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迷探偵と初めての依頼  作者: 白石リッキー
11/13

再会

「今日は来ないんじゃないか?」

「今日は平日ですよ?必ず来ます」

「…どうだかなぁ」


俺は喫茶店のオープンスペースで帰宅する人や下校する人で溢れかえる通りを見ながらそう言った。

テーブルを挟んで向かいの席には依頼人がいる。依頼人の名前は江口雅也。江口は腕時計見ながらを首をかしげる。


「おかしいな、いつもならもうここを通ってる時間なのに」

「風邪引いたんじゃないか?なら今日はここで…」

「絶対来ますからもう少し待っててください!」


立ち上がり帰ろうとした俺を江口は少し声を荒げて制止した。

依頼人が納得しないんじゃ帰るに帰れない。

仕方がないので俺は腰を下ろした。

……正直な話今回の仕事は乗り気じゃない。時間を遡ること四時間、事務所に江口が現れた。





『一目惚れ!?』

『はい、その通りです』


俺と愛理は顔を見合わせる。


『いけませんか?』

『いやぁ、別にいけないってことは…なあ?』

『ええ、別に…ねえ?』


そういうと江口は『よかったぁ』とほっと肩を撫で下ろした。

俺の経験上、恋愛などの仕事はろくなものがない。そして今回もそうだった。


『で、江口さん今日はどうしたんですか?』


その問いに江口は「あの」だの「えっと」だのを繰り返しながらもじもじしていたが勇気を振り絞ってこう言った。


『ぼくはあの人のことが知りたい!』




要はストーカーの手伝いだ。

ストーカー事件を解決した後今度はストーカーの手助け…。本当はこんな仕事引き受けたくもなかったが留守を任されている傍ら断るわけにもいかない。とにかく仕事をこなしあの男…留守を任せてどこかに消えた上司を見返してやらなければならないのだ。 だけど正直なところ今回は気が重すぎる。

江口は好きな子の名前を知りたいだけらしいが目的のための行動が駄目だ。


「なあ、やっぱりこれはやめたほうが…」

「いいえ、この方法でいいんです。だってこうでもしないと僕は…ぼくはぁ!」


ガタッと音をたてて立ち上がる江口


「分かったから落ち着け。声がでかいよ、周りの人も見てるし」


そう言うと江口は周りを見て周囲の視線に気づいたのか静になり座った。

この江口くんなかなか情緒不安定で感情の起伏が激しい。今も声がでかいの一言でシュンとして下を向いてしまった。

感情の起伏が激しい上に小心者でマイナス思考ときた。

出会ってからの数時間で彼は俺に欠点をさらけ出しまくる。ここまで来るともう才能だ。


「ほら、とりあえず顔あげてよ。俺君の想い人の顔知らないし」

「…わかりました。あっいました!」


江口の視線を追うと一人の女の子のそこに姿があった。

幼さを残した容姿に肩までキレイに揃えられた髪の毛と大きな瞳が特徴のセーラー服を着た…ん?


「…ねえ江口くん、あの子コスプレかなんかの人?」

「いえ、れっきとした女子高生ですよ?制服着てるじゃないですか」

「いや、そうだけどさ…あれ?君何歳だっけ?」

「21ですけど」


相手の子はどう見ても十五、六くらいだろう。


「……」

「……」


しばしの沈黙。

沈黙の後、彼の瞳から涙が落ちるのと共に沈黙が破られた。


「彼女が二十歳になるまで手は出しません!だから…」


潤んだ瞳で頭を下げる江口。

相手が高校生だと知ってしまった以上色々とヤバイので断ろう。


「分かった。君の言葉を信じて調査を続けよう。会計をしてすぐ追いつくから江口くんは彼女を見失わないように追いかけてくれ」

「はいっわかりました!」


走り去っていく江口。

断ろうとしたがつい母親譲りの優しさがそれを邪魔した。

彼がもし手なんかだして大変なことになったら間接的に俺も悪くなっちゃうじゃないか。

お会計をしている間に一人反省会を終了させて俺は江口の元へ走り出した。

少しすると向こうの方で突っ立っている江口の姿があった。声をかけるとどうやら目の前のお店に入っていったらしい。

お洒落な喫茶店でどこか見覚えのあるその風景は幼い頃の記憶を思い出させた。


「…さん」


たしかあれは小学生の時だったと思う。


「…あきさん」


友達と何度も訪れたはずだ。夢で見た女の子もいたと思


「千秋さん!」

「えっなに?」

「何度も呼んでいたのに気づいてくれないから無視されてるかと思いましたよ」


つい考え事をしてしまった。考え事に集中して声が聞こえなくなるのは俺の悪い癖だ。

しっかりと謝罪をして後、俺は江口と共に喫茶店の中に入った。

喫茶店に入ると俺たちはすぐに窓の近くの席に案内された。店内は落ち着きのある雰囲気が広がっていてコーヒーの良い香りがする。江口はキョロキョロと例の女子高生を探しているがその姿は見つからない。


「本当にここに入ったの?」

「はい、絶対ここです。この目でしっかりと確認しました間違いありません」


江口は目を大きく見開いて指を差した。…なんだそのポーズ。

そうこうしているとウェイトレスの一人が注文を確認しにきた…

と思ったが…


「おいお前ら」


ウェイトレスは俺たちのテーブルの前まで来るとテーブルにバンッと手をおきドスの聞いた声をそう言った。

ウェイトレスの瞳には怒りと憎悪のようなものが燃えている。口を開くと八重歯が顔を覗かせている。

ビビって動けなくなる江口、まるで蛇に睨まれた蛙だ。


「さっきうちのバイトの子が泣きながら店に入ってきたんだ。心当たりあるよな?」

「い…いえ滅相もないそれは何かの間違いで…」

「あぁ?」

「ひぃ!」


勇気を振り絞った江口くん…もう相手の顔も目視出来ないほどまでにビビっている。しかしこのウェイトレス男二人相手に1歩も引かないというよりむしろ圧倒している。


「店の中からずっと見てたけどさぁ、てめえ百花が入ってきてからずっと見てただろうが!」


へえ、あの子の名前百花って言うのか。じゃあ後名字さえ分かれば仕事終わりだな。


「あ…あれは…そのっも、百花さんの…」

「なに気安く下の名前で呼んでんだよ!佐久間さんって言えや!」


あ、名字出てきた。ナイスだウェイトレス!


「おいお前もなんか言ったらどうなんだ!」

「え?おれ??いやいや俺はなにも……」

「私はなぁ、お前みたいに仲間を助けない奴が一番嫌いなんだよ!」


お前の好みなんて知らねえよ!


「ちょっと待ってよ僕達たしかに彼女の事を見ていたけど今回が初めてだよ?それに初対面の相手をそんなストーカーみたいに…」

「嘘つくなよ!私はな、あの子からずっと相談を受けてたんだ。ずっと追いかけてくる男がいるってな」


江口の方を見ると彼は首を振った。彼がそんな度胸がないことは分かっている。

ということは誰か違う人間が佐久間百花をストーキングしているのだろう。とりあえず俺たちの誤解を解かなくては…。

俺はウェイトレスの胸についてるネームプレートを見てそこに書いている名前を呼んだ。


「あの、寺野さんそれは間違いですよ…ん?寺野さん?」


この強気な性格、そしてあの八重歯…。

夢で見た女の子の面影と重なる。そう噛みつきティラノと…。


「もしかして…噛みつきティラノちゃん?」

「え……」

「……」

「……」


これが俺と噛みつきティラノちゃん…寺野あやめとの再会だ。

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