは生まれる。」
「だったら僕の自己満足だ、フォルトゥナに、天国で
合わせる顔がない」
あのフォルトゥナとの時間は僕の中では確かに本物だったのだ。
ふと気が付く。
「ふふ、意味のない責任感ですね。」
「そうでもないさ。お前は責任がなくなる、といったな。他の発言も併せて考えれば、
一つの存在に対して魂は一つだって事が
裏付けされている」
「おっと」
天国受付窓口第3041号が「しまった」と言い口元を押さえる。
この反応を見て自身の仮定の信憑性が増す。
前回のコイツは通常一つの魂が複数回異世界転生ができないことを俺に告げた。
なおかつ“トーマス・ラインベルク”がやり直すたびに世界は生まれる瞬間
まで巻き戻る。
そして、僕は“トーマス・ラインベルク”以外に転生したことはない。
これらは事前に指定したわけではなく自然に“こう”なっていた。
この事実から導き出される仮定。
①異世界転生ができる枠は一つの魂にあたって一つの存在しか
あてがわれていなく、トーマス・ラインベルクが死んだ時点で
別の人物へと転生しなおすことはない。
②この世界は俺が死んだ時点の世界が残り続け次の転生は平行世界
ではなく、前回の世界をリッセトしたものである。
ここから導き出される結論は、
トーマス・ラインベルクが介在していない、あの世界は存在していない。
つまり、俺がやり直さないと、フォルトゥナは“あのまま”だ。
天国受付窓口第3041号はのらりくらりと明言を避けるが、そうである
可能性がある限り、辞めることは選択肢に無い。
恐らく、天国受付窓口第3041号が俺の事をたまたま気に入ったため世界を
毎度無理やりリセットさせているのだろう。
それがどれほどの罪なのか、それとも神々にとっては気まぐれで
出来てしまうものなのか、想像だにできない。
「だから、“俺”がここでやめたらフォルトゥナは苦しんだままだ」
「・・・私はその言葉に肯定も否定もしません。
ふぅ、貴方はわがままですね、そういった意味では貴方は魔王向きです」
「そうかもな、俺が最初の転生をしなければ少なくともこんな事は起こらなかった
のかもしれない。やっぱり俺が取るべき責任だ」
黄ばんだぼろぼろの紙が大事そうに取ってある。
「もう一回能力表印刷してくれよ。考え直したい」