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ウィザード・オブ・ビギナーアーツ  作者: 九条智樹
第二章 What have I fought for? 「その幸せを他人にまで押し付けるんじゃねぇよ!!」
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第8話 「永遠の愛をですか!?」


「さて。本当に住み込みで働くことが確定してしまった以上、必要なものは何だ?」


 朝食も済ませた一基が、真咲を前に問いかける。ちなみに、今日の営業は休日に設定した。元々調査があれば事務所を空けねばならない為不定休にしているので、特に問題はない。


「一基様との愛」


「違う」


 真咲がきっちり言い終えるより先に一基は否定する。


「家具だよ、家具。今は俺のベッド貸してるけど、流石にずっとソファで寝るのは肩とか腰に良くない」


「別にわたしは一基様と同じベッドでも――」


「アホなこと言ってんじゃねぇよ。だいたい替えの服もほとんど持ってきてねぇだろ、お前。全体的に住み込みで働こうって言うのに荷物がなさ過ぎんだよ」


「だって一基様のご迷惑になるかと……」


「迷惑を気にするなら、もっと手前に引っ掛かるべきポイントはあったと思うんだ……。とにかく、そんな訳で今日の午後は買い物に当てる」


「……つつつ、つまりデートですか!?」


「うん、違うな」


 一人テンパっている真咲の脳天にチョップを入れて黙らせ、一基は応接室にある本棚に手をかける。


「さ、流石にそこの分厚い本でツッコまれたら頭蓋骨が……」


「アホか。買い物行く前に、やっとかなきゃいけねぇことがあるんだよ」


 二段構造になっているその本棚をスライドし、奥の方を曝け出す。

 そこにあったのは、さらに分厚い本ばかりだ。羊皮紙で装丁されているような、やたらめったら高級感を漂わせているものもある。


「あの、それは……?」


「魔道書。色んな魔術のプログラムが載ってる本だ。――っと、あったあった」


 真咲の問いに答えながら、一基は一冊の本を取り出す。数ある魔道書の中でも、とりわけ分厚いものだ。


「出かけるにしても、身の安全を確保しなきゃいけねぇからな。最低限の盾を手に入れてもらうぞ」


「魔術を教えて下さるんですか!?」


「その手前だ」


 そう言って一基はその本のタイトルを指し示す。Evocation Magicすなわち喚起魔術だ。


「今から使い魔と契約してもらう。そうすれば、魔術以外で危害を及ぼされる可能性は皆無になるから」


「わたしロボちゃんみたいな使い魔がいいです!」


「要望出すの早ぇよ……。あとあのオオカミ、最上級使い魔だからここでの喚起は無理だ」


 そう言いながら、コツコツと一基は魔道書を叩く。


「今から、お前と俺の使い魔との間に仮契約を結ぶ。で、その使い魔に自力でこの中の喚起魔術から好きなのを選んでインストールして発動しろ。お前専用の使い魔が手に入り次第、俺の使い魔との契約は切っておく」


「……使い魔の召喚に使い魔が要るんですか?」


「そうだよ。使い魔の喚起だって魔術の一つだ。使い魔なしに魔術を行使できたのは、現代魔術の始祖くらいのもんだ。今ある使い魔も全部元を辿ればあの人に行きつくしな。――まぁここらへんは、IC作るのにコンピュータが要るのと似たようなもん……なのかな」


「へぇ、大変なんですねぇ……」


「ちなみに、上級下級に関わらず喚起魔術は変数をほとんど必要としない。生み出す側の使い魔の出力――いわゆる魔力にだけ左右される。俺の剣はセレーナのロボを借りて作ったから、かなりの上位にある。少なくともその本の中にある使い魔なら全部再現できるぞ」


「より取り見取りですか」


「ただし、インストールする際の言語的ミスが多いほど使い魔のランクは下がる。初心者のお前なら、無事に喚起できれば御の字だ」


「が、頑張ります……っ」


 そう言いながら真咲は手渡された魔道書をぺらぺらとめくる。真剣な様子の真咲の邪魔をしないよう、彼女が選び終わるまで一基はそっとしておくことにした。


     *


「……で、だ」


「はい」


「俺言ったよね? ミスが多いほど使い魔のランクは下がるって」


「はい」


「じゃあ何でそんなクッソ難易度高いのを選んでるんですかね……」


 そう言って一基が肩を落とす前で、真咲は魔道書の一ページを指し示していた。

 そこに描かれたイラストは、一匹の狐だった。だが、その尻尾は九つに分かれている。しかも可愛い見た目をしておらず、巨大で禍々しい気配を纏っている。

 素人どころか子供が見たって、これがどんな使い魔かなど一目で分かる。


「九尾の狐なんつう幻獣級の使い魔とか、俺の剣で喚起できるギリギリのレベルだぞ」


「でも、ふかふかです。ふかふかが九つです」


 真咲はそう言って、イラストに描かれた狐のしっぽを指差す。

 どうやら、先程のロボとの触れ合いで動物の毛並みの虜になってしまったらしい。正直そんな『見た目が可愛いからぬいぐるみにスマホ入れてみようと思う』的なノリで使い魔を決めるなど馬鹿げている。――馬鹿げているが、しかし真咲は戦闘をする為に魔術師になる訳ではない。それくらいのファッション性は許容しても問題ないだろう。


「……俺は手伝わないから、自分で喚起できるんならやってみなさい」


「はい!」


 ペットを飼いたいと言い出す子供に諭すように言ったのだが、真咲は特に気にする様子もなくその魔道書を更に深く読み始めた。

 その間に、一基は自身の使い魔を左腕のホルスターから取り出し、真咲との仮契約を済ませておく。それ自体は特殊なことではなく、ただ一基が使い魔にそう念じるだけで終わる。


「一発勝負な。喚起できないレベルのミスだったら、諦めて他の使い魔を選ぶこと」


「了解しました!」


 ふんす、と鼻息を荒げてやる気を露わにする真咲は、一基の使い魔を握り締めた状態で魔道書のその個所を読み上げる。


(……噛み噛みなんだよなぁ。本当に大丈夫か……?)


 ミスが多いとそれはバグとなり、その部分が使い魔生成時に自動で削除される。使い魔を構成するのに必要な量の情報を保持できなくなれば、生成できずに失敗に終わる。

 だが真咲はそれでも必死に魔術書を読み続ける。

 やがて、最後の一行に達したとき、一基の使い魔が青く光り始める。

 同時、真咲の右胸の辺りから桃色の光が走る。やがて彼女の足元にも、直径一メートルほどの桃色の幾何学模様が浮かぶ。

 そして、小さな煙と共にその中央に使い魔が呼び出される。

 黄金の毛並みを讃えた、一匹の狐だった。そのしっぽも、確かに九つあった。


「……ギリギリ呼び出せたって程度だな」


 だが、その狐のサイズは三〇センチほどしかない。見た目も、どこかのインスタントのカップうどんのキャラクターのぬいぐるみのような、二頭身程度のデフォルメされた存在だ。

 性能と見た目が正比例するという訳でもないが、元々の術式から考えるに、これでは数パーセントほどの性能しか引き出せていないだろう。初級魔術でも半数以上が単体のインストールで容量が足りなくなりかねない。


「……可愛いです。最高に可愛いです」


「あぁ、うん。まぁ契約さえ出来れば魔術師の身は護られるしな。あとは適当に、使い魔が勝手に使えるレベルの煙幕魔術くらいはインストールしとくか。容量ギリギリだろうなぁ……。――あと、勝手にその使い魔の魔術をインストールして魔術を使わないようにな。入れようと思ったら煙幕魔術が消えるし」


「大丈夫です」


「俺の身を縛る魔術を覚えさせて寝込みを襲う、とか、俺を監視する魔術、とかもナシな」


「そそ、そんなこと、しませんよ……?」


「とりあえず目を見て約束しようか」


 九尾のミニ狐を抱え上げたまま、真咲は一基の追及をスルーする。


「そんなことよりも!」


「さておくんじゃねぇ! 今すぐここでちゃんと誓え!」


「永遠の愛をですか!?」


「いつものボケで誤魔化そうとしてんじゃねぇよ!! いいか、絶対に俺に魔術を使うんじゃねぇぞ!!」


「フリですね!」


「違うわ!!」


 結局、一基の言葉に真咲が頷くことは最後までなかった。


     *


 それから、ほんの一時間後のことだ。

 一基の事務所から徒歩に十分圏内にあるショッピングモールを、一基と真咲は訪れていた。

 流石に土曜の昼間と言うこともあって、そこはむせ返るほどの人で賑わっていた。歩き方一つとっても注意しなければ、すれ違う人と肩がぶつかりそうだ。

 そんな中で、一基はこの浮足立った雰囲気に似合わず仏頂面で真咲の横を歩いていた。


「……普通、二十四と十六の男女が一緒にいたら、デートには見えないだろうと思ってたんだ。もっと『どんな関係なんだろう……?』的な、好奇の視線があって然るべきだろ」


「全然ないですねぇ。逆に同年代のデートにしか見られてない気がします。最高です」


 さりげなくガッツポーズしている真咲はさておくとして、一基としてはこの状況は面白くないことこの上ない。むしろスーツを着ているせいで『男の子の方が変に背伸びをしてしまった』ような目で見られている始末だ。

 もちろん、周囲の目を気にして真咲にはメイド服ではなく普段着を着るよう命じてある。いっそメイド服の方が、今の失礼な視線を浴びずに済んだのだろうが。


「……帰りたい」


「そんな子供みたいなこと言わないで下さいよ、ただでさえ身長が――」


「お前、実はさりげなく俺に喧嘩売ってるだろ? そうなんだろ?」


 眉間に深い皺を刻んだ状態で、一基は真咲に引きつった笑みを向ける。その視線の脅迫に気圧された真咲が、露骨に視線を逸らして口笛を吹いてごまかす。


「だいたい」


 そう言って、一基は真咲のカバンを指差す。


「買い物にまで使い魔連れてくるなよ……。おかげでちらっと店を見るだけでも店員さんの目が冷たいだろ。アパレルショップなんて特に動物の毛にうるさいんだから」


「でもコンちゃんはわたしの大事なパートナーです」


「コンって、もう名前まで付けたのかよ……」


 一基が呆れたように言うと、真咲の手にあるカバンから件の小さな獣がぴょこんと顔を出した。ぱっと見、ほとんどぬいぐるみだがその細かな動作は生きているそれだ。


「あ、パートナーと言っても魔術的な意味で、私生活的な意味のパートナーは一基様――」


「パートナーじゃねぇよ、神崎・赤の他人・真咲さん」


「変なミドルネームつけるのやめて下さい! あと赤の他人って言うフレーズ結構傷つきます!」


 怒りながら、ポコポコと真咲は一基の二の腕を殴る。――正直なところ、男女でもっと体格差があれば可愛げがあったのだが、目に見えるほどの大差のないこの状況では、割と痛いだけだったりする。


「……ん?」


 そんな真咲の額をぐいーっと押しやっていると、一基の視線が広い通路の真ん中にあるベンチを捉える。休憩したいとかではなく、そこできらりと光を反射するものを見つけたからだ。

 真咲の攻撃に耐えながら傍によってその原因を調べると、それはライターのような金属の塊だった。

 そして、あの『浄化の星』のペンタグラムと同じものが刻まれている。


(こんなところにまで呪術の半径を広げてるって言うのか……ッ!?)


 驚愕と憎悪を厚い面の皮の下に滲ませて、一基はその魔術補助装置を握り締め、ポケットの中で砕く。


「……どうかしました?」


「何でもねぇよ」


 これ一つでどこまで有効範囲を広げるのかは一基には判断しかねるが、かなり危険な呪術になることには変わりない。だが、ただの探偵でしかない一基にはどうすることも出来ない。真咲の不安を無駄に煽るような真似をする必要はないだろう。

 そう判断して、一基はすぐに平静を装いながら、まだ周囲に予備の補助装置があるのではないか、と一基は辺りを見渡す。

 だがそれらしい金属は見つけられない。予備までは設置していなかったのだろうか。

 そう判断して、無用な警戒を切り上げようとした矢先だった。

 一基の視界の端に、ある人影がよぎる。


「――ッ!?」


 思わずそれを追って振り返る。だが、その人影はすぐに曲がり角へと消えて行ってしまった。

 だがその微かに見えた後姿は、見覚えがあった。

 金色の髪を揺らし、黒いコートに身を包んだその姿は。


(セレーナ……っ? 何で、こんなところに……)


 騎士団の団長を張る彼女が、単身でこんな場所をうろつくとは考えられない。そもそも仕事で日本に来ている以上、こんなショッピングモールをうろつく時間などないはずだ。

 では、いったいどうして?

 そう深く考え込もうとした一基は、ようやくのように、自分の横で真咲がむぅっと睨んでいることに気付いた。


「……どうした?」


「また女の人にでも見とれたんですか。デート中だって言ってるのに」


「アホか……」


 呆れたようにため息をついて、一基は今の通りすがった女性に対する思考を打ち切った。冷静に考えれば彼女がセレーナだという確証はまだないのだ。たまたまそっくりな人の可能性だってある。ちらりと見えただけでは、流石に断定するには弱い。

 深く考えすぎては泥沼だ。何かあれば、また彼女の方から話があるだろう。そう考えて、一基は日常へと思考をシフトさせた。


「ともかく、さくっと買う物だけ買って帰るか」


「もっとデートを楽しみましょうよ……」


「恋人作ってそいつと楽しめ。ちなみに俺のストライクゾーンは年上の女性だ」


「まるで日常会話のようにさりげなくフラれた!?」


 涙目になる真咲を放っておいて、一基は予定通りにマットレスや枕を扱う専門店に向かう。アウトレットモールとはいえ、ただの服やカバンの店以外にも多様な店があるのである。


「俺は入り口で待ってるから」


「えぇ、一緒に選んでくださいよ」


「コンを連れてきたお前の責任だ」


 そう言って一基はひょいと真咲のカバンを引っ手繰る。中に納められたマスコット的使い魔は、「キュ?」と鳴いて可愛らしく小首を傾げている。


「……コンちゃんがここに来てわたしと一基様の仲を引き裂くだなんて……っ」


「アホ言ってないで買ってこい」


 そう言って追い払うように、一基は真咲を店内に放り込んだ。最後まで入り口付近で粘るように真咲は不貞腐れていたが、やがて「速攻で買えばデートの続きが出来る!」とか何とか呟いて、さっさと店の奥に消えた。

 その、僅か十分後である。


「……なぁ、この折り畳みベッドの定価って、いくらだっけ?」


 本当にさくっと買い物を済ませた真咲に対し、ただ一基はその荷物を前に戸惑った表情を浮かべているばかりだった。

 それは何もおかしなものを買ってきたとか、べらぼうに高いとか、そういう方向ではない。


「アウトレットなので定価は分かりませんけど、やっぱりブランドですし高いと思いますよ。正直もっと安いもので良かったんですけど、ショッピングモールってブランド店しかないから」


「いや、連れてきたのは俺だから値段は気にしなくていいんだ。そこは全然気にしなくていいんだ、むしろ逆だ」


 一基の手に握られた重い箱には、値札が付いている。アウトレット品と言うことだからか旧型モデルと言うことだからか、元々でも四〇%オフなんていう破格の割引が書かれていたのだが、それでも万を超えていたはずだった。

 が、赤いペンで更にその上から殴り書かれている数字は更にその半分だった。

 恐ろしいほどの手腕で、値切り品をさらに値切ってきたのである。

 これはもう、一基も驚嘆するほかない。


「……このまま夕飯の買い物もしない?」


「今日はお魚がお安いそうなので、もう少し頑張ってみますね」


 一基の意図を察知した真咲は、にこやかにほほ笑みながら言う。

 思えば、一基に雇わせる為に相当強引なところを見せてきた彼女だ。若くて可愛い見た目とその図々しさを合わせれば、負けられない商品などこの世にないのではないだろうか、と一基は半ば真剣に考える。


「ふふふ。一基様のお役に立てますね。――あっ」


 そんなことを考えていた一基の横で、ふらっと真咲が足をもつれさせていた。反射的に一基が抱き止めていなければ、そのまま倒れてしまいかねないくらいバランスを崩していた。


「アホなこと言ってるから躓くんだ」


「……抱き締めていただけたのでむしろ我ながらグッジョブ」


 ぐっ、と小さく拳を握り締める真咲に、一基は深いため息をつく。


「躓いたんじゃなくて頭がおかしかったか。買い物せずにさっさと帰って安静にしな」


「あぁ!? せっかくもう少しデートを引き延ばせるチャンスだったのに!?」


 馬鹿な真咲は放っておいて、一基はさっさと歩き出すのだった。



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