-3- 始まり
「フォルトゥナ・・・姉さん?」
彼女の肩を揺する、虚ろな瞳、口から零れる血。
「ああ、あああ・・・誰がこんな」
俺は彼女の死体を抱きしめる。
「ダメだ、嫌だ!なんで!」
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時は遡る。
俺は中等部に通い始め二ヶ月が経過した。
授業の内容も丁度良く、歴史と魔術だけが足を引っ張ったが
概ね順調であった。
中等部では周りとのコミュニケーションも以前よりはマシになり
クラスメイトに徐々に打ち解けつつあったのだが、やはり飛び級
は異質。友人と呼べる人間は誰一人できなかった。
放課後、いつも通り研究室の扉を開く。
「おっ、来た来た」
フォルトゥナは嬉しそうに手に乗せた何かを見せてくる。
どう見てもナニカの尻尾だ。
「フレイムリザードの尻尾だって!超エグいよね・・・。丁度商人が
来ててさ、つい買っちゃった~」
「姉さん、先週金なくてアクセ買えない~~!とか言ってたじゃない」
「オシャレより研究でしょ!流石に~~~?」
ほっぺたをぷにぷにと押される。
「ヤメロ」
「え~ケチ~減るもんでもなし~~~」
ここの研究室は彼女の氷結魔術の研究所であった。
彼女の考案する新魔術や、効率の良い運用法など様々な研究が行われている。
ここに通うにつれ、俺にも氷結魔術が使えるように?!と期待していたが
現状手からドリンクバーの製氷機のように氷をバラバラと出す事しか
出来ず、案の定フォルトゥナは爆笑していた。
「ところで、中等部は順調?」
「ああ、もちろん」
「ふぅん、友達できた?」
ギクリ、と心が痛む。
前述の通り勿論一人も友達は居ない。
「フフフ、王とは孤独なものだよ」
「何時から王になったのさ~」
相変わらずほっぺたをもちもちといじられる。
彼女にとっては弟くらいの感覚なのだろうが
俺の精神は成熟していることをわかって欲しい、いや伝えたらどうなるんだ?
異世界転生モノの物語は転生したことを隠しているパターンが多いが
自分に隠す理由も必要はないんじゃないだろうか。
「フォルトゥナ、きいてくれ」
「お・ね・え・さ・ん・でしょ~!」
「きいてくれ」
真剣な眼差しを向けるとフォルトゥナはようやくほっぺたから手を離す。
「俺は、異世界から来たんだ」
「いせ、かい?」
そもそも異世界、平行世界など概念として考えたこともないのだろうか。
明らかにピンと来ていない様子だ。
「うーん、なんと言えばいいのか。そうだ!前世の記憶があるんだ」
「・・・」
流石に引かれてしまっただろうか。
フォルトゥナはおかしな奴だとは言え、この年で教授になる程の知性の持ち主だ。
「すっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ」
「す?」
「ごおおおおおおおおおおおおおおおい!!!!だからこんなに頭がいいの?!」
はとが豆鉄砲をくらったような顔、それってどんな顔なんだよと昔から思っていたが
今の俺の顔がまさしくソレだろう。
フォルトゥナが俺の体をベタベタと触るわまさぐるわ
「ヤメテ!恥ずかしい!」
「前はどんなだったの?!帝暦何年ごろなの?!」
「いや、この世界じゃないんだ、平行世界・・・なのか?とにかく此処とは全く異なる。
そんな話がしたいんじゃない!つまり、俺が言いたいのは――」
「のは?」
「俺は精神的にはお前より年上なんだ!だからあんまりベタベタしないでくれ!
恥ずかしい!」
顔を真っ赤にして叫ぶ。乙女か俺は。
「きゃわいい~~~~~~!!」
ダメだった。
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フォルトゥナには天国のことは此処の宗教観を崩しかねないと思い、前世のことを
やんわりと伝えると、彼女は意外なほどにスンナリと受け入れた。
「フォルトゥナお姉さんは言い続けてよね」
「ハイハイ・・・」
肩をすくめると、そういえば彼女のステータスチェックをしていなかったなと
左手の人差し指で空中で三度叩く。これがオプションバーを呼び出す挙動だ。
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トーマス・ラインベルク AGE:6
Lv:2
HP:15/15
MP:9999/9999
STR:D
DEX;D ≫
INT:D
POW:D
特殊:最強抗体・バファ・リン
最強魔法(雷)
時間停止
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あ、ちょっと体力が増えてる。
何時の間にレベル上がったのだろうか。
「何してるの?」
しまった、俺の画面が見えてしまう、と思ったが彼女は何も見えていない
様子で不思議そうにこちらを見つめている。
「いや、ハエが飛んでてね」
「≫」を押す。
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フォルトゥナ・ジーニアス AGE:14
Lv:57
HP:300/300
MP:750/750
STR:C
《DEX;D
INT:A+
POW:B
特殊:混血の呪い
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なんだか明らかにヤバそうな特殊項目があるぞ・・・。
それにしてもLv57とは、かなり高いのではないだろうか。
母と比べても仕方ないが、そのうち冒険者なども見てみたいものだ。
「手伝ってよぉ」
フォルトゥナが顔を覗き込む。
「どあ!?」
驚いて椅子からひっくり返ってしまった。
彼女はニシシと笑って先ほどの尻尾を楽しそうに持っている。
やれやれ、今日は何の実験なのだか。