再会3
俺たちは佐久間さんを自宅へ送り届け解散した。
店はあやめのおじさんが経営していたので訳を話すと佐久間さんとあやめを早めに帰してくれた。今はあやめとも別れ江口と共に事務所に帰っている最中だ。
「どうすればいいんだろう」
突然江口が小さく呟やく。彼も思い人のためになにが出来るか悩んでいるようだった。
「とりあえず相手の懐に飛び込んでみるか…」
「え!?」
「なーに少し様子見にね」
俺はニヒルに笑って見せる。それに江口は少し不安そうな顔をしたが気にせずに事務所に向かった。
翌日スーツをバッチリ決めて俺は校門の前に立っていた。登校する学生と同じく校門を一歩跨ぐと突然声をかけられた。
「そこ、止まりなさい」
見るとジャージにタンクトップといういかにも体育教師っぽい男がそこに立っていた。無駄に焼けた小麦色の肌がむさ苦しさを強調させた。まだ春だというのにこの焼け具合…ただ者ではない。
「この学校に何の用ですか?」
「あー申し訳ありません。私こういうものでして」
俺は慣れた手つきでニセ名刺を差し出す。
「…取材ですか?」
「はい、その通りです。お宅の生徒は良い生徒が多いと評判なので是非とも教育方針など取材をしたいと思いまして」
俺は眼鏡をくいっとあげる。すると太陽の光に反射してキラリと光った。
「しかしそのような話は聞いていませんが…」
「それもそうでしょう。取材をすることはそちら様にはご連絡しておりません。何故なら私は自然の生徒を見たいからです。取材が来ると分かればよく演じ彼らの本質が見えないのです。そちらには大変失礼なことをしたと反省しております」
「はぁ」
「では私はこれで…」
ポカンとしている教師を残し俺は校舎へと向かった。
「この様なものしか用意できなくてすいません」
「いえ、こちらこそ急に押しかけてしまい申し訳ありません」
校長室の中には俺と校長、そして教頭がいる。
教頭はお茶を淹れてくれた。校長は俺の取材に答え始める。そしてひとしきり無駄な取材をしたあと本題を切り出した。
「先生方、裏サイトっていうのをご存じですか?」
「裏サイト?」
校長と教頭は顔を見合わす。どうやら知らないようだ。
「実はですね、この学校にもあるらしいのですよ。それもかなり酷いのが」
「それは…遺憾ですな」
「なんでも噂ではこの学校の生徒が狙われているとか…。最近不登校の生徒が多いのもなにか関係があるのではないでしょうか」
「な…なんでそれを?」
「まあ…あくまで噂ですけどね。それでは失礼します」
俺は校長室を後にした。
帰ろうと廊下を歩いていると、一人の生徒に呼び止められる。
「どうしたんだい?お嬢さん」
「私、佐久間さんと同じクラスの夏目です。佐久間さんから聞きましたあなた探偵なんですよね?」
一応学校に行くことは佐久間さんにも教えていた。でも友達に言うとは思わなかったな。
「ああ、そうだよ」
「悪いことは言いません。佐久間さんに関わらない方がいいですよ…『天罰』は避けられないので……」
「それはどういうこと?」
「助けようとすれば周りにも『天罰』が下るんです。関わらない方がいい…あの人はどこで見てるか分からないから……」
そういうと夏目は走り去った。早く俺から離れなければとばかりに…。
「一体何が起こってるんだよ」
佐久間さんの話だと俺とあった日以来夏目は学校に来なくなったらしい。
俺たちは喫茶店に集合していた。今日は愛理と真也も一緒だ。
真也はあやめと再会したとき「ひぃっティラノちゃんっ!」と怯えた声を出していたが今ではしっかりと打ち解けている。
真也の調べた情報によると裏サイトを運営しているのはなんと学校の生徒だという。しかし映像に写る彼らは覆面などで顔を隠していて誰だかわからない。
そして裏サイトのターゲット名簿に夏目の名前が新たに記入されていた。
「恐らくこのサイトは運営しているやつの暇潰しだろうな」
「許せない、暇潰しの為にこんなひどいことするなんて…絶対許せることじゃないよ!」
あやめの怒りはもっともだ。まるで自分達に大義があるような言葉をいいように使い人を傷つける。許せるわけがない。
「まあ、こんな大それた事をしていても所詮子供だ。サイト主は少しおつむが弱かったな」
「何してるんですか?」
「GPSの逆探知さ…よしっヒットした」
「…さすが真也!天才だな!」
「ただずる賢いだけじゃなかったんだね」
「たまには人の役に立つんですね」
「なんで女性陣は俺に冷たいんだ?」
真也の悲痛の叫びを聞き流し俺たちは逆探知をした住所に向かった。