Take1 最強魔法!
ああ、僕は飛んでいる。
清々しい空の青と、固そうなコンクリの灰。
鳴りやまない車種によって異なるクラクションの音が交響曲のようだ。
ファー、ファーーー。僕は指を動かそうとするがうまく動かない。
なり響く音の中心に飛ぶ僕、まるで指揮者のようだ。
「あ」
べしゃり、と嫌な音と共に僕の人生は幕を閉じた。
――――――――――――――――――――――――――――
目を覚ますと真っ白な空間に僕は立っていた。
『おお、なんと悲しきことか、貴方はトラックに跳ね飛ばされ
平成35年1月1日、その生涯を終えてしまいました。』
台詞とは裏腹にキーボードを叩く眼鏡をかけた事務員然とした女が
語る。
「あの…ここはいったい」
「“天国”受付窓口第3041号です」
見渡しても見渡しても真っ白で僕の頭は遂におかしくなってしまったか。
はたまた、これはまだ醒めぬ夢ではないのだろうかと思ったが、
僕はトラックに跳ね飛ばされた記憶はある、それになんだか身体も痛い。
「・・・僕、無宗教なんだけど・・・こんな状態からでも入れる宗教ってありますか?」
「勿論です。どんな神でも貴方が信じた瞬間から貴方を赦すでしょうとも」
女はパソコンに向かいながら、しかし声色はドラマチックに語る。
そういうマニュアルなのか?
そっとパソコンをのぞき込むとピンボールで遊んでいた。
デスクトップを良く見ると、たくさんの“異能”が乗ったエクセルシートが。
「まさか!僕異世界転生できちゃうんじゃないの?!」
「いやぁ…その、貴方がぁ?私にたしかに決裁権はありますけど…」
「見せて!」
女がピンボールを中断するのが心底嫌そうで、ウンザリした顔をしながら
用紙を印刷する。
「したい!異世界転生!」
「はぁ、普通に天国に案内してあげようと思ったのに」
ブツブツとやかましい女を置いて印刷された用紙を見る。
『最強魔法』
『時間停止』
『魔術“火”ステータスSSS』
等々々々々々々・・・
「おお…おお!まさに異世界転生!僕の行ける世界の攻略本とかないんですか?!」
「ないにきまってるでしょ」
既に面倒臭そうに女は頬杖を突く。
そんな彼女はよそに僕は紙を眺める。
これが噂の・・・!
「いやしかし、もうすでに何人も異世界転生してるんじゃ?」
「最近流行ですからね、みーんな異世界転生したい異世界転生したいって。
転生させる私の身にもなれってもんですよ。ちなみに貴方、今年に入って3002人目です」
「うっ…僕そいつらが居ない異世界行けるの?」
「まぁ、宇宙は無限に広がってますし?そりゃあ…」
「よしっ!」
ガッツポーズをし、彼女を他所に三日三晩シミュレーションと能力の把握に
努めた。
勿論三日三晩、といっても已然真っ白な空間なので比喩表現でしかないのだが。
体感時間としては三日三晩だ。
ちなみに僕が寝てる間も女はピンボールを遊んでいたようだった。
スコアがカンストしていたが面白いのだろうか。
しかし、完璧である。
「僕はこれに決める!『最強魔法』だ!!」
バン!と机に赤ハナマルをつけた用紙を叩きつける。
「やーっと逝く気になったのですね」
女は事務的にパソコンのチェックボックスを埋めてゆく。
ターンッ!とエンターキーを押し、メールらしきなにかを送付。
「え…インターネット繋がってるのこれ」
「最近は天国もハイテク化が進んでますから」
足元が青い光に包まれる。
「おお、遂にか。フフ、大勇者・・・目指しちゃうか?
いや、あえて魔王って手もあるな、ふふふ。
やっぱ格好良く一人称は“俺”でいこうか、それとも“我”?ふへへへ」
「はやく逝け」
女に背を蹴られ意識が落ちていく。
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目が覚めると“俺”は産声を上げた。
おお、赤ん坊だと言うのに意識がある、これが異世界チート転生ってやつか。
「おぎゃ」
おっと、当然喋れるはずもない。
今しがた気が付いたが、俺は赤ん坊自身の意識とハッキリと
リンクしていないようだ。
幼少期だからだろうか、スキップ機能とかないのか?
背後霊のように見守っているような感じだ。
それにしても俺、美形だ。
自分で言うのもなんだが超美形。ふふん、こりゃハーレムヒロインつくれちゃうな。
母の乳をのみ、父のちt・・・力強さを学び!俺は!
俺はすくすくと・・・すくすくと!!
「えほ、けほ」
育っていない!!
「トーマス!トーマス!ああ、貴方」
抱き合う両親。
いや、まてまて俺異世界転生したばっかりなんだけど。
一年たってないよ?
まだよちよちできて褒められた程度なんだけど!!
イヤイヤ期すら突入して無いんですけど!!
ヤバイ!めっちゃ気分悪い!
なんだこれ!
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・俺は死んだ。
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『おお、なんと悲しきことか、貴方は流行り病におかされ
帝歴787年3月4日、その生涯を終えてしまいました。』
天国受付窓口第3041号が語る。
『あらら、脳炎肺炎喘息各種アレルギーなんて虚弱体質
なのでしょう、はい。じゃあ天国に』
「・・・がう」
「はい?」
「思ってたんと違う~~~~~~~~!!!」