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貴族の力

 進み始めてから数分で森の終わりは見えてきた。馬車は力を籠めると思ったより楽に動かすことができた。シュペッツルさんの言った通り出口のそばだったおかげか特に何かあったということもなく森を抜けると、そこには道を挟んで草がしげる、どこか懐かしいような景色を見ることができた。


「これは……いいな」


 元居た世界では早々見られないであろう景色。外国ならともかく日本じゃ見に行ったりもしないからな。道の先には大きな町が見える。あれがシュペッツルさん達が住んでいる街なのだろう。


「シュペッツルさん、町が見えました」


 一応、報告しておく。あとどれくらいなのかも聞けるだろう。それに俺はこの世界のことを何も知らない。ここらで話をしていろいろと教えてもらおう。


「ほう、もう森を抜けたのか。馬車並みとまではいかないがとんでもない怪力だな。ありがとう、ジローくん。ここから町までは馬車だと二時間くらいだ。よろしく頼むよ」


 本当はもっと早く行けるんだけどなぁ。捕まえている奴らのこともあるしこれ以上スピードは出したくない。それに馬車で二時間ってことは、俺が頑張れば三時間とちょっとくらいで着けるかな。森の入り口から少し離れたところで馬車を止めて後ろを確認する。


 よしっ、ちゃんと気絶してるし引きずったことによってできた怪我もそう無いみたいだ。さすがに目を覚ましていたら危なすぎる。紐もしっかりしているな。確認をするとおれはまた馬車を引きに戻った。


「あの、シュペッツルさんは貴族なんですよね? どれくらい偉いんですか?」


 気になっていたことを聞いてみる。貴族には位があるはずだ、果たしてこの人はどのあたりにいるのだろうか? 答えはすぐに返ってきた。


「ん、私たちは公爵家だよ。なので褒美も期待してもらって構わんぞ、なんせ私たちの命の恩人なのだから、なあ、ナンシーよ」


「はい、お父様。私からもいくばくかの謝礼を払わせていただきますね、ジローくん」


 美少女からのお礼。どんなものかとワクワクもするが一度に二つももらうのは悪い気がするので遠慮しておくことにする。


「大変ありがたいのですが……ナンシー様までにお礼をもらうのは貰いすぎではないかと……」


 こう言ったのだが結局、ナンシーさんは譲らず、褒美も一緒に貰うことになった。


「貴族といえば……、ジローくん、君は家名を持っていたね。君の父親は一代限りの騎士か何かなのかな? ははっ詮索はやめておこうか」


 へー、この世界では騎士にでもならないと名字はないわけか……。それだと名字を名乗るのはやめた方が良かったなぁ。まぁ、詮索しないって言ってくれてるんだし適当に流しておくか。


「そんなところです。そういえばナンシーさんはおいくつなんですか? いや、だいたいは予想ついているんですが」


「ふふっ、いくつに見えますか? 当たっていたら謝礼に色をつけましょうか」


 いくつに見えるか、か。予想では16,7、18より高いということはないだろう。


「16、ですかね。どうでしょう」


「正解は17です。惜しかったですね。でも、ある程度歳がわかるのなら聞かないのが紳士だとは思いません?」


 そういって笑いながら窘めてくるナンシーさんの顔が見えないのはひどく辛い。ああ、たぶん俺が今まで見た中で一番かわいい笑顔をうかべてるんだろうなぁ。


「そういう君はいくつなんだい? まさか答えないなんてことはないよなぁ? こちらもある程度予想できているがね」


 とシュペッツルさんが聞いてきたので答える。


「俺は18歳ですよ。ナンシー様より一つ上ですね」


 こんな何気ないやり取りをしながら馬車を進めていくとあっという間に時間は立ってしまい、目の前には大きな壁と人だかりが見えてきた。


「シュペッツルさん、着きました」


 それにしてもすごい壁だな、石壁でこんなにでかいのを見るのは初めてだ。それに何人か入り口で並んでるし、これはまだちょっとかかるかな。と思っていた時


「そうか、着いたか。ジローくん、進みなさい。彼らのことは気にする必要はない。私の名を出せば横によけるだろう」


 言われるままに進むと、人間が馬車を引くというのが珍しいことなので、前に並んでいた人たちがバカにしたような目を向けてくるが、カトリー家の名前を出し、馬車の紋章を確認させると蜘蛛の子を散らすようによけていく。


 すごいな、これが貴族の力か。と感心しているとあっという間に一番前までやってきた。そこに立っていた衛兵も最初は怪しんだが、名前と家紋を確認すると、態度が一変し、愛想もよくなった。


「これはとんだ失礼をしてしまい、申し訳ありませんでした。人間が馬車を引くというのがあまりにも怪しかったため馬車の方まで目が及んでいませんでした」


 謝罪をしている衛兵にシュペッツルさんは告げる


「もういい、それより馬を連れてこい。いつまでも彼に引かせるわけにはいかんのでな」


 そして後ろに目を向け


「それと奴らは私たちを襲ってきた奴らだ。牢屋に入れておけ、あとから尋問を始めさせる」


 衛兵は肯くと馬車から賊を結んでいた紐をほどき、連れて行った。彼らは自分たちの行いの報いを受けるのだろう。どんなことをされるのかは想像したくない。


「それでこちらの方はどのような人物なのでしょう?」


 やっぱり来たか。馬車を引いてるような怪しい男だからな、止めなかったら逆におかしいくらいだ。ここはシュペッツルさんに頼っておくかな。


「彼のことは私が保証しよう。もういいかね、馬も来たことだしそろそろ中に入りたいのだがね」


 衛兵は逆らうこともなく通してくれた。シュペッツルさんが許可してくれたので俺も馬車に乗る。馬車の中のシュペッツルさんとナンシー様は笑顔で迎えてくれた。


「ようこそ、ジローくん。我らが王都サンケルティンへ」


 新たな世界の初めての町が目の前に広がった。









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