-4- 迫る影
中等部寮に戻ると、俺のベッドはズタズタにナイフで引き裂かれ
羽毛は舞い、「小等部へ帰れ!!」と赤文字で全ての教科書に書かれていた。
「またか」
中等部に上がってから一ヶ月、特に何の事件も起こってはいなかったが
徐々に俺に対して陰湿なイジメが増えていった。
教科書を隠される、所持品を隠される、このように落書きをされる等々。
直接的な暴力を振るわれない分犯人がわからず、余計たちが悪い。
「こんなこと、流石に相談できないよなぁ」
飛び級ということもあり、急きょあてがわれた部屋で小等部同様一人部屋
である分は気楽であるが
自室にイタズラをされたのは初めてであり寝ているところに何かされては
たまったものではない。
現代日本と違いここはファンタジー世界だ。
いじめを保護する風潮も希薄。
「異質は排除」という考え方の方がどちらかといえば正しいのだろう。
俺は窓から外を眺める、部屋からは研究等が見え、丁度フォルトゥナの
研究室の灯りが消えたのを確認する。
当然といえば当然だが、俺が放課後フォルトゥナの研究室を手伝っている
事を知る人物はほぼいないだろう。
安眠できる環境でもなし、研究室を借りよう。
自室を出ると、クラスメイト達がラウンジで談笑している。
「おいおい、どうしたんだ?ラインベルク。こんな遅い時間に」
そばかす、短髪、なんだか態度がデカい。
なんだこの不快を極めたような奴は。
「まだ外出はできる時間だろう」
「俺はお前みたいなガキ・・・おっと、子供がこんな時間に外に出ると
こわ~いオジサンに襲われちまうぞって忠告してやってるんだよ」
三人の男が笑う。
おっと、直接突っかかってくれる奴がいるじゃないかと少し嬉しくなる。
「ご忠告ありがとう、ところでお前誰だ?」
「・・・へえ。面白いこと言うな」
そばかす(仮称)が立ち上がりこちらに歩く。
何故自己紹介もしていない自分の名前を俺がしていると思うのだ。
「飛び級だからって調子乗ってると痛い目みるぜ?」
「いや、本当にわからん。誰だお前」
「はは、ハハハハハ!これだからガキは」
そばかすの取り巻きも集まり、三人に取り囲まれる。
挑発しているつもりは無いのだが、不快だし、まあいいか、と思えた。
「ちょっと魔法がスゴイからって、授業以外で使用禁止なのは知ってるよ・・・ナァ!」
そばかすの拳が俺の顔を狙う。
「時間停止」
固まった彼らの間抜け面を止まった時の世界から眺めながら、
おっと時間を無駄にしてはいけない
残った四秒で廊下を走り階段をジャンプ。
拳がからぶって取り巻きにでも当たったのだろうか、叫び声が聞こえる。
「ハハ、ざまあみろ」
俺は階段を跳び、外へ出た。
「・・・ん?」
視線を感じる。
まさかそばかす達がもう追ってきたか?
周りを見渡すも誰もいない。
「気にしすぎか」
念のため、そろりそろりと研究室等まで移動をし、警備員をAIWを駆使し
見つからないように移動。
なんとか研究室までたどり着く。
ドアを開き、周りに誰もいないことを確認し、鍵を開け、ソファに横たわる。
「ふあ~あ、やっぱり子供の体だからか・・・疲れるのが早いな」
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「~♪」
薄目を開ける、まだ外は真っ暗だ、ランタンのぼうっと燃える薄明かりが目にしみる。
「あ、ごめん。おきちゃった?」
真上からフォルトゥナの声がする。
なんと、俺はいま膝枕をされている!
「うわっ!」
「きゃっ」
飛び起きると聞いたことの無い可愛らしい声を上げ
フォルトゥナは驚く。
「なんで?!」
「だって、寝に来たらトーマスいるんだもん」
「え・・・?フォルトゥナって、いつもここで寝てるのか」
「お・ね・い・さ・ん!」
「はぁ・・・フォルトゥナ姉さんはここで寝てるのか・・・?」
「そりゃそうだよ」
「そりゃそうって、自分の家とか寮とかは」
「あるよ、でもちょっと帰りにくくってね」
彼女はそれ以上は語ろうとしなかった。
「寝場所取っちゃったか・・・悪かったよ、帰る」
「いいよ、キミもワケありなんでしょ。」
服を引っ張られ、ソファーに座らされる。
「お姉さんとねよ!」
「これソファーじゃん。俺がいいよって答えたとしても狭すぎ・・・」
「これはねえ~」
ソファーの背もたれを倒すと
「ソファーベッドなのだよ!」
「・・・そう、でも俺男だから!」
「六歳児がなにいってんのさ」
「心は十五歳だよ!!」
結局問答を重ねた結果俺はフォルトゥナの力技により抱き枕と
化してしまった。
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「一睡もできなかった・・・」
目の下にクマを作る小学生がいただろうか。
今まさに俺がその希少生物である。
結局朝日が差し込みにフォルトゥナはワイシャツ一枚である事が発覚し
危うく憤死するところだった。
「全く授業に集中できなかったし・・・」
授業の合間の休憩時間、やはり視線を感じる。
昨晩の視線もこの“いじめ”の嫌な視線なのだろうか。
「おい」
目線をあげるとそばかすが立っている。
「誰キミ?」
「お前!」
「やめろ、教室だぞ」
取り巻きに静止され、そばかすは思いとどまる。
「放課後、校庭の魔術用具倉庫に来い」
ワァ~オ古典的、と。つい噴出しそうになってしまった。
「いやだね、俺がお前達に時間を割いてやる必要がどこにあるんだ」
「何だと!?」
「お前達さぁ、俺を負かしたいなら実力で倒して見せろよ。此処は
魔術の学校なんだろ?例えばテス・・・」
テストとかさ、と俺は言いたかった。
「そこまで言うなら俺と魔術模擬戦で放課後勝負してやる!!」
おおお!と教室が沸く。
どうしよう、俺から言った手前断りづらい。
「あ・・・ああ、この俺は逃げも隠れもしない、なんなら三人束になってかかってこい!
あーっはっはっは!!」
俺は調子に乗りやすかった。
心中では「どーーーーーーーーしよーーーーー・・・・・」と絶望している。