第10話 「まさか、知らなかったの……?」
いくら待っても、まどろみが訪れることはない。
隣では、真咲が幸せそうな寝息を立てている。添い寝だ何だと言っておきながら、あっという間に眠ってしまったのだから本末転倒だろう。
(もう起きてもいいんだろうけど)
しかし、真咲の手は一基の手を握り締めたままだった。赤子のように、しっかりと握ってしまって離す気配はない。無理に離そうとすれば真咲を目覚めさせてしまって、また一悶着だ。
諦めて、一基は天井を仰ぐ。
身体は疲れている。ショッピングモールに少女と一緒に買い物、という慣れない行為のせいだろう。ただ調査対象を尾行するよりもよっぽど疲労感がある。
けれど、眠ろうとすると脳を蝕むようにあの日の記憶がフラッシュバックする。
誰も救えず、ただ死する様を眺めるしか出来なかった自分が、こんなありきたりな幸せに浸ろうとする。そのことを、全身の細胞が拒むかのように。
「……分かってる」
思わず、声に出して呟く。眼底の奥で棘の生えた虫が這いずり回っているかのような、不快感と痛みが疼く。
「……赦してくれとは言わない」
赦されていいはずがない。そんな軽いものじゃない。
失われた命は、二度と戻って来ない。家族揃って無事、五体満足、そんな人は一人もいなかった。みな何かしらの傷を背負って生き続けなければいけなかった。
そんな状態に追いやったのは、確かに『浄化の星』の団員だ。
だが、それを止めるのは独立十字騎士団の役目で、東雲一基の生き様でもあった。
それを失敗しておいて、八年かそこらで普通の生活に戻ろうなんて、おこがましいにも程がある。死んでしまった人、残されてしまった人。それら全ての憎悪や悲哀を、一基は背負い続けていかなくてはいけない。
「……もし、俺を赦してくれるって言うんなら」
真咲に触れられた手とは違う手を、一基は固く握り締める。爪が食い込んで、血が滲みかねないほどに。
「俺が『浄化の星』を叩き潰したときにしてくれ」
獣の唸るような声で、一基は呟く。その決意を憎悪に変えて、片時も忘れぬよう流れる血液と同化させる。
そのときだった。
「それは困るな」
声が響く。
聞き覚えのない、男の声だった。
「――ッ!?」
反射的に一基は剣の使い魔を抜き放つ。睡眠時であろうと肌身離さず使い魔を常備するのは、騎士団所属だったなら当然のことだ。
突然手を弾かれたように離された真咲が、横で瞼をこすりながら寝ぼけた様子で状況を把握していく。それをちらりと確認しながら、一基は敵の正体と現状を冷静に分析しようとする。
――が。
「まさかとは思うが、君ごときでは私には勝てない。私の声が聞こえているという時点で、君たちは私の術中だ」
男の声に、一基は悔しげに顔を歪める。
遠隔発動の呪術系の何かで、こちらの映像と向こうの声を繋いでいるのだろう。これが発動しているということは、向こうには一基と真咲の正確な位置座標を特定しているということになる。
その気になれば、発動する魔術を切り替えるだけで一基も真咲も呪術に侵される。
「問題は、そもそもこいつの魔術を発動する為の俺たちの座標をどこで特定して、捕捉を続けていたか。流石の俺もそれに気付かないほど鈍った訳じゃないとは思うが。女ライダーと戦ってた時か、それとも、ショッピングモールか」
「さぁて」
「それとも、そもそも魔術なんか使っていないか」
そう言って、一基は真咲を抱え上げて自室の扉を蹴った。寝ぼけた真咲が「ふぇ!? か、一基様!?」と頓狂な声を上げているが、そんなことは無視する。
ついでに、ベッドの脇で丸まっていた狐の使い魔も引っ掴んでそのまま階段を駆け上がり、靴を履いてそのまま外へと飛び出す。
星一つ見えない曇った夜空の下で、一基はただ殺意を漲らせて使い魔を振りかざす。
「魔術畑の奴に不安を与えるには十分だろうけどな。生憎、こっちの本業は探偵だぞ。窓ガラスや壁を使った盗聴とスピーカーの機材なんて、完全にうちの領分だ」
もちろん、罪に問われる為一基自身がそれを使って解決することはない。ただ依頼人が自分で調査する際に扱えるものとして、知識を得ているだけだ。
「……どうやら、素人ではないらしい」
「相手に動揺を与える方法としては、一番効率的だ。まして相手が呪術使いだと分かっていれば、座標の特定は致命傷。焦らないでいる方が難しい」
そして、一基は外階段の下に一人佇む男を睨む。
過剰なほどに整え上げられた美貌を持った、背の高い線の細い青年だ。身に纏うのはワイシャツに白衣のような裾の長いコート。元の病的な白さの肌と相まって、それは深夜の闇夜の中で、不気味なほどに映えて見えた。
だが、彼の内面はおそらくそんな綺麗なものではない。溢れ出ている殺気が肌にビリビリと突き刺さっている。生まれたばかりの使い魔であるコンでさえ、彼の姿を見た瞬間から唸り声を上げているほどに。
だがそれでも、一基は全く臆さない。
むしろ、眼下の男を凌駕するほどの殺気を滾らせてさえいた。
「女ライダーを撃破したのが元騎士団員で、しかも本物の独立十字騎士団まで動いてる。そんな中で攻撃を仕掛ける魔術師となれば、よほどの馬鹿か――あるいは、それでもなお勝利を確信できる高位魔術師か」
男を見下ろしたまま一基は真咲を自身の背後に隠し、そして吠える。
「後者だとしたら、テメェは最高の得物だぜ『浄化の星』!」
「話が早くて助かるよ、東雲一基」
二人の魔術師が対峙する。
片や、最強の魔術結社に属していただけの最弱の魔術師。
もう一人は、その騎士団にひと泡吹かせた呪術系結社の中でも最上位の魔術師。
勝敗なんて目に見えている。それでも、一基は刃を放さない。
真咲とコンを後ろに下がらせ、一基はそのまま二階の玄関から飛び降りて、使い魔を振り下ろした。
男に躱され、使い魔はただアスファルトを切り裂く。だが、そこで終わるほど一基は甘くない。返す刃で即座に白い男へと切り上げて見せる。
しかし相手は呪術系結社とは言え、幹部クラスの魔術師だ。とっさに障壁を展開したか、その剣は男の眼前で受け止められた。
僅か十五センチほどの距離で、東雲一基と男の視線が交差する。
「呪術師相手に近接戦闘か。愚の骨頂だな」
「呪術師に一番有効なのは、こちらの姿が見られる前の狙撃だろ。今さらそんな手は使えないんだ。だったら、俺の得意な分野でやらせてもらう」
ぎちぎちと、ただの筋力だけで一基はその障壁を押していく。
「――ッ! 無芸の名は伊達ではないか」
「テメェこそ呪術師の癖に、クソ硬ェ障壁張りやがって……っ!」
本来、並の魔術師が張った障壁程度なら、使い魔の硬度を操作するだけで、あとは一基の腕力で粉砕できる。それを拒むという時点で、魔力差を思い知らされる。
「だが、この至近距離で戦うことの危険性を知るべきだ」
あと一歩で押し切れると言う、その寸前。
一基の全身が、ぞわりと粟立つ。
本能にも近い直感に従って、一基は即座に後方へと飛び退る。同時、何かもやのようなものが男の周囲に漂っているのが見える。
「殺気だけで回避されるとはな。――だが、この《影喰らい》を前にしてはなかなか近付けないだろう?」
勝ち誇ったような男の笑みに、しかし一基は何も言えなかった。
この深い宵闇の中では、《影喰らい》特有の黒い気体は視認しづらい。躱すにしても吹き散らすにしても、僅かに反応が遅れるだけで致命傷だ。ただの障壁であの堅さなら、得意の中級呪術なら下手な上級魔術にすら匹敵し得るはずだ。
「……流石に、襲撃するだけあって作戦は練って来てるか」
「悠長に語るのは良いが。――呪術師の前に姿を晒している時点で、その危険度を理解したらどうだ?」
瞬間、一基は息苦しさを感じた。何らかの呪術で一基の呼吸を妨げているのだ。
(見てるだけで座標を特定して呪術の発動か……っ!? 幹部クラスの呪術師はこんなに強いのかよ……ッ!)
咄嗟に脚力を増加させ、男の視界から遠ざかる。座標の特定が切れたせいか、途端に肺が回り、夜の冷たい空気が染み渡る。
「ただの移動ですら目を剥く速度だな。無芸の名を持ちながら、幼少期を独立十字騎士団で過ごしていただけはある」
「ごちゃごちゃ喋ってる暇なんかあるのかよ」
「あぁ、そうだな。騎士団の応援が来る前にケリを付けよう」
同時、拳一つで白い男は一基へと立ち向かってくる。
初級魔術、それも近接戦闘に特化した一基にしてみれば、それは容易く切り込める。だが、相手が《影喰らい》を纏っているとなれば話は別だ。
斬り込んだその刹那であろうとその黒い影に呑まれてしまえば、神経を奪われる。幹部候補となれば、与えられる激痛は正気を保つことさえ許さないだろう。
迂闊に近づくことさえ出来ない一基は、そのただの拳でさえ躱さざるを得ない。
足捌きだけで巧みに男を翻弄しながら、呪術の発動の為の座標特定を封じる程度しか、今の一基に出来ることはない。
状況を打破する一手が、一基には致命的に足りないのだ。
こう着状態は、長く続くかのように思われた。相性もあるが、互いの実力がかけ離れていないどころか、かなり高いレベルで拮抗しているのだ。それは当然、仕方のないことのはずだった。
だが、終焉は訪れる。
どさり、と、何かが崩れ落ちる音があった。
東雲一基ではない。
眼前の『浄化の星』の幹部でもない。
それは。
神崎真咲が倒れた音だ。
「――は?」
理解が、追いつかなかった。
だが視線を玄関へと戻した一基の瞳には、無情な光景だけが合った。
眠りに落ちたように、神崎真咲の身体が冷たい金属の踊り場に投げ出されているのだ。
あるいは。
何かの糸が切れてしまったかのように。
「おい……ッ! おい、真咲!? 大丈夫か!?」
そしてようやく、一基は彼女が気を失ったのだと気付く。『浄化の星』など気にも留めず、一足で一階部分を飛び越えて駆け寄った。
脈拍を確認すれば、普通に鼓動は生きていた。ただ、意識だけが刈り取られたように失われていた。
原因など知らない。
だが、眼下には『浄化の星』の幹部がいる。
それだけで十分だ。
「……テメェか」
ゆらり、と。
東雲一基は立ち上がる。
「テメェがやったのか、『浄化の星』!!」
激昂する一基に、真っ白な男は冷ややかに言う。
「まさか、気付いていなかったのか?」
その言葉が決定的となった。
一基は飛び降り、刃を振るう。
周囲の《影喰らい》など知ったことではない。常に窒素を噴出させ続けていれば、呪術として機能できる濃度を保てやしないだろう。その分だけ一基の魔術的演算領域が圧迫されるが、そんなことはどうでもいい。
元々、魔術で戦うことは一基の本分ではない。
ただ握り締めた拳で悪意を粉砕し、手にした刃で敵を切り裂く。それこそが、無芸としての一基の矜持だ。
だが、今のそれは余りに粗暴だった。
隙だらけなどというレベルではない。それは騎士団で培った戦闘などでは決してなく、ただの無様な喧嘩に過ぎなかった。
めちゃくちゃに振り回す剣閃はあまりに鈍く、格闘に秀でている訳ではないだろう男にすら容易く躱され続けてしまう。
「――詰まらんな」
呆れたように男が呟くと同時。
一基が握り締めていた剣の使い魔が、真横から殴り飛ばされた。
カラカラとその剣はアスファルトの上を転がっていく。決して手の届く距離ではない。
絶体絶命だった。魔術すら使えないこのタイミングでは、男のいかなる攻撃も一基は対処できない。
ぎりっと、砕けそうに歯を食いしばり、自らの無力を嘆く。
「終わりにするぞ、東雲一基」
男が、黒い影を纏った拳を振りかぶる。
だがその拳が振り抜かれるよりも先に、一陣の風があった。
「私の大事な弟に手を上げようだなんて、いい度胸ね」
聞き覚えのある声の直後。眼球を突き刺すような光の爆発があった。
暴力的なまでの光量のそれが消えた後、一基と男の中間にあるアスファルトが一直線に抉り取られていた。その淵は真っ赤に燃え、煙を吐いている。
まるでレーザー兵器のような――というよりも、全くそれと同じだけの一撃だった。
「ただ光を生み出す初級魔術に手を加えて、兵器さながらの中級魔術にまで昇華させる。聞きしに勝る腕前だな。――セレーナ・ローゼンクロイツ」
白い男は、その一撃だけで声の主を看破してみせた。
その声に応じるように、宵闇の陰から漆黒のロングコートを身に纏った女が姿を現す。
それは独立十字騎士団団長として瞳に正義と責任だけを乗せた、セレーナ・ローゼンクロイツだ。一基の義姉としての優しさなど、もう微塵も感じられない。
「お褒めに与り光栄だけれど、今日は一人じゃないのよね」
セレーナが不敵に笑う。
ざっ、と大地を踏み締めて、セレーナの横に一人の男が立つ。
セレーナと似たようなコート――独立十字騎士団の団服に身を包んだ、一人の青年だ。
彼は黒ぶちの眼鏡をくいっと押し上げ、腰のベルトに繋がった鞘から、一振りのクレイモアを抜き払う。磨き抜かれた刃が、闇を切り裂くように姿を見せた。
その男の名前を、一基は知っていた。
「ジェダイトさん……っ」
名を、ジェダイト・ジェルマン。
かつて、一基が独立十字騎士団にいた頃の一基の教育係だ。随分と親しくしてもらったが、今ではもう一分隊の隊長を務めるほどの猛者だと聞く。
その男が団長と共に前線に出てきたということこそが、事態の深刻さを如実に示している。
「久しぶりの挨拶は省かせてもらうよ、カズキ。――今は、この男を撃破するのが先だ」
眼鏡の男――ジェダイトは、そのまま『浄化の星』の男に刃を向ける。
「……三対一か。これは、私も引かなければいけない場面かな」
「逃がすと思う? 私たち独立十字騎士団が?」
「八年前のテロの主犯を取り逃がしておいて、吠えるなよ」
その言葉が、引き金になった。
安い挑発だとは、理性が理解してくれている。だが、そんなことは無視して一基はそのまま外階段から飛び降りて空中から『浄化の星』の男に斬りかかる。
何らかの魔術による透明な障壁に阻まれるが、それでもなお一基は押し切ろうと力を込めた。
「テメェ、あの日のことを知っているのか……ッ!?」
「あぁ、知っているとも。『浄化の星』が呪術による大量虐殺を目論み、成功してしまった。ただそれだけの事実なのだろう? 表向きには」
「カズキ、下がって」
騎士団のいた頃の習性か、セレーナの声が聞こえる前に呼吸を感じ取り、ワンテンポ早く一基は動く。同時、灰色のオオカミが男に襲いかかる。
だが、白い男はそれもまたひらりと躱す。
流石に『浄化の星』でも幹部クラスの魔術師だけはある。騎士団の戦闘に特化した動きにさえ、難なくついて来ている。
「この程度か、独立十字騎士団とやらは」
「あまり舐めないでくれるかしら」
同時。
何かが炸裂するように、狼の咆哮と共に辺りが真っ白な光に包まれた。
光系魔術を用いたスタングレネードだ。ただの初級魔術でありながら、戦術的な用途で言えば上級魔術なんかよりもよっぽど重宝する。
白い男は目を潰され、呻きながらその場から遠ざかろうとする。だが、その光は炸裂時より光量を落としているとは言え、辺りを煌々と照らし続けている。
《影喰らい》特有の真っ黒い影も、今では呆れるほどはっきりと見えてしまっている。
「……っく。これは、本格的に撤退するしか――」
「そんな訳がないだろう。――《巨狼の縛紐》!!」
ジェダイトがクレイモアの切先を向けると同時、その剣閃からシルクのように光る紐が姿を現し、『浄化の星』の男の身体目がけて伸びていく。
その速度は決して速くはないはずだった。しかし、その紐は既にもう男の足を捕えていた。
「いきなり最上級魔術かよ……っ!」
隣で見ていた一基でさえ驚くほど、容赦のない魔術の選択だった。
《巨狼の縛紐》。最上級魔術にして、『捕縛した』という結果のみを生み出す、ジェダイトの得意とする絶対の拘束魔術だ。
その絹の紐に全身を絡め取られ、白い男は完全に身動きを封じられていた。
「ジェダイト・ジェルマンか。流石に容赦がないな。この局面で自身の切り札を使うとは」
だが、捕縛された男はにやりと笑っていた。
「団長、今すぐ止めを!」
「分かってる!」
ロボを引き連れ、セレーナが男へ跳びかかる。
単純な物理魔法でさえ、ロボ級の魔力となれば致命傷だ。そして単純な魔法ほど、対抗措置は取りづらいはずだ。
だがその瞬間でさえ、男は笑みを絶やさなかった。それはまるで、勝利を確信しているかのように――
「駄目だ!」
何かに気付いた一基が声を荒げる。――だが、間に合わない。
ロボの詰めがその男の皮膚に触れた、その瞬間。
《巨狼の縛紐》に捕えられたはずの男の姿が、真っ黒い巨大な総義歯の化け物に変わる。
「――ッ!?」
セレーナの顔が驚愕に染まる。完全に対応が遅れていた。
だが、一基はその正体を看破していた。
「《歩く箱罠》か!」
自身とそっくりな人形を操り、それが破壊されることで第二段階の発動が起きる高等呪術だ。
一度傷付けば、ずらりと並んだあの牙が対象者を噛み砕く。それも、呪術の塊だ。ただの物理的な破壊だけでなく、人の神経を冒し使い魔にさえバグを埋め込む。
とっさに飛び退ろうとするロボとセレーナを追いかける形で、その牙の化け物が顎を開く。
「吹き飛べ!」
それより僅か早く、一基が使い魔を振りかざし、その背後から化け物を切り裂いた。罠としての意味合いが強いこの呪術は、破壊され術者の操作から離れれば基本的に破壊者以外への迎撃行動は取れない。その上、防御力も皆無だ。
一閃で、その黒い顎は霧のように消失していく。
だが、それは完全に対応が後手に回っていることを指す。
『また会おう、忌まわしき独立十字騎士団の諸君』
声だけが、その場に残る。
既に『浄化の星』の男の姿は見えやしなかった。あるいはそもそも、この場に彼がいたかどうかさえ怪しいが。
「……ジェダイト。あの遠隔操作術式はかなり精密だったわ。おそらく、遠くない位置に潜伏している可能性が高い」
「分かっています、団長。僕は追跡に向かいます」
セレーナの言葉を聞くが早いか、ジェダイトは地面を蹴りつけ姿を消した。言葉通り、あの男を追ったのだろう。
一件落着、とは言えない。
むしろおそらく、これは始まりだ。
「真咲……っ!」
一基がもう一度真咲の元へと戻る。だが、変わらず彼女の意識は失われたままだ。
「ちくしょう、いったい、あいつ何をしたんだ……っ!?」
一基に気取られることなく呪術を発動する隙が、あの戦闘にあったとは思えない。だが、現に真咲はこうして倒れている。
その事実が、一基の心をかき乱していく。
「何してんだセレーナ! 早く救急車を! 真咲に何があったのか――」
「カ、ズキ……?」
一基の言葉に、セレーナは応じない。
その場で呆然と立ち尽くし、ただ信じられないとでも言いたげに、狼狽える一基をじっと見つめていた。
まるで。
一基の反応こそが間違えているとでも言うように。
「まさか、知らなかったの……?」
セレーナは言う。あの浄化の星の団員と全く同じように。
その言葉の意味が、一基は分からなかった。
ぽつり、と。
一つの雨粒が一基の頬を打つ。
「その子、マサキちゃんは――……」




