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異世界、転生します

 張りのある人生。そんなものを送ることは果たしてできるのだろうか?


 公立の中学を卒業し、県立の高校に入学。金がないという親の声を聞き決めた進学先。高校でできる数が少ないながらも新しい友人。そして恋もすることなく過ぎていく一年。進級、そして進級。三年になり迎えた受験の不安。国立を頼むという親。夏休み、受験勉強に追われる日々。冬休み、最後の追い込み。センター、そして二次。親の頼みを聞きながら選んだ試験の帰り。最後に見た光景は、自分に迫ってくるトラックの姿だった。



 俺は、死んだのか。真っ暗の視界の中でそんなことを最初に思ったのは当然だった。今でも最後の光景は鮮明に思い出せる。


(あれは怖かったな)


 自分の人生の中でも一番、衝撃的な出来事だった。まぁ、その人生ももう終わってしまったわけなんだが。


(にしてもどうして意識があるんだ?もしかしてまだ死んでなくて体が動かないだけなのか?)


 そんな希望的観測をへし折ったのは、聞いただけで虜になってしまいそうな女性の声だった。


「そんなことないわよ。ちゃんとあなたは死んでるわ」


(ちくしょうっ!やっぱり死んでんのかよ。てか、この声なんなんだよ。めっちゃいい声だけど)


 そんな俺の心の声も聞こえるのか


「あら、ありがと。でも、その言葉は聞き飽きたわ。だから本題に入りましょう」


(本題?なんのことだ……)


 俺の疑問に答えるように声の主が教えてくれた。


「あなた……いえ、石川次郎吉(いしかわじろきち)くん。あなたは転生者に選ばれたのよ!」


(てんせいしゃ?転生者か!それって生き返るってことですか?)


 その言葉を聞いたとたん心臓の鼓動が早くなった気がした。……ほんとに気がしただけだが。


「そうよ、そんなに珍しいことじゃないわ。それと、そろそろ目が覚めると思うから」


 まぶたに光が当たってるような気がする。俺は恐る恐る目を開けてみた。そこに広がるのは……


 ただの真っ白い空間だった。そこには神がいそうな神殿も、その神が座るような豪華な椅子もなく、ただただ白い空間が広がっていた。そんな俺の心も読まれたのか、


「ここは転生者を迎える玄関のようなものよ。今から移動するわね。」


 するとそこにはいくつもの球体と扉、そして椅子があった。椅子はとても豪華だがそれだけ。ほかには何もない。


「さて、もう一回いうけどあなたは転生者に選ばれたの。納得してもらえる? してもらわなくてもいまさらかわらないけどね」


 なら聞くな。という言葉はしまい込み自分の状態を確認することにする。


「俺が死んだのはわかりました。それなら俺が死んだあとのことを教えてください」


 親が悲しんでいるということくらいは聞きたかった。俺は愛されていたんだと。だが……


「いやよ、面倒だわ。それに死んだんだから関係ないじゃない。」


 返ってきたのはそっけないというか、あっけないというか、そんな気のするような言葉だった。行ってきた本人?は待ったか気にしていない。怒りがわきかけたが強引に抑えた。


「ならどうして俺が転生者に選ばれたんですか?」


 これは二番目に聞きたかったことだ。交通事故で死亡というありふれた俺にどうしてそんな幸運が回ってきたのか、それを知りたい。女神であろう彼女からの答えを待つ。


「だから、運が良かったのよ。それに言ったでしょう? そんなに珍しいことじゃないって。私はもう何回もここで転生者を送ってきたわ。……もういいでしょう、これから異世界に行くときのおまけをあげるわ。


「おまけ? ですか……。いったいなんですか?」


 知りたかった答えがあまりにも単純すぎたため一瞬何を言ってるかわからなかったが、たしかに異世界転生では何かしらのスキルがもらえるものが多かった。俺の場合もその例に当てはまるようだ。


「何か要望はあるかしら? ある程度は叶えてあげられるけど……、とんでもないのは無しよ。そうねぇ、不老不死や無敵になりたい、みたいなのはちょっとやりすぎだと思うわ」


 何か欲しい力、か……そんなとんでもないものは初めから望む気はなかったし……。よしっ


「じゃあ、ある程度高めのスペックを持った体を用意してもらえたりとかは……できますかね?」


「ふーん、そんなものでいいのね。なら超人とかの力でいいでしょ、それと私からサービスでもうちょっと力をあげとくから。がんばってね」


「サービスって……、何をいただけたんですか?」


 どんな力をもらったのか知りたかったんだけど、


「秘密よ、ヒ・ミ・ツ! 向こうについたらわかるから。さて、もういいかしら? そろそろ旅立ちの時間だけど」


 送られる前に俺は聞きたかったことその3を聞いてみる。


「俺は異世界に行ったら何をしたらいいんですか?」


 そう、俺はまだ異世界で何をするのか聞いていない。魔王を倒せばいいのか、姫を取り返せばいいのか、国を救えばいいのか、それとも、もっとほかのことなのか。


「さあ? 好きに生きればいいじゃない。面白おかしく生きるのもいいし、まったり過ごすのもいいわよ。あなたの人生なんだから、あなたが決めなさい」


 まさに神からの啓示だった。好きに生きるなんてのはとても難しい。今の世の中、好きに生きようとおもっても法律とかの縛りで結局はあきらめるしかない。それを異世界でならできるというのだ。


「でもおすすめは面白おかしく生きるかな。平凡に生きるなんてつまらないでしょうから」


 その時の女神の表情の中には、少しだけあきらめの感情が見えた気がした。


「それじゃ、飛ばすわよ。がんばってね、石川次郎吉くん」


 その顔が気になり最後の質問をした。


「女神さまは……今、つまらないんですか?」


「また質問? まあ、いいわ。質問に答えましょう」


 その答えは……


「今は、楽しいわ。まだね……だから、楽しませてねっ」


 その声を聞いた途端、体が光に包まれ、俺は意識を失った。


 





 






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