-5- 勝負、決着、影
「サンダーボルト~」
圧勝だった。
欠伸をしながら魔術を詠唱する。
三人の男は必死にかわそうとしながら詠唱をしようと試みる。
模擬戦用結界の張られた空間で今まさに例の三人と向かい合っている。
彼らの戦い方を見てわかった事。
この世界の戦闘において、魔術の詠唱は必須であり、火球一つ出すのに
何節かの詠唱を行っている。
俺のように技名とイメージ図が頭にあればそれを具現化するようなもの
ではないようだ。
詠唱の間を与えず、雷撃を叩き込むだけで三人相手とはいえ勝負は圧倒的に優勢。
模擬戦専用結界によって、ある程度であれば、強めの出力を出そうとも、ちょっと
した衝撃に変換される。
「トーマス・ラインベルク 170点!」
無論彼らは0点だ。
「まだ続けるの?」
「当たり前だ!馬鹿にしやがって!」
彼らの詠唱が始まる、詠唱段階で当然魔力は消費している。
息を切らし、まさに息絶え絶えといった状態。
最早気力で戦っているのだろう。
「サンダーストーム」
天から雷が降り注ぎ、三人にダメージを与える。
「トーマス・ラインベルク 185点!」
技あり5点クリティカル10点、らしい。
三人に技ありで15点ということか。
「はぁっ、はぁっ。まだだ・・・!」
「しつこいなぁ」
「いける・・・!火球!」
取り巻きのチビが火球を放つ。
衝撃になれたのか、耐えたのか、詠唱を完了させていた。
「はいはい、サンダーボルト」
腕から放たれる雷撃が火球を消し去る・・・と思いきや何だこれは。
「二連撃!!」
消し去った別方向から火球が迫る。
「何!?」
ノッポ、アイツがやったのか、あいつらどれだけこの俺に一矢報いたかったんだ!
アイツまでも雷撃の衝撃に耐えつつ詠唱していたと言うのか。
「時間停止!!」
彼らには理解不能な動きとなるだろう。
時間停止、やはり強い。強すぎる。
火球の当たらないベクトルに移動し、
「サンダーストーム!!」
天からの雷撃が彼らを再度穿つ。
三人は倒れながらも詠唱を続けようとする。
周りから歓声があがる、いつのまにか結構なギャラリーが出来ているではないか。
「何故諦めない」
「気にいらねえんだよ・・・テメエみたいなスカしたガキがイキがってんのは!!」
がむしゃらの一撃が頬をかすめる。
それは彼の杖だった。
「そこまで!」
審判が200点で見切りをつけ試合を終了させる。
「クソっ!!」
そばかすは地面を叩き悔しがる。
「ふんっ」
彼らに侮蔑の眼差しを送り、俺は外に出る。
ああ、なんて清々しいのだろうか。
「おめでとう」
体育館を出ると、ジェイソンが立っていた。
「褒められることでもないけど」
「はは、そりゃそうだ。ありゃイジメだな。君がされてる事よりよっぽど酷い。
ところで、あの試合の途中キミが瞬間移動したようにみえたんだけど」
「気のせいじゃないか?」
「そうかな?」
時間停止は俺にとって今後生命線になっていく能力だろう、あまり軽々に話すべき
ではないと思いごまかす。
「僕の研究が空間を操る魔術でね、ははは。悪い癖が出てしまったかな」
「ええ、稲光で目がおかしくなってたんじゃないかな」
わざとらしく肩を回し俺はその場を離れた。
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「来たね~?」
扉を開けるとフォルトゥナが珍妙な格好をしている。
「なんだそれ」
「ん?ああこれ?エルフ種の装束なんだって」
灰のマントを脱ぐと白と緑を基調としたやたら穴だらけの服。
「穴だらけじゃないか、破れてるのか?」
「スリットだって!こういうものなんだよ、動きやすいように」
動くと色々なものが見えそうなのでそっと本に目を落とす。
「ねえ」
本をフォルトゥナが取り上げる。
「感想は?」
ニヤニヤとこちらを眺める顔が鬱陶しい。
「風邪引きそうだな」
「もー!素直じゃないんだから!」
ほっぺたをずりずりと擦り付けられる。
「ヤメロ!色々当たってるから!」
「嬉しいくせに~!」
コンコン、と部屋にノックの音。
「はぁい」と彼女が言うと、ドアを開け見覚えのある男。
「フォルトゥナ、ってどわぁ!?お前なんて格好してるんだ」
「ふふん、かわいいでしょー?」
「はぁ・・・」
フォルトゥナの周りからの扱いがなんだか見えた気がしてほっとした。
ソファーでクッションに埋もれている俺は見えていないのだろうか。
はたまた彼女に視線を奪われているからだろうか、兎も角俺を認識していない
ので、本を再び読み始める。
「失踪事件、また起こってるらしい」
「また?こわー。犯人まだ捕まってないの?」
「ああ、用心しろよ、今も鍵かけてなかったろ」
「んふふ、心配してくれてるの?」
「馬鹿いえ、お前みたいなのはお断りだ」
「ひっどぉ~い」
扉を閉めるとフォルトゥナが机に座る。
「彼氏?」
「あっはっは!ロックが?アハハハハハ!違う違う。なに、彼氏がいると
問題なのカナ~??」
「質問を間違えたよ・・・失踪事件って?」
からかおうとしたが分が悪いと判断し、話題を切り替える。
「あ、話そらした」
バレバレであった。
「んーとね、学園だけでもないんだけど、この王都って失踪事件って結構あるんだよね。
それが学園の生徒ばかり立て続けに起こってた時期があって、落ち着いたかなーって
思ってたんだけど・・・また何人かいなくなっちゃったみたい」
なるほど、これはズバリ俺が解決してやるべきなんじゃないのか?
なんせ俺は異世界転生組・・・。
「ふ~ん」
俺は臆病者だった!!
この能力があれば負けないとは思うが・・・。
いかんせん実戦などしたことがある筈も無く。
めんどくさがり固有スキル“こんどでいっか”が発動する。
「さ、帰るか」
「何言ってるの、どうせここで寝るんでしょ」
「うぐっ・・・姉さん、アンタが隣で寝てたせいで・・・!」
「せいで~??」
まさか一睡も出来なかったなどと恥ずかしくて言えるはずも無い。
「・・・・・・・・・今晩も借りる」
「初めから素直になりなさいな。はいはい、じゃあ研究手伝ってね!」