偉い人、救います
気が付くと森の中で横たわっていた。立ち上がって周りを見渡すと見たことのない木や花が咲いている。
熱い気持ちが込み上げてきた。
「俺、本当に生き返ったんだ、しかも死んだときの格好で。ありがとう女神様。俺、一生懸命生きていきます!」
女神様への感謝を述べてお祈りをすると、くしゃ、という紙のこすれる音が聞こえた。学生服のぽっけに入れた覚えのない紙が入っている。
「えーと、なになに。サービスは潜伏の力と変装の力、あなたの名前を参考にあげてみたわ。か」
そう俺の父は時代劇が好きすぎて、俺の名前を今時いないような次郎吉なんて名付けたんだ。元ネタは鼠小僧。中学の時は一時期変なあだ名が流行って困ったものだった。
「さて、それじゃ女神さまからもらった力を試してみるかな。まずは超人」
頼んだのは丈夫な体だったがこの超人の体はすごいな。少し力を入れただけで縦に1mくらい飛べるぞ。それに、こぶしを振り切れば木も折れるかもしれない。耳もすましてみるとかすかに悲鳴のような声が聞こえた気がする。
「てか今のは悲鳴だな。どこからだ?」
さらに耳をすませる。北の方から聞こえる!
「急いでいくか。間に合わなくなったらことだからな」
心の中の、異世界での繋がりを作るチャンスだという下心は声には出さないでおく。
木や草、時々見る変な生物は無視して声の方へ走っていく。
近づいてきたのかだんだんと声が聞こえるようになった。
「あんたらには悪いが死んでもらう。悪く思うなよ」
「そーゆうわけだ。おとなしくしててくれよ」
これは襲ってる側だな。襲われてる方は男なのか女なのかどっちなんだ!
「貴様ら私が誰だかわかっているだろう!こんなことをすればお前たちだけでなく、家族にまで影響が出るのだぞ。わかったならやめろ。それならばまだ許してやる」
これは……男の声だな、残念だ。美少女な女の子なんていなかったんだ。
落胆の気持ちもあるがそれでもつながりはできると気持ちを持ち直す。
「あんたらがここで死んだら俺たちがやったなんて証拠も残らないだろ。だから観念してくれ」
「頼む!金ならやる」
助けるだけで金まで貰えるのか。
なら、やるしかないよな
貴様ら、そこまでだ。なんていうわけもなく、近くにいた男を後ろから蹴り飛ばす。
「ほいっと」
呆気に取られて固まっているうちに隣にいた男も殴り飛ばしておく。これで二人。
そこまできてようやく事態を理解したのか男たちは俺に注意を向け、話しかけてきた。
「何者だ貴様。いや、そんなことはどうでもいい。怪我をしたくなかったら邪魔をするな」
「そうだ。変な格好をしているがお前も平民だろ、だったらわかるだろ」
どうでもいい男たちは無視をして馬車のそばで青ざめた表情をして座り込んでいる男に話しかける。
「助けてやれば本当に金をもらえるんだろうな」
さっきの言葉も聞いていたが一応念押ししておく。
「あ、ああ。本当に助けてくれるのならば出す」
これで本決まりだ。残りの男たちは三人。また話しかけようとしている男たちの内、腰に手を当てていない一番左のやつから倒すことにする。
「三人目!」
懐に飛び込み殴りつける。男は全く反応できずに吹っ飛ぶ。そこまで来てついに男たちは剣を抜いた。
切っ先がこちらを向いている。さすがに少しの恐怖を感じたが、
思ったよりも怖くないな。日本でいえば包丁を向けられてるようなもんなのに、一度死んで恐怖に耐性でも付いたのか?
「はあっ」
鋭い踏み込みで男は剣を振り下ろしてくる。それをかいくぐり男の顔をカウンター気味に殴りつける。
相当鍛えてるんだろうが俺には遅く見えるな。少し罪悪感もわくが人を襲っているのはこいつらだしな。
「ならば、こいつだけでも」
俺が少しの間考え込んでいる間にもう一人の男が依頼人に向けて駆け出し、剣を横なぎにしていた。
俺は超人としての力をフルに使い体を回転させながら回し蹴りを食らわせる。
「ぐはっ」
男は鎧も砕けたのか破片をまき散らして沈んでいった。
「これで終わりかな」
周りを見渡しても敵の姿は見えないし、本当に終わったとみてもいいな。いまだにへたり込んでいる依頼人い声をかける。
「怪我はないですか?」
大事な依頼人兼繋がり怪我でもされてへそを曲げられても困るからな。
男は立ち上がり赤みを取り戻した顔で答えた。
「ああ、本当に助かったよ。突然こいつらに襲われてな、騎士は何人かやられると他のは逃げ出してしまったてな。あの、恩知らずどもめが」
騎士が雇い主を置いて逃げ出すなんてこいつらは相当強かったのか?確かに鍛えこんではいたが騎士にまでなったやつらより強いなんて信じられないんだが。
「そういえばまだ名乗っていなかったな。私はカトリー家の長、シュペッツル・カトリーだ。今回は本当に世話になった。金を渡すだけではこの恩は返しきれん。ぜひ我が家に招待したい」
この人貴族だったのか。想像以上の結果に心の中で女神さまに感謝の言葉を送る。
最高の瞬間に送ってくれてありがとうございます。
「願ってもないことです。貴族様の家に招待されるなんて」
カトリー家ね、シュペッツルさんの身なりや馬車を見る限り結構大きそうな家だと思うけど。
それにしてもサラサラの金髪に整った顔、立派な髭。この人の家族は美男美女が多いんだろうな。
と考えていると、
「あの、お父様。もう外に出ても大丈夫でしょうか」
透き通るような女の声が馬車から聞こえた。